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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

ユニセフ・東ティモール事務所代表 久木田純氏 現地報告会

■日 時 2010年3月11日(木) 午後4時〜5時
■場 所 ユニセフハウス 1Fホール
■報告者 久木田純 氏 (ユニセフ・東ティモール事務所代表)

2002年に独立したばかりのアジアで一番新しい民主主義国家、東ティモール。長い紛争と開発の遅れによって、今も多くの子どもたちが命を失い、5歳未満の子どもの半数は栄養不良、小学校を卒業するのは子どもの半数以下という厳しい状況に直面している子どもたちの様子や、復興過程でユニセフが果たしている役割、そしてみなさまからのご支援によりすすめられている支援活動について、東ティモール事務所代表の久木田氏が報告しました。

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■東ティモール概要

東ティモール民主共和国は、1999年にインドネシアの統治から離れ、2002年に正式に独立しました。人口は110万人。その半数以上が子どもという、国としても人口的にも大変“若い”国です。
東ティモールは、2002年にその独立を果たすまで、厳しい歴史を歩んできました。ポルトガルの植民地であった東ティモールは、1975年に独立を宣言したものの、その直後からインドネシアの軍事侵攻を受け、独立派への弾圧によって20万人もの人々が命を落としたと言われています。1991年、独立を求める集会でインドネシア軍の発砲により多数の死者が出た事件をきっかけに独立への機運が高まり、99年には独立の是非を問う国民投票が実現しました。その結果、8割以上の国民が独立を支持しましたが、独立派と反独立派との紛争が生じることとなりました。
このように厳しいスタートを切った東ティモールですが、現在は静かで、平和で、美しい国です。ただ一方で、長い植民地支配そしてインドネシアによる不法当地によって開発は遅れ、未だに多くの子どもたちが命を落とし、学校に行けず、水やトイレが使えないような状況があります。

■紛争後の平和構築と子どもたちへの支援

東ティモールにいると、子どもへの支援は平和構築において非常に重要であると実感できます。その国の将来を担う子どもたち、若者たちに十分な支援ができなければ、また彼等が将来に不安を抱えている状況であると、さらに国が不安定化してしまいます。東ティモールでは、紛争後の子どもたちへの支援が十分にできていなかったため、その傾向が顕著に表れていました。
ユニセフは、紛争後の子どもたちへの支援として、母子保健や栄養、子どもに優しい学校づくり、新しい言語政策、子どもの保護、若者の社会参加、子どもの権利委員会の設立など様々な取り組みを行っています。こうしたユニセフの活動は、大きく3つの概念に分けることができます:

  1. 子どもを中心に据えたプログラムづくり
    大人を中心に考えられがちな国の政策を、子どもを中心に据えて変えていく、また子どもの潜在的能力を十分に発揮させるようなプログラム作りをおこなう。
  2. 子どもの人生の大事な時期に合わせた支援(Life cycle approach)
    生まれてから18歳になるまでに心身の様々な成長段階を迎える子どもたちに、その時期に合った適切な支援をする。
  3. 国の能力開発
    いつまでもユニセフが支援をするのではなく、その国の政府やNGO、企業などその国の人々の力をつけていく支援をする。

■ユニセフのプログラム

Life cycle approachに基づいてユニセフがおこなっている支援のうち、特に幼い子どもに大切な水と衛生、学齢期の子どもたちのための子どもに優しい学校、そして若者の参加について事例をご紹介します。

<水と衛生:nepia千のトイレプロジェクト*>

東ティモールが抱える問題のひとつが水と衛生です。農村部でのトイレの普及率は2008年で40%ですが、2015年までには55%まで上げたいと考えています。そのためにはまだ7500のトイレ建設が必要ですが、資金不足・人材不足によって、国には2500程度を作る力しかありません。さらに問題なのは、水と衛生に関する基本的な知識が人々の間に普及していないということもあります。

水と衛生のプロジェクトをどのように進めていくかですが、①支援する場所を決める(最も厳しい状況にある場所を選んで支援対象を決める) ②パートナーのNGOを選ぶ ③対象の村の状況を調査し村との合意を得る ④全体のシステムを考える ⑤村人へのトレーニング ⑥建設のための役割分担 ⑦資材の調達 ⑧基礎作り をします。ここまでは、ユニセフや政府の支援でおこないます。上部は各家庭で手に入る材料で村人が作ります。 トイレができても水が手に入らなければ手も洗えませんし、流すことも出来ないので、給水も同時におこないます。水源からパイプで水を引きますが、村人が総出で穴を掘り、パイプを埋めます。各家庭また村の中に水場を作ったら引き渡すことになりますが、村人で管理・メンテナンスが出来るようトレーニングし、また必要な資機材を提供します。

このような支援で村がどのように変わったか・・「千のトイレプロジェクト」第一期では、1,242のトイレを建設し、約7500人の人が安全な水を使うことが出来るようになりました。現在進行中の第二期でも、1,000以上のトイレが出来る予定。こうした支援は、村レベルだけでなく国レベルで衛生面の整備をしていけるよう、また支援なしで東ティモールの人々がトイレを作っていけるようは政策提言もしています。
そのために政府やNGOの能力をつけ、また衛生知識を普及していくことがとても大切です。

*『nepia千のトイレプロジェクト』は、王子ネピア株式会社様の支援によって実施されているキャンペーンです。詳しくは、こちら »

<教育:子どもに優しい学校>

東ティモールでは、就学年齢になっても10人に4人しか小学校に入学していません。あとの子どもたちは、7〜8歳、また10歳頃になって入学してきます。留年を繰り返したり途中で退学をしてしまう子どもも多く、卒業できるのは半数以下です。教員の半分は資格を持たず、そうした教員への訓練や指導が十分におこなわれていません。またコミュニティと学校の結びつきが薄く、村の中に自分たちの学校という意識があまりありません。さらに学校が遠い、楽しくない、制服や教材が買えない、家の手伝いのために学校に行く時間がない、教科書がないといった問題もあります。

こうした状況を改善し、就学率・修了率を上げるために必要なことは、子どもを中心に据えた教育方法を取り入れ、子どもたちが考え、参加できる授業にする、教員への指導と支援を強化する、就学前の子どもたちが学校に入る準備ができるような支援をする、そして学校運営への親やコミュニティの参加を促進するといった対応が必要です。具体的には、教育省の基本理念となっている子どもに優しい学校アプローチをより理解してもらうような政府の能力強化、PTAの設立、子どもが参加し活動の中心になるような授業方法の提案、校舎の修復や学習環境の整備などをおこなっています。

<子ども参加:青少年の参加と平和構築>

現ホルタ大統領は、若者の問題に対して3つの願いを持っていました。

  1. 武術集団間の争いをやめさせ、彼らの思考と行動ををポジティブに変えること
  2. 若者国会の設立し、社会への若者の参加と育成を進めてほしい。
  3. 子どもたちに大切な価値について語り聞かせたい。

武術集団間の争いには、ユニセフ親善大使のジャッキー・チェンさんが大きな役割を果たしました。東ティモールを来訪し、武術を暴力に使用しないこと、武術に大切なのは自身の鍛錬や相手を敬うこと、また結束にあることを伝えると、若者間の争いは大きく減少しました。
また、若者たちが今年1月には若者国会が正式にスタートしました。4月には若者の中で選挙がおこなわれ、“若者議員”が選ばれます。若者たちは社会について学び、またリーダーシップ能力を高めていきます。 
さらに基本的な価値観を伝えるストーリーテリングや、ライフスキルの訓練(将来どのように生きていくのか、問題がおこったときにどのように対処したらいいのか、HIV/エイズや薬物などについての知識、また感情のコントロールなど、生きていく上で必要な様々なスキル)、コミュニティーラジオを通じて子どもたちの声を届ける支援もおこなっています。

◆報告者プロフィール◆

久木田純(くきた じゅん)
ユニセフ・東ティモール事務所代表

西南学院大学文学部卒、シンガポール国立大学社会学部留学、九州大学大学院教育心理学修士、同博士課程進学。1986年よりユニセフ・モルディブ事務所にJPOとして派遣され、ユニセフ駐日事務所(リエゾン・オフィサー)、同ナミビア事務所(参加型コミュニティー開発担当)、駐日事務所(副所長、外務省、JICAとの事業協力、資金調達を担当)、バングラデッシュ事務所(副所長)、ニューヨーク本部事業資金部・上級アドバイザーなどを経て、2007年より現職。

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