|
|
ユニセフ・ミャンマー活動報告会
|
© UNICEF |
■日 時 2010年6月10日(木) 午後3時〜5時
■場 所 ユニセフハウス 1Fホール
■報告者 國井 修 氏
(ユニセフ・ミャンマー事務所 保健・栄養部長)
アジアでアフガニスタンに次いで子どもの死亡率の高いミャンマー。活動する支援団体が少なく、厳しい状況が続いている中、サイクロン・ナルギスが襲い、14万人以上の死者・行方不明者、200万人の被災者を生みました。この3年間のミャンマーでの活動を振り返り、静かな緊急事態がどのようなもので、ユニセフとしてどのような支援を行い、状況を変えることができたのか、また、できなかったのか、将来の展望も含めてミャンマー事務所の國井修保健・栄養部長が報告しました。
***************************************
© UNICEF |
■ ミャンマー概要
ミャンマー連邦は、国土が日本の1.8倍、人口は日本の1/2の約5,000万人の国。米などを育てる穀倉地帯で、135民族が共存する多民族国家という特徴があります。 一人あたりのGDP(国内総生産)は230米ドル。人々は1ヶ月、2,000円くらいの給料で生活をしています。これはアフリカのルワンダと同じくらいの水準で、隣国のタイと比較すると1/10以下です。ミャンマーに支給される国際援助の額は、一人あたり3米ドル。一方、生活水準が等しいルワンダには、400米ドルの支給がされています。ミャンマーは政治的な問題から経済制裁を受けているため、ルワンダの1/10にも足りない援助の少ない状況に置かれています。
■ 静かな緊急事態
災害が起こらなくても、毎日300人の子どもと10人のお母さんが亡くなっています。日本では、同様の日計算の子どもの死亡数は10人。大きな差のある状況です。
ミャンマーでの子どもの死亡原因として多いものは、肺炎、下痢症、敗血症、マラリア、脳炎などで、そのほとんどが予防・治療可能なものです。子どもの死亡に加えて、妊産婦の死亡原因に関してもほとんどが治療・処置が可能なものになっています。衛生的な環境や習慣があれば予防できる病気で、日々幼い命が奪われている状況です。これが「静かな緊急事態」の現状です。
© UNICEF |
どうしてこのように病気が多い状態になっているのか。
病原菌や病原菌を運ぶベクター、病害動物などの直接的な要因のほかに、栄養状態、水・衛生状態、煙草、焼畑なども含む生活環境、人々の健康に対する知識・態度・行動、健康を害する文化・習慣など複数の要因があげられます。
ミャンマーでは、政府の保健予算が国民一人あたり年間2米ドルという非常に低い金額に設定されています。海外援助の少ない状況も加わり、これらは、病気の予防・治療を行う上で大きなネックとなっています。 ほかにも、病院や診療所などの保健施設、医師や助産婦などの保健人材の不足、医薬品・物品・器材などの物質的な不足、それに加わり社会インフラや山岳地や沿岸部への交通手段の不整備、患者の経済・社会状況、意識・知識など、さまざまな要因が絡み合い、病気の予防や治療の妨げとなっています。
どうすれば静かな緊急事態と言われる状況を改善できるか。重視される効果的な予防策・早期診断・適切な治療としては、以下のようなものがあります。
■ ユニセフの現地での役割と実践
ユニセフの役割は大きく分けて以下の8つになります。物資の供給・管理にとどまらず、関係者の人材育成や、健康に対する啓蒙活動、政府への働きかけ、各援助機関との調整作業も行います。また、これらの支援を組み合わせ、包括的に活動を進めています。
© UNICEF |
© UNICEF |
① 政策・戦略作り
(子どもの健康改善国家5ヵ年計画や予防接種、エイズ、栄養、マラリア対策など)
② 医薬品・物資の供給・管理
(ワクチン、医薬品、駆虫剤、殺虫剤処理蚊帳、HIV、マラリア診断キット、物流システム)
③ サービス提供支援
(女性たちを支援するマイクロプランニング、僻村への巡回サービス提供、ボート・車・トラクターなどの支援、NGO等との連携)
④ 人材育成
(中央政府・州管区・タウンシップ・村、各レベルでの技術から管理に関する人材育成)
⑤ 健康保健教育・行動変容
(マスメディアから個人までの各段階へのアプローチ、NGO等との連携)
⑥ データ・情報、収集・分析
(信頼でき、正確なデータの収集、全国規模・地域限定、多尺度クラスター調査の実施)
⑦ 社会保障・医療保険
(貧困層などの救済、小規模・選択的な救済から全国レベルや、より広い対象への救済拡大)
⑧ 援助機関間の調整・協調
(各機関が確実かつ効率的に活動を行う調整、連携した援助による現地の総合的な生活レベルの改善)
援助活動では、資源、資金、物資に限りがあります。いかに有効に使うかという点でも構想が必要です。たとえば、伝統的なマラリア対策として、地域全体をカバーした予防が行われてきましたが、それをリスクマッピング・マイクロプランというハイリスク地域に集中的に予防・治療を行う方法に変更しました。また、資金、物資に関しても同様に、最もリスクの高い場所へ優先的に使用する方法を実践してきました。
■ 3年間の結果
© UNICEF |
© UNICEF |
ミャンマーの5歳未満死亡率
2000年時点では出生1000に対して97だった死亡率も2007年には77に減少。順調に減少していますが、2015年には43まで減らすという目標にはまだまだ遠い状況が残っています。
ジフテリア、百日咳の予防接種のカバー率
ジフテリア、百日咳ともに予防接種のカバー率を高く保つことにより、症例数も低い状況を保てています。
母子保健に必須の医薬品とトレーニング
新たに80のタウンシップに実施し、実績合計も101から181タウンシップへと60%の増加を図れました。
マラリア対策(殺虫剤処理蚊帳、診断・治療)
80タウンシップの流行地すべての世帯に実施。
健康教育
全国レベル、僻村での集中的介入を実施。
下痢症、肺炎の死亡率
2008年の時点で2005年の半数まで減少。
HIV/AIDS感染者数
2000年をピークに30万人を超えていた感染者数を年々減少させ、2008年には25万人を下回る改善を図れました。
具体的な対策として、母子感染予防サービスを54タウンシップ、22病院に実施。5万人以上の妊婦にHIV検査(VCT)を行い、400人以上に予防治療を施しました。また、若者へのHIV予防対策(ライフスキル、ピア教育)を5万人以上の若者に行い、1000人のHIVの影響を受けた子どもに対してケアを行いました。
■ 今後の展望
今後のミャンマーでの活動では民主化・地方分権化の影響を加味して活動する必要性があります。また、国家保健予算と海外援助の増額、ドナー調整・協調のバランス、全国展開と地域別戦略、コミュニティーアプローチの戦略化・普及といった部分も引き続き取り組みが必要となると感じています。
◆報告者プロフィール◆
國井 修 (くにい おさむ)
ユニセフ・ミャンマー事務所 保健・栄養部長
1988年自治医科大学卒業。公衆衛生学修士(ハーバード大学)、医学博士(東京大学)。国立国際医療センター国際医療協力局、東京大学国際地域保健学講師、外務省調査計画課長補佐を経て、2005年長崎大学熱帯医学研究所・熱帯感染症研究センター国際保健学教授。
2006年より、ユニセフ保健戦略上級アドバイザー。2007年6月より、予防接種事業、マラリア対策、下痢・呼吸器感染症対策、栄養対策、HIV/AIDS対策などの母子保健対策に従事。ユニセフ ミャンマー事務所 保健・栄養部長。JICA国際緊急援助隊及びNGOを通じた災害援助、JICAの技術協力プロジェクトなど、世界100カ国で活動。
■ ユニセフ募金へのご協力、ありがとうございました。
報告会後、有志のみなさんが、國井さんを囲んで懇親会を開いてくださいました。 ご参加いただいたみなさま31名からお預かりした参加費(1人 1,000円、計31,000円)から、飲み物・スナック代の21,885円を差し引いた残額9,115円は、ユニセフ募金とさせていただきました。みなさまのご協力、ありがとうございました。
■ LIVE動画配信に一部支障が生じました
今回の報告会では、初の試みとしてLIVE動画配信を行いましたが、システム不調により、音声や動画配信に、一部支障が見られました。現在、原因などを調査し、次回以降に向けて改善を進めております。ご視聴いただいたみなさまにご迷惑をお掛けいたしましたこと、お詫びいたします。