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ユニセフ・ネパール事務所 穂積智夫代表による報告
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© UNICEF/HIVA2014-00111/Karki |
ネパールの女性コミュニティ保健ボランティアたち。 |
© UNICEF/NYHQ2012-1989/Noorani |
貧困地域の栄養不良児の巡回中に、衛生と栄養についてのリーフレットを手渡す女性コミュニティ保健ボランティア。 |
こうした多様性の高さはネパールの誇るべき点ですが、同時に「格差」を生み出す背景の一つにもなり得ます。ネパールの5歳未満児死亡率は1990年では、出生1,000人あたり142人でした。当時の南アジア地域の同指標が出生1,000人あたり129人であったことを考えると、子どもを取り巻く環境は厳しいものがあったことが分かります。しかし、この数値は2013年には出生1,000人あたり40人となり、70%以上も減少しています。穂積代表は、この大きな数値の改善背景には、定期的な予防接種やビタミンAの投与など、相対的に安価な保健対応が広く人口に広まったためだと述べました。そして、その成功の裏には「女性コミュニティ保健ボランティア(Female Community Health Volunteer)」と呼ばれる女性達の存在が大きかったそうです。基本的に無給であるにも関わらず、彼女たちは子どもたちの保健状態を改善しようと、様々な形でコミュニティに貢献しました。それは「今まで支援活動に従事した6カ国の中で最も(このコミュニティ保健ボランティアの仕組みが)成功したのがネパール」と穂積さんに言わしめるほどです。
ワクチンや栄養剤の提供といった物質的支援の面でもユニセフは関わっていますが、それだけではなく、現地の人々の習慣化された行動パターンを変える働きかけ、つまり「行動変容」を促す支援(コミュニケーション、トレーニング)を行ったり、保健、栄養、教育、水と衛生などの基礎的サービスの質の向上を支援したりしています。
© UNICEF/NYHQ2007-1493/Khemka |
家庭訪問の際にビタミンA錠などのサプリメントを渡す女性コミュニティ保健ボランティア。 |
ネパールが抱える子どもの問題の一つに、児童婚があります。ネパールでは15歳までに女子の10パーセント、18歳までにはその41%が結婚しています1。体が十分に発育しないままでの妊娠・出産は女性の心身の大きな負担となり、様々な健康被害を引き起すことが明らかとなっています。ネパールでは、①女性の純潔性が重要視されていること、②女性の家族側が男性側へ渡す結婚持参金が、年齢が高まるにつれて高額となること、などが児童婚を助長させる背景だと考えられています。この問題に対してユニセフは、児童婚による社会的経済的悪影響を政府から地域社会レベルまで幅広く訴えることで、その現状が改善されるように支援しています。具体的には、「現在のレベルの児童婚は、ネパールのGDP(国内総生産)を、2014年の値で3.87%低下させる」ということを分析・発表し、この問題の重要性を政府・世論に訴えかけています。
また、女の子のエンパワメントのために、「包括的生活知識・技能習得パッケージ(Comprehensive Life Skill Package;主に10歳から14歳の女子を対象にし、権利と義務、ジェンダー、良い習慣・悪い習慣、初潮、栄養、生活の糧を得るためのオプション、貯金と消費、性と生殖に関する健康、ジェンダーに基づく暴力など15課目から成るパッケージ)」を作り、それを使った教育活動を支援しています。これらは、ネパール社会で往々にして「負担」と見なされがちな女の子の立場を様々な層に様々な形でアプローチすることで、向上させていく取り組みの一部です。
*データは主に「世界子供白書2015」から取得
© UNICEF Nepal/2014/CSKarki |
◆報告者プロフィール◆
穂積智夫(ほづみ・ともお)
現ユニセフのネパール事務所代表。日本とイギリスの大学・大学院で国際関係を学んだのち、JPO試験を経て、ユニセフのブータン事務所、インド・グジャラート事務所、東京事務所、カンボジア事務所、タイ事務所所長、フィリピン事務所所長など豊富な現場経験を持つ。
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