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ネット上で子どもたちを守るには?
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© 日本ユニセフ協会 |
「ネットと子どもの問題は世界共通。世代間の格差を超え、子どもたちと一緒に考え取り組んでいくことが重要」と議論したパネリストたち。 |
インターネットを介したいじめや暴力の問題は、多くの国に共通する問題となっています。9月14日(日)から4日間の日程で開催された「子ども虐待防止世界会議 名古屋 2014」(主催:国際子ども虐待防止学会(ISPCAN)・一般社団法人日本子ども虐待防止学会 (JaSPCAN))の中で、日本ユニセフ協会は、ICT関連をはじめとする多くの企業が参加する「安心ネットづくり促進協議会」とともに『インターネット上の子どもへの暴力:私たちはいかにしてネット上で子どもたちを守るか』と題するセッションを開催。この問題の現状について国内外の専門家が状況認識を共有し、対策を議論できる場を提供しました。
本セッションには、ユニセフ本部子どもの保護部門チーフのスーザン・ビッセル局次長と、お茶の水女子大学の坂元章(さかもとあきら)教授、そして兵庫県立大学の竹内和雄(たけうちかずお)准教授の3名の専門家が登壇。冒頭、それぞれから、国際的な動向、日本国内の状況(俯瞰)、そして、日本の“現場”で起こっている具体事例を報告していただきました。
世界会議の基調講演者として来日したビッセル局次長は、ユニセフが各国で実施した調査結果を報告。世界の子どもたちのインターネット、特にSNSの使い方には驚くほど似通っていて、それゆえに、直面しているリスク(個人的な情報や画像の掲載、不適切な情報へのアクセス、より悪質ないじめ、性的被害等)も共通点が多いと語りました。また、その一方で、インターネット利用に関しては世代間の格差が大きく、特に途上国においては、先進国以上に大きな格差があるとも述べました。
そして、ネット上で子どもを守るためには、子どものエンパワーメントが重要であることや、子どもを暴力や虐待から守るための(ネット以外の問題も含めた)より広い取り組みの中に位置づける必要があることを訴えました。さらに、ユニセフとITU(国際電気通信連合)が国際会議の直前の9月5日に発表した『インターネット上の子どもの保護に関する企業のためのガイドライン』を紹介しながら、ICTに関わる幅広い人々の協力が不可欠であり、なかでも企業が果たすことのできる役割を強調しました。
坂元氏は、今年2月、「安心ネットづくり促進協議会」が発表したネットいじめの現状と影響する要因に関する調査結果を報告。2009年から2011年度に掛けて日本全国約7,000名の小中高校生を対象に実施した継続調査を通じ、インターネット上の攻撃(ネットいじめ)が、ネットを使わない攻撃よりはるかに少ないことが明らかになった一方で、ネットを使った攻撃の加害者になるよりも「被害者になった」と感じている割合の方が多いこと。また、被害を受けた子どもは精神的健康が悪化しうるという結果も得られたため、ネットいじめの問題は、発生頻度が少ないように見えても決して無視できない問題であると指摘されました。さらに、ネット攻撃を増加させる要因として、インターネットの使用頻度がある程度影響している傾向は認められるものの、それだけでは説明しきれないため、他の要因を知るために今後も実証研究が必要であると語られました。
以前、中学校の教壇にも立たれ、子どもたちの“荒れた”状況にも直接対峙された経験をお持ちの竹内氏は、日本の子どもたちがこれまでに直面してきたネットに関連する問題の流れを説明。iモード付携帯の普及に伴って2008年頃から増加を始めた問題は、2009年の「青少年インターネット環境整備法」によるフィルタリングの義務付けで一旦収まります。しかしその後、一般のインターネットに直接アクセスすることができるスマートフォンが普及し始めると、問題が再燃。また近年は、SNSの爆発的な普及にともない、ネット上での些細な言葉が大きな問題に発展するなどトラブルも頻発。問題の低年齢化も進んでいます。竹内准教授は、「日本は、諸外国で今おきている問題の“先進国”」と言います。また、多くの問題が、PCではなく携帯ディバイス上で起こっていること、それゆえに、子どもたちが“逃げ場”を失う傾向にあること、さらに、不用意に他人を傷つける行為をしても、多くの子どもたちがそれを自覚していない「無自覚化」も、現在の日本の問題の特徴であると説明されました。
© 日本ユニセフ協会 |
国内外の調査結果や日本の“現場”の具体事例を踏まえて「ネット上でいかに子どもたちを守るか」を議論。多くの方にご参加いただきました(9月15日 子ども虐待防止世界会議 名古屋にて)。 |
後半のパネルディスカッションの中で、竹内氏は、ビッセル局次長も述べたネット利用の世代間格差は日本でも非常に大きいと述べ、保護者よりは子どもに近い存在である大学生をファシリテーターとして、小中学生向けに行っている意識啓発の取り組みを紹介しました。また、子どもたち自身が携帯電話の使い方についてのルール作りをする活動の様子も紹介し、これらの日本の取り組みには、ビッセル局次長も大変関心を示しました。
坂元氏は、保護者に対する啓発活動について、以前は、保護者はフィルタリングさえ導入すればよいとされていたが、現在では、“段階的管理”の時代になっていることを説明しました。「子どもの発達段階に応じて徐々に許可することを増やしていき、同時に子どものネットの活用能力をみがいていくためには、保護者自身がアプリやサイトのことを知る必要があり、まさに保護者が主体的に関わっていくための啓発が必要になっている」と述べ、日本で行政、事業者やNPOなどが行っている活動に言及しました。
坂元氏からはまた、日本では、通信に関する行政や法律による規制に対して慎重な意見が一般的であるため、民間による、インターネット上で子どもを守るための自主的な取り組みが盛んに行われているとの説明がありました。企業による取り組みの重要性については、ビッセル局次長も強調しています。特に、民間によるイノベーションが、問題の解決に貢献できるとして、子どもの性的虐待記録のネット上での売買を発見・通報する金融機関連合の取り組みや、子どもへの虐待の加害者をネット上の情報から割り出す技術などをその例として挙げました。
今後の取り組みについて、ビッセル局次長は、「紹介のあった日本の取り組みのように、子どもたち自身が関与することが大切で、また、ネットに限らず、子どもたちのコミュニケーション能力、問題解決能力を高めていくことも重要です」と強調しました。
坂元氏は、インターネット上では次々に新しい問題がおきてくるので、子どもも保護者も、自分で考えて危険を回避しながらネット使う能力がますます重要になってくると述べました。そして「“エンパワーメント”を基本として考えると、例えば、大人のルールの押しつけよりは子どもたち自身が考えること、規制よりは自主的取り組み、というように、何が望ましい取り組みなのか、おのずと明らかになるのではないか」としました。
竹内氏は、子どもが考えることが重要だが、子どもだけでわからないことについては大人も一緒に考える、また考えるきっかけを提供する等、子どもと大人が一緒に考え、ルール作りをしていくことが重要である、と述べました。3人のパネリストは、子どもと保護者の“エンパワーメント”がカギとなること、そして、関係者それぞれが、自分の問題としてこの問題を考えて取り組んでいくことの重要性を再確認して、この日のセッションを終えました。