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マリ:
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5歳未満の子ども28%が発育阻害に陥っているマリ。なかでも、慢性栄養不良率が高い地域では、従来から行われている、栄養不良から回復するための栄養支援だけでなく、脳を刺激し、発達を促進させるためのプログラムが併せて実施されています。この取り組みは、家族の絆を、より強くしています。
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母親のひざの上に座っている2歳のラミンくん。笑顔で母親に目配せをして、そのまま後ろ向きに体を倒しました。ラミンくんは母親にギリギリのところで受け止めてもらうのを楽しんでいます。ふたりとも、楽しそうに笑っています。
「以前は、今のような笑顔を見せてくれることはありませんでした。遊ぶことが、一番の薬になっているのです」と、38歳になる母親のマリアム・クリバリさんが話します。
この親子は、マリで栄養不良の子どもたちを対象に展開されている、ユニセフの新しい支援プロジェクトの卒業生です。栄養不良は、子どもの身体だけでなく脳の発達にも影響をもたらします。
マリでは、5歳未満の子ども28%が発育阻害です。マリ最南部に位置するシカソ州では、この数値が33%にまで達しており、何年も改善がみられていません。
「お母さんのおなかの中にいる胎児の頃から2歳になるまでの、“はじめの1,000日”は、子どもの身体の成長や脳の発達に極めて重要です。栄養補助食の提供だけでは十分でないことが分かっています。この時期の子どもたちには、脳の発達を促進させる取り組みが必要です。栄養不良から回復する助けにもなりますし、大きくなって学校に通い始めたときにも、よい効果が現れます」と、ユニセフ・マリ事務所のファビオ・マンノ早期幼児開発専門官が語ります。
ユニセフはシカソで、子どもを対象にした栄養状態の検査や、栄養不良の子どもに対する診察・治療など、従来から行われている一般的な支援に加え、現地の保健担当者やNGO団体と協力して、脳の発達を刺激するプログラムを開始しました。「これは、『子どもの発達のためのケア』(Care for Child Development)と呼ばれる支援プログラムで、マリの最も支援を必要とする子どもたちの生存や発育、発達に希望をもたらしています」と、マンノ専門官が話します。
© UNICEF Video |
「遊びが子どもたちの力になります。はいはいや歩く方法を、ゲームを通して学ぶのです」と話すマリアムさん。 |
栄養不良の子どもたちを治療する病棟に隣接した小さな建物では、毎日遊びの時間が設けられています。床にはマットがひかれ、壁一面が鏡で覆われた部屋の真ん中には、ブロックやボール、びっくり箱など、色鮮やかなおもちゃがいっぱいです。
マリの貧しい家庭にとって、おもちゃは手が届かない、贅沢なものです。そのような貧困家庭のため、スタッフが両親におもちゃの作り方を教えています。たとえば、空のボトルに小石を入れて作った赤ちゃん用のガラガラや、ストローに色紙を通して作ったお花など、家にあるものを使って子どもの脳を刺激するおもちゃを作ることができます。
2歳3カ月となる娘のハビバトゥちゃんと一緒に遊んでいるのは、50キロほど離れた村で農業を営んでいる、父親のハミドウ・サンゴさん(44歳)。ハビバトゥちゃんに負けないぐらい楽しんでいます。先週、マラリアと重度の急性栄養不良と診断され、入院したハビバトゥちゃん。母親のマリアムさん(28歳)が見守る中、ふたりは不規則にキャラクターが飛び出すびっくり箱で楽しそうに遊んでいます。
ハミドウさんが嬉しそうに、そして誇らしげに妻のマリアムさんの方に視線を送りました。ハビバトゥちゃんが、どのキャラクターが次に飛び出してくるのか、その仕組みを見破ったのです。
「とても楽しいですよ。ハビバトゥが生まれてからこれまで、娘とこんなにたくさんの時間を過ごすことはありませんでした」(ハミドウさん)
ハビバトゥちゃんの腕や足には、重度の急性栄養不良の一種であるクワシオルコルによる傷がまだ残っており、依然として身体が弱っています。しかし、びっくり箱のカラクリを発見することができたハビバトゥちゃん。回復への道のりが順調な証拠です。
「2日前、ハビバトゥはとても衰弱した様子だったので、ひどく心配していました。夫も心配して、娘が退院するまでは村に帰らず、そばにいると言ってくれています」(マリアムさん)
オウア・トラオレ小児課長は、病院のスタッフは当初、このプログラムに懐疑的だったと語ります。しかし、今はその効果を実感しています。
「脳を刺激するゲームをすることで、子どもたちの回復のスピードが高まります。かつて、重度の急性栄養不良の子どもたちは10日ほどの入院が必要でした。しかし、このプログラムを始めてからというもの、6日ほどで退院できるようになりました。効果は明らかです」
ソーシャル・ワーカーのアミ・クリバリさんが、親子が遊んでいる様子を注意深く見守っています。クリバリさんは、子どもたちが退院した後も、経過を観察するための家庭訪問を行っています。
「両親がきちんと子どもたちと接することができているか、見ています。ときどき、栄養不良の子どもたちは遊びに消極的なときがあり、母親が赤ちゃんとうまくコミュニケーションをとれないときがあります。そのようなときには、赤ちゃんの声や顔を真似してコミュニケーションをとるように母親に教えるなどして、コミュニケーションの手助けをします」
ラミンくんの母親のマリアムさんは、熱心に取り組んでいます。ラミンくんは空のペットボトルに小石が入った、マリアムさん手作りのガラガラで遊ぶことができるようになりました。マリアムさんは恥ずかしがることもなく、ラミンくんを真似してのどを鳴らしたり、赤ちゃん言葉で話しかけたりしています。マリでは人前で愛情を示すことがあまりありません。しかし、38歳になる父親のブバカルさんは、仕事から帰ると真っ先に息子を抱きしめます。
マリアムさんは、多くのことを学んだと話します。「ラミンは5番目の子どもです。でも、他の子どもと違い、妊娠期間もつらかったですし、生まれて間もないころは病弱でした。ヘルニアにかかり、入院や手術も必要でした。健康に育っているとはとても思えませんでした」
「いつもは市場でビーチサンダルを売る仕事をしていて、雨季には夫と一緒に農作業の毎日です。忙しい日々を送る一方で、日に日にラミンの身体の具合が悪くなっていきました。幸い、栄養不良の治療を受けたばかりの子どもを持つ近所の人がラミンの症状に気づき、病院まで送ってくれました。ラミンは今、健康で元気に育っています。私たち家族も健康です。ラミンが生き生きと幸せに育ち、いつかは学校に行ってくれたらいいと思います」
そう言いながらマリアムさんが笑いかけると、ラミンくんの顔に満面の笑みが広がりました。
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