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アグネス大使 中央アフリカ帰国報告会
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泥沼化する内戦で崩壊の危機に瀕し、人道支援関係者から、“子どもにとって世界最悪の場所”の一つとも称される中央アフリカ共和国。陸・空路とも交通手段が限られるために報道も少なく、国際支援の必要性が十分に伝えられておりません。今月中旬、危機下にある中央アフリカ共和国をアグネス・チャン日本ユニセフ協会大使が訪問。帰国翌日である22日、ユニセフハウスで行われた帰国報告会にて、暴力に巻き込まれる子どもたちの状況や、困難を伴う支援活動、平和にむけた教育の大切さなどを語り、ユニセフの緊急人道支援活動への支援を呼びかけました。中央アフリカ共和国は、シリア、南スーダンと並び、現在ユニセフが最優先で支援活動に取り組んでいる国の一つです。
© 日本ユニセフ協会/2014 |
アグネス・チャン日本ユニセフ協会大使。 |
中央アフリカ共和国の国内避難民は約63万人。国外脱出をする人も多く、チャドやカメルーンなど周辺国に対しても社会インフラや衛生面、教育、治安など大きな悪影響をもたらしています。また、武装勢力に徴用されている子どもの数は推定でも最大6,000人に上ると言われており、子どもへの直接的な暴力も含め、多くの子どもたちが巻き込まれています。支援を行っているユニセフや他の国連機関も攻撃を受けたことから、予定されていた訪問日程の変更を余儀なくされるなど、中央アフリカ共和国の危機的現状を目のあたりにしたアグネス大使は、「争いが起きたらそこまで憎しみ合わなければならないのか」と、沈痛な思いを語りました。
自然豊かな首都バンギでは、職業訓練センターや浄水場を訪れました。職業訓練センターでは、保護された子どもたちが、髪の結い方、衣類への印刷技術、車の修理や運転、農業、洋裁などこれから生きるために必要なスキルを学んでいます。中央アフリカ共和国では、24歳以下が人口の60%、14歳以下が人口の40%を占めるため、今回の紛争ではたくさんの子どもたちが巻き込まれ、犠牲となりました。イスラム系の反政府勢力セレカに家を焼かれ、家族を殺された上、子どもたちは拉致されました。男の子は主に兵士として、女の子は兵士の手紙の代筆をしたり読み上げたり様々なことをして働かされるうえ、性的搾取をされます。ユニセフでは、拉致された子どもたちを探し出し、子どもたちを開放するよう武装集団に求め、保護をする活動も行っています。
© 日本ユニセフ協会/ 2014/S.Taura |
武力衝突で破壊された、ボサンゴア旧市街のイスラム系住民居住区・商店街(4月17日 ボサンゴア)。 |
ボサンゴアでは、複数の国内避難民キャンプや保健センター、学校を訪れたアグネス大使。保健センターでは、紛争に巻き込まれて銃で撃たれた子どもたちや、家が焼かれてやけどを負ってしまった子どもたちに加え、重度の栄養不良で、動くことも食べることもできなくなって運び込まれる子どもたちがあふれていた、とアグネス大使は語ります。口から栄養を取ることも出来ない重度の栄養不良の子どもたちは、おへそや腕から栄養チューブや点滴で治療が施され、口から食べ物をとれる子どもたちは「プランピー・ナッツ®」などで栄養を補います。ユニセフの支援物資のひとつである「プランピー・ナッツ®」は、微量栄養素が添加された1パック約500キロカロリーの栄養治療食です。入院や通院のできない子どもたちも家に持ち帰ることが出来るうえ、袋の角をちぎってそのままチューチュー吸うことが出来るため、清潔な食器が用意できないなどの環境でも用いることができ、栄養不良の改善に大きく貢献をしています。支援活動に携わる医療スタッフの手で様々な治療が施されるなか、運び込まれた時には動くことが出来なかった子どもも、歩いたり笑ったりするようになったり、妊産婦が治療を受けて母乳が出るようになるなど、緊急下に置かれている子どもたちに支えられています。
© 日本ユニセフ協会/ 2014/S.Taura |
「武装勢力に家族を殺された」と語る男の子(4月17日 ボサンゴア)。 |
アグネス大使が訪れた、ユニセフが支援している仮設学校では、保育園から高校まで16クラスあり、医者や先生になるため大学に進学したいという子どもたちもいます。この学校では、宗教にとらわれることなく仲良く暮らすことや、握手、和解、それから、暴力はいけないということを教える、平和教育も行われています。一度紛争が起きてしまうと、憎しみはなかなか消えることはありません。おとなが引き起こした憎しみと争いの連鎖の渦に子どもたちは巻き込まれ、そこから自力で出てくることは出来ません。学校では平和な歌を歌っていますが、もしかすると家に帰れば、「あの人たちを殺せ、あの子とは友達になってはいけない」、と親から教えられているかもしれません。豊かな自然資源に恵まれた中央アフリカ共和国に欠けているものは、お互いに平和に暮らす、『人間』という資源だと思います、と語るアグネス大使。質の良い教育が提供され、子どもたちが元気に育つ環境が整い、英知をもった指導者が育てば、国はもっと豊かになるはずです、と訴えました。
拉致され、兵士にされ、心も身体も傷つけられる子どもたち。家族から引き裂かれ、家族を殺され、トラウマに苦しむ子どもたち。負傷し、障がいを背負う子どもたち。暴力をうけたり、食べることが出来ず、命を落としてしまう子どもたち。学校が閉鎖され、教育を受けることができない子どもたち。自分の家から追われ、不衛生で危険な状態に置かれる子どもたち。国が無法地帯となり、将来に希望が見いだせない子どもたち・・・。紛争という現実のなかで、おとなが引き起こした憎しみと争いの連鎖に、あらゆる面で巻き込まれる子どもたちを目のあたりにしたアグネス大使。紛争がいかに良くないことか、今回の訪問で、そのことを生々しく感じた、と語ります。
日本からも支援を受け、現地では小学校や診療所が建てられてはいるものの、ユニセフが国際社会に訴えている緊急支援に必要な資金に対し、調達できている額は約35%と、まだまだ支援は足りていません。また、これから中央アフリカ共和国には雨季が訪れます。入院している子どもたちの約半数がマラリアで入院しており、その中の40%ほどが命を落としているといいます。マラリアは子どもたちの命を脅かす病気です。紛争前に日本政府からの資金援助で蚊帳を30万張購入することができたものの、難民キャンプでは人数にかかわらず1家族に2張しか行きわたっておらず、十分ではありません。私たちが出来ることは何かを改めて考え、この国が立ち直るまで支援していかなければならないと、アグネス大使は継続した支援の必要性を訴えました。
© UNICEF Central African Republic/2014 |
訪問した学校で、子どもと交流するアグネス大使。 |
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アグネス大使が、ユニセフが活動する世界各国の支援現場を訪れるのは、今回が17回目。危機に直面している子どもたちの様子や、報道されにくく日本ではあまり知られていない問題などを、帰国報告会で語り、広く支援を呼びかけてくださっています。過去の訪問に関しては、アグネス大使 現地レポートにてご覧いただけます。(現地訪問は、日本ユニセフ協会大使としての活動の一環であり、無償でご協力くださっています。)
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ユニセフは、戦争や武力紛争のために、住み慣れた土地を離れて避難を余儀なくされたり、家族を失ったり暴力を受けるなどして心に深い傷を負った子どもや女性のために、緊急・復興支援活動を行っています。日本ユニセフ協会では、ユニセフが各地で実施する人道危機における緊急・復興支援活動を迅速に支援するため、人道危機緊急募金を受け付けています。皆様のご協力をお願い申し上げます。
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