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公益財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

スマトラ沖地震・津波から10年
被災前よりもより良い社会へ

【2014年3月4日 インドネシア バンダ・アチェ発】

2004年12月26日に起きたスマトラ沖地震とインド洋津波。インドネシアの西部、アチェ州が被災したとき、カット・アデリアちゃんはまだこの世に生を受けていませんでした。アデリアちゃんとの出会いは、彼女が暮らすサバン島を含む、アチェ州の大部分に破壊的な被害をもたらした津波の大規模な復興支援が成し得た、長期的な成果を垣間見るものでした。

アデリアちゃんがマラリアに感染したのは2011年。かつてアチェ州の中でマラリアの感染率が最も高かったサバン島ですが、アデリアちゃんがこの島土着のマラリアの最後の症例になると思われます。

被災前よりも、より良い社会へ

児童の歓迎をうけるレーク事務局長。バンダ・アチェの乳幼児開発センターにて
© UNICEF Indonesia/2014/Estey
2月28日、バンダ・アチェの乳幼児開発センターで児童から歓迎を受けるレーク事務局長。この施設はユニセフが津波の早期復興支援で仮設の学校として建設した。

インド洋津波は、人々の記憶のなかに刻まれた、最も甚大な被害をもたらした災害のうちのひとつです。被害は9カ国に及び、アチェ州だけでも17万人の命が失われました。

ユニセフは、さまざまなドナーからの資金協力を得て、津波の被害にあった人々を支援するため、過去最大規模の緊急人道支援を実施しました。各国のユニセフ国内委員会から集められた資金は、3億2,800万米ドルにも及びました。

ユニセフ事務局長のアンソニー・レークはバンダ・アチェを今年2月に訪れ、アチェ州の防災への取り組みや、「被災前よりもより良い社会を」の原則をもとに行われた復興支援の成果を視察しました。

ユニセフとパートナー団体の支援を受け、インドネシアは1万7,500以上の島からなる国土の自然災害のリスク削減に向けて、防災と緊急時への備えを重点に置いた取り組みを行ってきました。この復興に向けた取り組みでは、予防接種、妊産婦ケア、マラリアの予防対策など、子どもや家族のレジリエンス(回復する力)を高めるための保健分野への包括的な支援を実施し、国の保健システムの強化を図っています。

マラリアの根絶

サバン島のマラリアの根絶は、津波の復興支援資金を通して行われた効果的なマラリア予防対策など、包括的な保健プログラムによって成し遂げられました。

ユニセフとパートナー団体はインドネシアのマラリア根絶に向けた取り組みをサバン島から開始しました。広範囲の屋外残留噴霧、殺虫処理がされた蚊帳の大規模な配布活動、マラリアが確認された場所の地図の作成、合併症を伴っていない症例への一時治療アルテミシニン(抗マラリア薬)をベースにした併用療法(ACT)の実施に対する政策の変更などが行われました。

このプログラムはマラリアの原虫そのものを根絶させることで、マラリアの発生を食い止めることを目指しています。ハイレベルな政治的関与、系統的な血液検査による効果的な観察、地域住民の参加によって、成功しました。

この支援により、2004年には住民1,000人あたりに約88人の感染者が報告されていましたが、2011年には1,000人にひとり以下までに減少しています。

「この取り組みのおかげで、サバン島ではもう子どもたちがマラリアで命を失うことはありません。私たちはこのサバン島の成功例や経験を、マラリアが発生しているインドネシアの他の地域や国で生かしていかなくてはいけません」と、アデリアちゃんや家族との面会を果たしたレーク事務局長が語ります。

しかし、マラリア再発の脅威は常に潜んでいます。レーク事務局長がこの島へ訪問する2日前、バンダ・アチェからの訪問者がマラリアに感染していることがサバン島の保健センターで確認されました。各家庭を回って血液のサンプルを集めるなど、地域のボランティアの人々は3万人の住民が暮らすサバン島から今後もマラリアを根絶し続けるために極めて重要な役割を果たしています。

耐震性の高い学校の建設

サバン島の視察でマラリアの検査を受けるレーク事務局長
© UNICEF Indonesia/2014/Estey
サバン島の視察でマラリアの検査を受けるレーク事務局長。

それと同時に、政府は防災教育や何百もの耐震性の高い学校の建設にも力を入れてきました。津波の3カ月後に大地震に見舞われたアチェ州と北スマトラ州のニアス島に建てられたおよそ300校の学校は、ユニセフの支援により建設されました。

バンダ・アチェにあるムハマディア小学校は津波で全壊し、学校に登校していた約300人の児童のうち、助かったのはわずか17人でした。ムハンマディア小学校は、被災後マグニチュード8.0までの地震に耐えられる安全基準をもとに、アチェ州で初めて再建設された学校です。通気性のいい教室と大きな非常用扉が備えられたこの新しい学校は、雨季の時期の浸水を防ぐため、高く築かれた土台の上に建設されました。

2013年、マグニチュード6.7の地震が起こりましたが、学校の壁には傷ひとつありません。

レーク事務局長はムハマディア小学校で定期的に行われている防災訓練も見学しました。この訓練では、応急処置訓練や地震発生時に取るべき行動を子どもたちが簡単に思い出せるように作られた歌も歌います。「ムハマディア小学校が耐震性の高いものに再建されていなければ、地震で命を失っていた子どももいたことでしょう」と、レーク事務局長は語りました。

子どもたちが主役の防災計画

ジャカルタで行われたインドネシア政府とレーク事務局長の会談の主要なテーマは、津波からの教訓でした。レーク事務局長はマルティ・ナタレガワ外務大臣にインドネシアの防災への取り組みが収めた成果への慶祝の意を表し、ユニセフはこれからもインドネシアや他の国で津波からの復興支援で得られた知識を生かすため、政府と協力して活動を続けることを強調しました。「インドネシアは人道的危機から子どもたちを守り、被災前よりもより良い社会を構築する術を世界に示しました」(レーク事務局長)

また、津波後のインドネシアの高い経済成長を例に示し、復興や成長の過程からすべての子どもたちが利益を得られ、子どもたちを防災や開発課題の主役のひとりとして位置付ける必要があると強調しました。

「子どもたちの教育、保健、保護に投資をすることを、ただ単に経済成長の利益の分配として考えてはいけません。子どもたちを支援することは、国の成長を促進させる力にもなるのです。子どもたちは次世代を担う大切な存在です。それにも関わらず、最も災害の影響を受けやすい立場にある子どもたちが適切な教育を受けられず、健やかに成長できなければ、健全な経済や社会の構築を成し遂げるなどできません」(レーク事務局長)


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