メニューをスキップ
HOME > 世界の子どもたち > ストーリーを読む
財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

南スーダン:
避難所で出産する母親たち
避難を強いられている妊産婦に必要なケアを

【2014年6月5日 南スーダン・ミンカマン発】

南スーダンでは昨年12月に武力衝突が発生して以降、不安定な情勢が続いています。国内避難民が多く身を寄せるミンカマン(Mingkaman)の避難所を訪れたケント・ページ広報官による報告です。

* * *

避難所の小さなテントで誕生した、小さな命

南スーダン・ミンカマンにある避難所のテントで生まれた、生後4時間の赤ちゃん
© UNICEF South Sudan/2014/KentPage
南スーダン・ミンカマンにある避難所のテントで生まれた、生後4時間の赤ちゃん。

その日避難所で出会ったのは、生まれてからまだ4時間の赤ちゃんでした。夜が明けきらぬ暗闇の中、ビニールシート製の小さなテントの中で生まれました。ここは、南スーダンの多くの国内避難民が身を寄せる、ミンカマン避難所。小さな命は、テントの中の汚れた床の上にひかれた薄いマットレスの上で産声をあげたのです。

ビニールシート製のテントは、中で立つことができないほど小さく、マットレスの他にはほとんど何も置かれていません。床は泥でぬかるみ、激しい雷雨が頻繁にあるこの時期には、テント内にまで雨水が浸水してしまいます。テントの中は湿度が高く、とても暑く感じました。空気は滞り、息苦しさを感じるほどです。

布に包まれて心地よさそうに眠る赤ちゃんを抱きかかえながら、母親が身体を起こしました。避難民キャンプで出産した母親は、疲れているように見えました。しかし誇らしげで、とても幸せそうでもありました。まだ名前もないこの赤ちゃんは、19歳のクエイさんと23歳の夫、ルーベンさんにとって、初めての子どもです。クエイさんは息子を母乳で育てていました。これは、とても大切なことです。母乳で育つ赤ちゃんは、母乳を飲まずに育った子どもと比較すると、生存の可能性が少なくとも6倍高まるからです。

安全な出産を手助けする、出産キット

赤ちゃんの健康状態を確認するフローレンス助産師(左)と母親のクエイさん(右)
© UNICEF South Sudan/2014/KentPage
赤ちゃんの健康状態を確認するフローレンス助産師(左)と母親のクエイさん(右)。

2013年12月中旬、ジョングレイ州のボル付近で起こった暴力や武力衝突。身の安全のために自宅からの避難を余儀なくされたとき、クエイさんは妊娠4カ月でした。クエイさんと夫が避難する際に持ち出すことができたのは、数枚の服だけでした。ナイル川の近くで数週間身を隠しながら、屋外で眠っていました。そして安全に避難できるときを見計らい、川を渡ってレイク州のミンカマン国内避難民施設に避難してきました。

130万人以上が避難を強いられている今回の紛争勃発よりも前から、南スーダンは世界で最も妊産婦死亡率が高い国のひとつでした。クエイさんはミンカマンにたどり着いてから、避難所に設置された、ユニセフが支援するプライマリ・ヘルスケアや妊産婦ケアを行っている診療所を訪れています。

「昨日、出産前健診を受けるために診療所に行き、助産師に診てもらいました。まだ破水はしていないけれど、もうすぐ産まれるだろうと言われました」と、クエイさんが語ります。

訓練を受けた助産師のフローレンスさんは、クエイさんに清潔な出産キットを手渡していました。そしてこのキットが、クエイさんや赤ちゃんの命を守ったのです。このキットは、女性が少しでも安全で衛生的な環境で出産できるように手助けをするためのものです。なかには、ビニールシートや石鹸、清潔なカミソリ、出産方法が書かれたイラスト入りの説明書などが入っています。

「診療所から帰宅した日の真夜中に、陣痛が始まりました」と、クエイさんが話します。夫がフローレンス助産師を捜しに行っている間、義理の母親がクエイさんに付き添っていました。しかし、出産はとても早く進みました。夫の帰宅を待たない朝4時頃、クエイさんは義母の介助のもと、テントの中で赤ちゃんを出産しました。助産師が手渡していた出産キットのおかげで、清潔な環境下で出産ができたのです。

緊急支援物資の提供や啓発活動を実施

ユニセフはパートナー団体と協力してミンカマンの保健システムの支援に力を入れている
© UNICEF South Sudan/2014/KentPage
ユニセフはパートナー団体と協力してミンカマンの保健システムの支援に力を入れている。

出産後間もなく、フローレンス助産師が診療所から医療用品を持って、母親と赤ちゃんの健康状態を確認しにやって来ました。フローレンス助産師は医療用手袋をはめて母子ともに健康な状態であるかを確認し、翌朝もう一度診察に訪れることを約束しました。そして、3日以内に診療所で健康診断を受ける必要があることと、必要なときや質問があるときにはいつでも診療所に来るようにクエイさんに伝えました。2人は赤ちゃんに手を添えながら座りました。静かに、この特別な時間を大切に共有しているようでした。

10万人以上が暮らすミンカマンで以前から運営していた診療所は、この大規模で急激な人口の増加に対応しきれませんでした。

「国内避難民がミンカマンに押し寄せてきた当初は、深刻な状況でした。多くの母親が誰の手助けも得ることができないまま出産しなくてはいけませんでした」と、ユニセフ南スーダン事務所の保健・栄養専門官のガラング・クア・アピウ医師が語ります。「ユニセフは世界保健機関やパートナー団体と協力して、保健システムの支援に力を入れてきました。現在、ミンカマンで活動する5つの保健・医療分野のパートナー団体を支援しています」

ユニセフはミンカマンで活動するすべての保健・医療分野のパートナー団体にリプロダクティブ・ヘルスの緊急支援物資を提供しています。また、ラジオでの公共CMや地域社会での啓発活動を通して、出産前後ケアや、医療施設で出産する重要性についての認識向上にも力を入れています。

避難所での育児支援

クエイさんの夫のルーベンさんは、父親になった大きな喜びを感じていますが、同時に先の見えない不安も抱えています。「無事出産をすることができましたが、難民キャンプでの生活では仕事もありません。赤ちゃんを育てるためには、適切な食事や衣服など、たくさんのものが必要です。しかし、今の状況ではクエイや息子のために必要なものを手に入れることすら、私にはできないのです」

生後まだ1日のクエイさんの息子は、政情不安が続く南スーダンで生きていくために必要な支援とともに、両親の愛情をたくさん受けて育っていくことでしょう。

【関連記事】

トップページへコーナートップへ戻る先頭に戻る