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日本ユニセフ協会
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ユニセフ南スーダン事務所
ガルシアタピア教育専門官と山科子どもの保護専門官による報告
「紛争下の平和構築〜南スーダンの活動事例」


【2016年2月1日  東京発】

2011年7月に独立を達成した東アフリカの国・南スーダンでは、2013年12月に内戦が勃発。昨年8月に和平合意が結ばれたものの、現在も断続的に戦闘が起きています。これまで比較的安定していた西エクアトリア州においても昨年12月以降、戦闘が増え、女性や子どもへの暴力や国内外への避難が相次ぐなど事態は深刻です。この度、ユニセフハウスにおいて、ユニセフ・南スーダン事務所に勤務するガルシアタピアさんと山科さんが、現地での教育および子どもの保護に関する取り組みを報告しました。

長期化する紛争に苦しむ南スーダンの子どもたち

南スーダンの地図

c日本ユニセフ協会

南スーダンの地図 (※地図は参考のために掲載したもので、国境の法的地位について何らかの立場を示すものではありません)

長引く紛争により、南スーダンの41万人の子どもたちは学校などでの学習機会を奪われています。紛争前から未就学であった子どもたちを含め、現在、少なくとも約180万人の子どもたちが学校に通うことができていません。戦闘地域にある学校の70パーセントは機能しておらず、小学校への入学率は、35パーセントに留まっています。学校を支えるインフラも脆弱です。乾季には気温が50度に達することもありますが、63パーセントの学校では安全な水の供給がなく、52パーセントの学校ではトイレの設備さえも備わっていません。また、何らかの訓練を受けている先生の割合は37パーセントと低位です。

背景として、和平合意後も続く戦闘により、(2015年12月末時点で)約235万人もの避難民が出ていることが挙げられます。国連の推計によると、紛争開始以降、170万人近くの人々が国内避難民(うち90万人以上が18歳未満)、64万人以上が周辺国への難民となっています。国内避難民のうち、比較的安全な文民保護区で暮らす人はごく一部で、大半は茂みなどに隠れ、危険かつ不安定な生活を強いられています。

また、紛争の長期化と脆弱な政府機能に不安定な経済状況が加わり、教育などの社会サービスのための国家予算や人員をほとんど確保できないという事情があります。現状では、社会サービスの多くの部分を、ユニセフや他の国連機関が担っているのです。

紛争下において教育は平和への入り口

「再び学ぼう」キャンペーンの支援を受けたジュバの生徒たち。「僕は学校に通うんだ」と書かれたバナーを掲げる男の子。

c UNICEF/UNI179440/Campeanu

「再び学ぼう」キャンペーンの支援を受けたジュバの生徒たち。「僕は学校に通うんだ」と書かれたバナーを掲げる男の子。

学習機会を奪われてしまった子どもたちに対して、ユニセフ・南スーダン事務所の教育部門は、「バック・ トゥ・ラーニング(再び学ぼう)」キャンペーンを実施しています。このキャンペーンは、ユニセフの他の部門やパートナー団体と連携し、紛争下の子どもたちに質の高い基礎教育の機会を提供するものです。

「再び学ぼう」キャンペーンの第1段階では、現地の気候・風土に合わせた仮設の学習場所を設置し、学校に行けない子どもたちの受け入れを進めてきました。また、先生やボランティア、教育スタッフ等の人材のトレーニングに注力しています。その結果、2015年末の時点で、学習機会にアクセスできる子どもの数、学習施設の数、訓練を受けた教員・職員の数は、2014年に比べて順調に増加しました。特に、女子教育は不要という意識がいまだ根強いなかでも、女の子の学習への参加を促進できたことは大きな成果だと言えます。

教職員の訓練には、子どもたちが狭義の勉強にとどまらず、健康を保ちながら幅広いライフスキルを獲得し、平和を構築する力を養うことを目指しています。具体的には、病気の予防や安全な衛生環境の維持、暴力・緊急事態への対応、教室運営管理能力の向上など教育を出発点としながらも、ライフスキルの向上を通して、平和構築・子どもの保護・衛生・栄養といった多面的な問題に対応できると考えています。

ノートと鉛筆を手に、笑顔を見せる子どもたち。

c UNICEF South Sudan

ノートと鉛筆を手に、笑顔を見せる子どもたち。

もちろん課題もあります。戦闘が続くなかで、現場のオペレーションは困難を極めます。人材・教材や学習場所を確保するのも容易ではありません。次段階に向けては、事業の持続可能性を高めていくことが重要です。まず、ユニセフの教育事業が、子どもたちの間で新たな衝突を生まないよう十分な注意を払うことが不可欠と考えます。他国の実践例をそのまま取り入れるのではなく、南スーダンの現地コミュニティの慣習に合わせた「コンテクストベース」のアプローチをとる必要があります。特に、女子教育を進めるうえでは、就学を奨励したことでコミュニティに属する女の子たちに負の影響を及ぼすことがないよう、グローバル、ならびにローカルなパートナーシップと連携し、コミュニティへの働きかけを強化しながら取り組んでいます。また、学校や学習場所の運営主体がオーナーシップを持つことも、持続可能性を高めるカギになります。実際に、政府、自治体、PTAなどが徐々に積極的な姿勢を示しています。このようなアプローチを通して、いま学習に取り組んでいる子どもたちに継続して通ってもらうことに加え、新たに就学する子どもたちの受け入れをさらに進めたいと考えています。

青少年、遊牧民や女性に対する支援に注力

勉強をする少女。

c UNICEF South Sudan

勉強をする少女。

教育部門は、10歳から18歳までの青少年への教育にも力を入れています。青少年のなかには、社会への関心や将来への希望を持てず、武装勢力に加入してしまう事例も多くみられます。このような状況下で、ユニセフは今年、「青少年向けイノベーションキット」という教材を、現地の教育水準に合わせて活用していきます。このキットを用いた創造的なアクティビティを通して、平和構築を進めるうえで不可欠となる、意思決定、リーダーシップ、未来への希望といった能力・行動特性の開発を目指します。この活動は単なるレクリエーションではなく、青少年の心のサポートにもつながるという点が強みなのです。

また、「キャトル・キャンプ」と呼ばれる、牧畜を生業とするコミュニティの子どもたちへの支援を展開していきます。キャトル・キャンプで生まれ育った子どものほとんどは、家畜に関する伝統的な知識を教わりますが、正規の教育を受けていません。学校が遠くて通うことができない、子どものうちから家畜の世話をする、少数言語のみを話すため遠くの学校で行われている英語の授業を理解できない、といったことが背景にあります。閉鎖的なコミュニティのためアクセスすることが困難な場合もありますが、キャンプの子どもたちにも学習の機会を提供できるよう、ユニセフとして取り組みを強化しています。

報告を行ったユニセフ・南スーダン事務所に勤務するガルシアタピアさん(右)と山科さん(左)。

c日本ユニセフ協会/2016

報告を行ったユニセフ・南スーダン事務所に勤務するガルシアタピアさん(右)と山科さん(左)。

一方、南スーダン事務所の子どもの保護部門では、教育部門と連携しながら、特に差別・暴力の問題への取り組みを行っています。例えば、女子を就学させないという社会慣習があるなか、いかに女子教育の必要性を理解してもらうか、現地の人々とも議論を交わしながらプログラムを実施しています。また、学校での性暴力への対応も急務です。性暴力の被害にあった女子への心のケアなど、支援の仕組みを考案したり、女の子が安心して使えるトイレや専用スペースを設置したりするなど、性差に基づいた問題への対処を進めています。また戦闘から逃げ延びた女性や子どもたちに対し、ユニセフは心理社会的支援や離れ離れになった家族との再会支援などを行っています。

たとえ今後の和平合意により戦闘が終結したとしても、長期の内戦により傷ついた子どもたちへの支援はこれから本格化するのです。シリアなど中東地域に比べて、南スーダンは必ずしも注目度が高いとは言えませんが、ユニセフの取り組むべき課題は山積しています。ガルシアタピアさん、山科さんはこのように述べて報告を締めくくりました。

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日本ユニセフ協会は、南スーダンなど、紛争下で人道危機にある国や地域で、困難な状況にある子どもたちのための緊急援助資金として、「人道危機緊急募金」へのご協力をお願いしています。皆様からのご支援をよろしくお願いいたします。


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