【2017年1月18日 東京発】
1月18日、日本ユニセフ協会は、映画『いのちのはじまり』上映会を、ユニセフハウス(東京)にて開催しました。
映画『いのちのはじまり』は、ブラジル人のエステラ・ ヘネル監督が8か国で撮影・制作した約90分間のドキュメンタリーで、乳幼児期の子どもを取り巻く環境が子どもの社会性や人格を形作り、その時期に、親や社会が子どもに対してどのような働きかけをするかが、その後の人生を左右するほど大切だというメッセージを発信する作品です。
昨年に引き続いて行われた今回の上映会では、ゲストスピーカーに、国連子どもの権利委員会の委員に日本人として初めて選ばれた大谷美紀子弁護士をお招きし、「子どもの権利」の視点からECDに関わる施策の重要性について話していただきました。
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©日本ユニセフ協会/2017 |
子どもの権利条約は、世界で最も短期間に最も広く批准された人権条約で、現在は196の国と地域が批准しています。1989年に国連総会で採択され、日本がこの条約を批准したのは1994年です。現在では、母子手帳にも「子どもの権利条約」が書かれている自治体があると言います。
子どもの権利条約は、子どもは保護される存在であるだけでなく、子どもが権利の主体である、という基本的な考え方に立っています。そして、その権利は、本映画の主題となっている「Beginning of LIFE=いのちのはじまり」の瞬間から、子どもが持っているものです。
大谷弁護士が委員となっている「子どもの権利委員会」は、年に3回会合があり、各国がどのように条約を実行しているかの審査のほか、子どもの権利保障に関する重要なテーマについて、一般的意見と呼ばれるものをまとめています。「乳幼児期の子どもの権利」が一般的意見で挙げられたのは、2005年。「思春期の子どもの権利」が2016年であったことに比べて、乳児期の子どもがテーマとして取り上げられたのは、それから10年以上も前。その点からも、乳幼児期は重要だということが強調されています。
© UNICEF/UNI115670/Nesbitt |
大谷弁護士がしばしば聞かれる問いかけに、「子どもの人権って何?」というものがあるといいます。基本的には、選挙権などの権利を除くと、大人が認められている人権のほとんどが、子どもにも認められています。同時に、子どもは権利の主体とはいいつつも、未成熟で特別な保護が必要な存在です。そのため、同じ権利とはいっても、その行使の仕方にはいろいろな制約があり、大人からの適切な助言や指導が必要です。そのような仕組みの中で、子どもの権利は守られています。
続いて大谷弁護士は、子どもの権利の4つの重要な原則を紹介しました。一つ目は、「生きる」ということ。発達し、成長し、能力を開花させる権利です。子ども自身が持っている力が、子どもの権利でもあるのです。二つ目は、差別をされない権利。生まれた環境、国籍、民族、障がいの有無などの違いに関係なく、どんな子どもも差別なく暮らす権利があります。三つ目は、子どもの最善の利益の原則です。子どもに関する決定をするときは、子どもにとって何が最善か、ということが考慮されなければなりません。
そして四つ目の原則、「子どもが意見を聴かれる権利」があります。これは、子どもがすべてを決定するということではなく、子どもの声、考えていること、感じ方をおとなが聴き取り、子ども自身の考え方、意見をくみ取って、子どもに関する決定に反映する、ということです。
特に乳幼児期の子どもは、言葉にならない表現方法で、自分の気持ちや考えを伝えていると、大谷弁護士は言います。それ故に、「耳を澄ませて、感覚を研ぎ澄ませて、子どもの発達についての知識をもって、子どもが伝えたいことや子どもの気持ちを理解する」という力が、私たちの方にも必要になります。
©Beginning of Life |
大谷弁護士は、乳幼児期を「その後の成長、発達の基礎をつくる、一生の土台作りになる」時期だと言います。いろんなことを吸収する力、成長の速さからみても、乳幼児期のこの時期が一番大事だと訴えます。
そして、父母など、子どもの養育に主として関わる人たちは、子どもの重要な時期に子どもの一番身近にいる大切な存在である一方で、大切であるがゆえに、とてもプレッシャーを感じてしまうこともあります。実際に2児の母である大谷弁護士も、自身が子育てをしている際に、迷いやプレッシャーを感じたと語ります。
子どもの権利委員会は、乳幼児期の子どもの権利の保障のためには、子どもの養育に主として関わる人たちを支援することも重要だとしています。子どもの乳幼児期が大事だということは、つまり、その時期に一番関わる人たちへの支援が大事だということでもあり、その支援は国の責任だと言います。
この時期に子どもに接することは、子どもの豊かさ、生命力を感じ、楽しいこともあるが、「大変な時には周りに支援をもとめてもいい。その支援の体制をつくっていかなければならない」と大谷弁護士は語ります。
©日本ユニセフ協会/2017 |
本映画の中に、「子どもを育てるには村が必要」という表現がでてきます。これは、アフリカの諺(ことわざ)です。子育ての方法は一つではなく、母親、父親、祖父母、それぞれに役割があります。また、子育ては、家族だけの“仕事”でもなく、近所の人にも、地域の人にも、“役割”があります。子育ては、コミュニティ全体の力を必要としている、という意味を諺は伝えています。
大谷弁護士は、最後に、本映画の中で出てきたこの諺に言及し、「本当にそうだと思います。大変な、でも、とても価値のある乳幼児期に、私たち皆が、子どもの人権と言う観点からも、関わっていければ」と述べられました。
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© UNICEF/UN032017/LeMoyne |
ユニセフは、乳幼児期の子どもの発達(Early Childhood Development = ECD)を サポートするケアの重要性と、同分野への官民の投資を訴える「ECD世界キャンペーン」を1月10日、開始しました。
乳幼児期は、人間の一生の中で脳が最も発達する期間で、毎秒1,000近くの神経細胞の接続がおこなわれます。これらの神経結合は、学ぶ能力、変化に適応する能力、逆境を処理できる能力などに貢献し、その子どもが将来的に健康で豊かな生活を送る基礎となります。一方で、この時期に栄養が不足したり、適切な刺激を受けられなかったり、暴力や虐待に晒されたりすると、子どもの脳は適切に発達できず、その影響は生涯に及ぶ可能性があります。
ユニセフは、本キャンペーンを通じて、両親や子どものケアに関わる人たちに対して、胎児期から2歳になるまでの「最初の1000日」におこなうケアの重要性や、乳幼児期の経験が脳の発達に及ぼす影響についての認識向上を目指すとともに、各国政府に向けて、乳幼児期の子どもたちへの投資の増加、幼い子どもたちを対象にした保健や社会サービスの拡充、両親や子どものケアに関わる人たちへのサポートの強化を求めています。
今週スイスで開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)においても、ユニセフは、ECDの重要性に関するスピーチやディスカッションの機会を設けました。
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