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日本ユニセフ協会
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ユニセフ・イエメン現地報告会
『紛争下の教育支援 - 子どもたちの未来をあきらめない』
大平健二・教育専門官

【2017年1月24日  東京発】

2015年3月に紛争が激化してから、まもなく2年を迎えようとしているイエメンでは、この間、政府、反政府勢力間での戦闘や複数の武装グループによる暴力的な活動によって、一般市民が暮らす市街地等への攻撃が繰り返され、多くの住宅や学校、病院など人々の生活に不可欠なインフラや施設が破壊されました。1,400人近くもの子どもたちが犠牲になり、国全体に深刻な栄養不良が広がるなど、現在人口の70%に相当する1,880万人が人道支援を必要としています。 

2014年11月にユニセフ・イエメン事務所に着任し、厳しい状況の中活動を続けてきた大平健二教育専門官が、イエメンの子どもたちの現況や、平和構築や暴力緩和を盛り込んだ教育プログラム支援を含む紛争下の教育支援を中心にユニセフの取り組みを報告しました。

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イエメンという国

イエメンの様子

© UNICEF Yemen

イエメンはアラビア半島の最南端にある国で、聖書に登場する「ノアの箱舟」のノアの息子が築いたのが首都サヌアであると言われていたり、同じく聖書の「エデンの園」は、イエメン第二の都市アデンであるという話が残っていたりするほど、古い街を有した国です。11世紀以前の建物が立ち並ぶサヌアは、街そのものが世界遺産になっています。日本人にもなじみのあるモカコーヒーは、エチオピア原産のコーヒー豆をイエメンのモカという港から輸出していたため、モカコーヒーという名で知られるようになりました。

イエメンの現状

アラブの春が波及して混乱が続いていたイエメンで、戦闘にはならなかったものの、反政府派が首都を占拠したのが2014年9月。それに対し2015年3月26日、政府からの要請を受けたサウジアラビアを中心とする連合軍が空爆を開始しました。ユニセフ・イエメン事務所で勤務する外国籍の職員はこの3日後に国外退避となり、ヨルダンから遠隔での支援を続けていましたが、国内に残るイエメン人スタッフとのスカイプ会議中に大きな爆発が起こって会議が中断するといった緊迫した状況もありました。

休戦協定は1年経ってからようやく結ばれ、2016年4~6月に一時休戦となりましたが、それも長く続かず、今に至っています。また政府対反政府派という構図だけでなく、アルカイダ系のグループやISなどのテロリストグループも存在しています。

紛争の原因は、歴史的に虐げられてきたフーシー派(反政府)と政権側との長年の対立や、スンニ派(サウジアラビア)とシーア派(イラン)の代理戦争としての側面などがあげられますが、一般市民の間には、宗教的な対立はないのです。

“見えない”イエメン

イエメンの子どもたち

© UNICEF Yemen

イエメンでは、この紛争によって2年間で約7,000人が命を落としましたが、そのうち1,360人が子どもでした。子どもの負傷者は2,000人以上で、89の病院と186の学校が地上戦で攻撃を受けました。また、数万人がジブチに難民として滞在し、国内避難民は200万人以上にのぼっています。

しかしイエメンのこうした状況は、シリアなどと比べて、注目されにくい現状があります。多くの難民を出し各国を巻き込んで大きなニュースになっているシリアとは違い、海、砂漠、サウジアラビアとの国境に囲まれたイエメンからはほとんど難民が出ず、一国の中で紛争が完結していること、ジャーナリストも含め国連職員以外はほとんどイエメン国内に入れないため、情報も出てこないことが大きな要因です。しかし実際は、確認できているだけでも子どもの兵士が1,249人おり、検問所などで実際に子どもの兵士を見かけることがあります。私の担当の教育の分野でも、およそ1,400校が空爆で全半壊の被害を受け、170校が避難所として使われているので学校として使用できず、学校に通えない状況の子どもがピーク時で350万人(学齢期人口の半数)、現在も推定200万人いると考えられています。

狙われる学校

日本でもそうですが、スペースがあり屋根がある学校には人が集まり、避難所として使われます。そのため、食糧も貯蔵しているので、その食糧を狙って襲ってきます。またトラックで食糧を搬入していると武器を持ち込んでいると誤解されて攻撃されることもあります。

イエメンの教育状況に対して、ユニセフは、教室用のテントや通学バッグ、文房具の提供、校舎の修復、試験のサポート、また学校での心のケアなどをおこなっています。校内で避難民が暮らしている学校では、校庭で試験をおこなう場合もあります。

平和を希求する市民~平和構築プログラム

ユニセフの平和構築プログラムで平和について学んだ生徒が、周辺の学校で出前授業を行う様子。

© UNICEF Yemen

紛争勃発前から、教育支援の一環でおこなっていた学校での平和構築プログラムがあります。暴力はいけないということを伝え、学校レベルで平和に取り組むためのプログラムで、マニュアルを作ってそれに沿って教員に研修をしたり、平和についての詩や絵を描く活動、人形劇やビデオ教材を使った啓蒙活動などを行います。このプログラムを通じて平和について学んだ生徒が、周辺の学校に出前授業に行くなど、当初ユニセフが想定していなかった広がりを見せています。また、体罰に反対する啓蒙ビデオをユニセフ・イエメン事務所のFacebookで公開したところ、最初の3日間でイエメン内外の40万人が閲覧し、6,000もの「いいね!」が押されました。通常の投稿につくのが100程度ですから、こうしたことからも、一般市民が本当に平和を、暴力のない世界を望んでいることがわかります。

現場での苦労や喜び

ユニセフ・イエメン現地報告会に登壇した大平健二・教育専門官(2017年1月24日)

©日本ユニセフ協会/2017

ユニセフ・イエメン現地報告会に登壇した大平健二・教育専門官(2017年1月24日)

現場での活動はいまも大変です。まず移動が非常に不自由で、多方面に許可をとらなくてはならず、通常許可が出るまでに5日間ほどかかります。イエメンに赴任した2014年11月当時は、危険なので地方へは陸路で行けず、空路でしか行くことができませんでした。しかし、いまは制空権を連合軍が握っているため、陸路でしかいけません。人道支援のための物資や人を載せて移動する車の屋根の上には、許可を得ている隊列であることが分かるように、番号を提示しています。どの地域、どの宗派の子どもでも、ニーズがあれば支援をしますので、中立な立場で政府とも、反政府勢力とも話をして活動します。

支援の現場では、爆撃された学校に不発弾が残されたまま、そのすぐ隣の教室で子どもたちが授業を受けていたり、正装した子どもに銃を持たせる伝統文化を目の当たりにするなど、驚くことがたくさんあります。拷問を受けたイエメン人の友人は、身を守るために武器を手ばなせなくなっています。幸い、直接の友人や知人が亡くなるといったことは起こっていませんが、友人の友人や親戚は何人も犠牲になっていて、どれだけ多くの方が厳しい状況に置かれているのだろうかと痛感します。

一方で、嬉しいこともあります。学校を訪れると歓迎してくれる子どもたちの笑顔や、日本のアニメが大好きでとても親日的なイエメンの人々、そして共に働く同僚たちの存在はいつも私に力をくれます。

今日は様々な数字をご紹介しましたが、なかなか実感が湧かないことも多いと思います。そんなときは、ぜひ“人”に焦点を当てて、自分のこととして考えていただけたらと思います。目を向けて、知ることからすべては始まります。少しでもイエメンのことを知っていただけたら嬉しいです。

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