【2018年1月24日 東京発】
公益財団法人日本ユニセフ協会は、2018年1月11日(木)ユニセフハウス(東京都港区)にて、ユニセフ・バングラデシュ事務所代表によるロヒンギャ難民支援報告会を開催しました。
©UNICEF JAPAN/2018/Chizuka |
ロヒンギャの問題は、決して新しいものではなく、ミャンマー独立以来続く問題です。これまでにも、78年、91年、2012年、2016年12月とロヒンギャの人々の国外流出は起こっていました。しかし昨年8月に始まった今回の流出は、これまでの規模とは大きく異なります。数週間という短期間に65万5,000人を超える新たな流出があったのです。すでにバングラデシュ国内にいた難民25万人と合わせると、コックスバザールには今およそ100万人が逃れ、さらにホストコミュニティに身を寄せる20~30万人を加えると、合計120万人が故郷から逃れて来ていると見られています。
現在、難民キャンプに登録されている難民は4万5,000人ですが、仮設キャンプや居住地区、自発的にできたキャンプもあり、それらの場所に相当数の人々が暮らしています。もともと、コックスバザールはバングラデシュ国内でも最も貧しい地域です。そこに新たに、大きな難民問題が降りかかったのです。
© UNICEF/UN0147300/Brown |
大量の難民流入が始まった8月25日以前、難民キャンプ内での活動は限られたものでした。教育の機会を得られていなかった子どもたちに非公式教育の場を提供したり、子どもにやさしい空間を設置するなどの活動が主でした。しかし、この8月25日を境に、私たちユニセフの活動の内容や規模、緊急度合は大きく変わりました。
10人程度だったフィールドオフィスは大幅に増員し、100人規模の体制になりました。そうした増員、物資調達、急増した活動団体とのコーディネーションなど支援体制の変更を進めつつ、並行して、政府やパートナーとプログラムについて協議し支援を開始しました。8月25日以前に活動していたNGOは5~6団体程度でしたが、今は40もの団体とパートナーシップを結び活動しています。民間企業からの動員やロヒンギャの人々の雇用もおこなっています。こうしたことすべてを同時進行で行うことで、活動の拡大を図りました。
支援を実行に移していく中で、ユニセフにとって大切な2つの柱があります。一つ目は「生存」、生き抜くことです。そのために重要なのは、予防接種を含む保健分野、水と衛生分野、栄養分野の支援です。2つ目の柱と私が考えるのは、「希望」です。子どもたちをできるだけ通常の生活に戻すということがこれに相当します。家族と離ればなれになった子どもを家族と再会させる、里親に託す、また、ミャンマーやキャンプ内で非常に深刻な経験をしている子どもたちに適切な心理社会的ケアを提供していくこと等が重要です。教育も、日常を取り戻すために非常に重要な分野です。朝起きて学校に行き、何かを学び、自分の将来について考えることができるのが教育の場だからです。
人々に適切なサービスを提供するのは、時間との戦いです。たとえば、2,000カ所の安全な水場や1万9,500カ所の仮設トイレを設置する、45万人に公衆衛生に関するメッセージを届けるといった目標を掲げて、様々なパートナー団体と協働しながら取り組んでいます。
難民の流入において、第一陣として入った人々はすぐにバングラデシュ国内に入れましたが、その後時間が経つにつれ、数週間をかけてようやく到着するといった難民が増えてきました。そうした難民の人々は、栄養状態が非常に悪い状態でキャンプにたどり着くのです。難民キャンプ内においても、不衛生な環境によって下痢が発生し、栄養不良に陥る子どもが多数確認されました。食料や栄養素が不足しているという事情もあり、一時期子どもたちの栄養状態が非常に悪化したため、当初の目標よりも多くの子どもたちに栄養不良の治療やケアを提供しています。
© UNICEF/UN0153998/Knowles-Coursin |
親とはぐれたり保護者のいない状態の子ども2,500人に対しては、家族の追跡調査や再会支援を行っていかなければなりません。惨劇を目撃した子どもたちへの心のケア、カウンセリングも強化していく必要があります。心のケアの一環として、内に秘めた感情を絵で表現してもらうといったプログラムなどをおこなっています。その他、心理社会的ケアプログラムを通じて、追加的な支援が必要な子どもを特定していきます。
このような緊急事態において忘れられがちな若者に対する支援、ジェンダーに基づく暴力などにも対応する必要があります。たとえば、ミャンマー国内でレイプされた少女が難民となってやってくる場合がありますが、もしレイプによって妊娠していたらどのような支援が必要なのか、また生まれてくる子どもにはどのように対応すべきなのか、支援を提供する側も体制を強化していく必要があります。また、初等教育を受けるには年齢が高すぎ、しかし働くには若すぎる若者たちが、訓練を受けライフスキルを身につけられるようにしなくてはなりません。
© UNICEF/UN0155469/Sujan |
巨大なキャンプでは、保健分野の問題も巨大になります。特にロヒンギャの子どもたちのほとんどは、ミャンマーで予防接種を受けていません。そのため、コックスバザールでは感染症の発生がすでに見られています。ユニセフは政府による予防接種プログラムに協力し、はしか、ポリオ、コレラの予防接種を推し進めています。特にコレラは、過去にも世界の同様の緊急事態において多くの人が命を落としています。そのため、少しでも感染を軽減するために、キャンペーンの形で大きく展開しています。ジフテリアに対しても、すでに第1段階のキャンペーンを終えていますが、3月までに計3段階にわたって予防接種をおこなっていきます。
前述のとおり、緊急事態において、教育は子どもたちが日常を取り戻すために重要です。幼児教育、非公式教育は、すでに6万7000人以上が受けられるようになりました。これは大きな成果ですが、全体に占める割合では未だ、教育が必要な子どもの1/3に留まり、この割合を高めていかないといけません。
これらの活動に必要な資金に関して、2017年は比較的資金が確保できたため、前年からの繰越金で2018年の活動をスタートしていきます。しかし、現在掲げている必要資金額で支援できるのは、難民キャンプ内の人々の半数強、受け入れコミュニティ内の難民の半数弱です。今後はキャンプ内だけでなく、受け入れコミュニティにも目を向けて対応していかなければならないと考えています。
課題は多く残されています。まず、政治的な課題。ロヒンギャ難民のミャンマーへの帰還については、ミャンマー国内での受け入れ体制が整うことが必須です。そのためには国籍や権利といった問題を解決しなければなりません。
その他にも、大規模で過密したキャンプ、食料や水などの物資の圧倒的な不足、スラムのような劣悪な生活環境、適切なサービスやプログラムが十分に行き渡っていないこと、道路アクセスの不足、様々な分野をまたいでの支援調整をどのようにおこなっていくのか等の課題があります。共に活動できるパートナーの数も限られています。たくさんの団体が活動していますが、多くは3カ月という短い活動期間しか許可されていません。支援団体間に不必要な緊張が生まれないよう、役割分担も今後しっかりとやっていかなければなりません。
これらの問題に対応しながら支援を加速させていくときに最も重要なのは、やはり「生存」と「希望」だと考えています。「生存」だけでは十分ではありません。人々が生き延びた先に、将来への希望、つまり自分たちの生活がどうなるのか、子どもたちがどうなっていくのかを考えられるような状況になっていかなければなりません。この2点を支援の両輪にして、ユニセフは長期的な解決策を模索していきます。
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エドゥアルド・ベイグベデル 略歴
フランス出身。1995年から2000年にかけて、ルワンダ、コンゴ民主共和国、ケニアなどアフリカ諸国でのユニセフの人道支援にプログラム・オフィサーとして携わる。フランスの人道支援団体やハイテク・エンジニアリング企業を経て、2005年にユニセフ・アチェ事務所チーフに着任。スマトラ沖地震・津波後の復興支援を指揮する。2009年からユニセフ・インド事務所で13州にまたがるユニセフの事業を統括。2012年~2014年にはユニセフ・ハイチ事務所代表。2014年12月より現職。
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