【2018年12月14日 東京発】
2018年10月29日、「日本型子どもにやさしいまちモデル検証作業記念フォーラム」を開催しました。フォーラムでは、検証作業の委嘱状がニセコ町、安平町、富谷市、町田市、奈良市に交付されました。
©日本ユニセフ協会/2018 |
ユニセフの「子どもにやさしいまちづくり事業」(Child Friendly Cities and Communities Initiative=CFCI)は、子どもの権利条約を市区町村レベルで具現化する世界的な取り組みです。子どもとの距離が最も近い行政単位である市区町村等が実践する事業です。日本ユニセフ協会は日本における本事業の展開の準備を進めており、上記5自治体の協力により、ユニセフが提唱する子どもにやさしいまちの構成要素が、日本の自治体における子ども施策にどの位有益であるのか、2年間の予定で検証される事になりました。委嘱状交付日である2018年10月29日以降、2年間の検証作業を経て、この事業が本格的に実施される予定です。
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ユニセフの「子どもにやさしいまちづくり事業」(以下、CFCI)は、市区町村で子どもの権利条約の内容を実践することが大切になります。1996年に開始された本事業は、今では世界の40カ国程で取り組まれています。それらの国々には開発途上国も先進国も含まれており、日本がその一員となるのは、世界の子どもたちの健やかな成長のために活動するユニセフにとって、とても嬉しく、この取り組みの大きな後押しとなると感じます。
CFCIは、市区町村などの行政側だけではなく、市民社会、経済界、子どもたち等が連携しておこなうことがポイントです。「子どもにやさしいまち」とは、子どもが、自分たちが暮らす“まち”の在り方に関して意見を言えたり、意見を聞いてもらえたり、また、安全で安心な環境で育ち、教育・健康などの基礎的社会サービスがあり、遊んだり、勉強したりして育っていく環境のあるまちです。
来年の10月にはドイツのケルン市で、CFCIのサミットを開催し、世界から参加者を募り、この事業の世界中での連携を図っていきたいと考えています。そのためには、日本の参加が不可欠です。そうしたことからも、本日のフォーラム開催の意義はとても大きいと言えます。日本でこの取り組みがもっと広がって欲しいと思います。
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2017年1月より本日のフォーラム開催に至るまで、日本ユニセフ協会CFCI委員会の会議を何回も重ね、「日本型子どもにやさしいまちモデル検証作業」に繋がったのはとても感慨深いものがあります。
CFCI委員会は、自治体職員、NPO関係者、学識経験者で構成されています。本委員会で、ユニセフ本部が「子どもにやさしいまち」の構成要素として提唱する9つの基準、及び、付随するチェックリストを、日本の状況に合うよう修正を加えました。また、新たな構成要素を一つ追加し、合計10の構成要素を日本での子どもにやさしいまちの基準として策定し、これを基準に、ニセコ町、安平町、富谷市、町田市、奈良市の5自治体が2年間の予定で検証作業を行うことになりました。これは素晴らしい前進だと思います。そして、日本型CFCIモデルはその基準をどのくらい満たすことが出来たかを、検証参加自治体が自己評価で判定し、継続的に向上するアプローチを採用しているのも特徴となります。
また、この子どもにやさしいまちづくり事業は、国連が世界的目標として促進をしているSDGs(Sustainable Development Goals=国連持続可能な開発目標)の17の目標と密接に関連しています。誰もが幸福に暮らせる持続可能な環境の形成に大きく関わります。
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ニセコ町は、今年6月に日本政府より「SDGs未来都市」に選定されており、SDGsの目標である「誰一人取り残さない社会」を実現したいと考えています。「子どもにやさしいまちづくり」の検証作業を委嘱されたことはとても光栄であり、この取り組みでは、子どもの意見を聴くだけではなく、子どもたちに対しての大人の説明能力を問われているので、そこもしっかり実践していきたいと考えています。 ニセコ町は、主権者である住民が「自ら考え行動する」、あるいは「住民自治」が、まちの運営の基本と考え、情報の共有化と住民の主体的参加によるまちづくりを実践してきました。2000年には「ニセコ町まちづくり基本条例」を制定しました。この基本条例には、「町民がいかなる差別もされず、まちづくりに平等に参加する権利」や「20歳未満の青少年や子どもたちがまちづくりに参加する権利」等が規定されています。また、子ども一人ひとりが、人間の尊厳と基本的人権を持つ主体として、位置づけられています。これらの規定に基づいて、ニセコ町では、「子ども議会」や「子どもまちづくり委員会」等が行われ、子どもたちがまちづくりに参画しています。
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安平町が取り組むCFCIの一例として、「はやきた子ども園」での取り組みを紹介します。はやきた子ども園では、子ども自身が議論して遊び場をつくる「僕らの遊び場プロジェクト」が、子どもが外で生き生きと遊ぶ「遊び場」が成長過程で欠かせないものとして、実施されています。
町内の小学生を対象にした調査により、低学年の子どもたちは室内でゲームをし、外遊びをしていない実態が明らかになりました。そのため安平町では、子ども園で小学校の子どもたちも遊べるように、総合学習の時間を活用しています。地元の建設業者の協力を得て、園庭に馬小屋を建てて馬を飼ったり、子どもたちと一緒に遊具を作ったりしたことで、子どもたちが外遊びをするようになりました。
子どもの問題は、子どもを教育するだけでは解決しません。子どもは遊びを通じて成長しますが、現代は、子どもだけの力では遊ぶことが難しくなっています。子どもが遊び場を失ったのは大人の責任であり、大人がもう一度、そういう場をつくっていく必要があると考えます。子どもは遊びを通して協調性や意欲、粘り強さ、忍耐力などの生きる力を体得するからです。
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富谷市は、子育て世代の多くを転入者が占めており、気軽に育児の相談をできる相手がいない状況があります。親が生き生きと子育てできれば、子どもも伸び伸びと育ち、楽しい子ども時代を過ごすことができますし、子ども時代の楽しい思い出があれば、育ったまちに対する愛着もわき、「ここで暮らし続けたい」という思いになっていただけるのではと考えています。そこで、妊娠期から子育て期までの母親の悩み事にきめ細やかに対応する、「子育て支援センター」を開設しました。
そして、子どもたちの力を地域に活かす取り組みも行っています。東日本大震災が発生した際、大人の大半が被災して身動きが取れない中、中学生が地域を守る大きな力になってくれた経験から、中学の3年間で地域社会を知り、自分たちで避難所を設営するプロセスを経験する取り組み等を行っています。中学生たちも、「自分たちが地域にとってかけがえのない、頼られる存在である」ことや、「地域には心あたたかく頼れる大人がたくさんいる」こと等、地域社会との強い関係を知ったと思います。子どもたちの力を活かし、子どもたちの声を活かす取り組みを、「子どもにやさしいまちづくり検証作業自治体」として委嘱を受けたことで、さらに強化していきたいと考えています。
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町田市は子どもの居場所づくりに取り組んでいます。公園内に一定のスペースを確保し「冒険遊び場」を設置しています。
放課後の子どもの居場所として、全小学校での学童保育を実施するとともに、子ども本人の意思で自由に遊べる「放課後子ども教室」も設置しており、保護者がどちらかを選べるようにしています。特に、「放課後子ども教室」は保護者が中心となって運営しており、地域全体で子どもを見守り、育てようという機運の醸成につながっています。
町田市が施策を進める上で重視しているのは「子どもの意見を聴く」ということです。子どもの居場所の一つである小型児童館「子どもクラブ」は、現在中学校区ごとに整備を進めていますが、利用する子ども達の意見を取り入れて外観や愛称を決定しています。また、市の事業評価においても高校生に評価人として参加してもらうことで、子どもの意見を取り入れています。本検証作業は、日本型CFCの構成要素をどの程度充足しているか、参加する自治体自らがモデルとなって測定するものと理解しています。
町田市はこの検証作業を通して、国内や国外の自治体と子ども施策を比較・検証し、更なる施策の拡充をはかっていきたいと考えております。
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CFCIの取り組みは、“子どもによる子どものための子どもに関わる分野の活動”といった、活動分野が限定されたものとして考えがちですが、そうではなく、分野をまたぎ多くの人を巻き込んでいく活動だと捉えるべきです。奈良市は、子どもたちの参画を得て「奈良市子どもにやさしいまちづくり条例」を制定しましたが、理念条例に終わってしまうことを危惧していました。それを避けるためにも、「子ども会議」などを開催し、子どもたちから厳しい意見をもらっています。
子どもたちに対して、大人には説明責任があります。行政としてだけでなく、家庭など様々な場面で、説明することが必要です。これが、社会全体にとって重要な、透明性や振り返りになるからです。それ故、子どものための条例ということではなく、子どもを通して社会全体を良くするはずみとしたいと考えています。暮らしている自治体が子どもへの関心が高いか低いかによって、子どもたちが得られる権利や与えられる環境に差が生じてはいけないと思います。そうした点で、本検証作業が、真に普遍性を持たせられるか否かが問われていると思います。
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パネルディスカッションでは、日本型子どもにやさしいまちモデル検証作業を実施する自治体の特徴的な事業として、「子ども条例」、「子どもの参画」、「ジュニアリーダー」、「遊び」「CFCIとSDGs」などが紹介されました。
会場からは、「自治体の規模が小さい場合は子どもの意見を行政に反映しやすいと思うが、規模が大きい場合はそれが難しいのではないか」との問いかけがありました。仲川市長(奈良市)はこの質問に対し、「規模が大きい場合は、地域ごとに小さく分割して子どもとの距離を近くすれば、子どもの声を拾うことができ、対応が可能となる」と語り、奈良市では、各中学校ごとに、生徒たちが解決してほしいと考えている問題をあげてもらったところ、「いじめの問題について対応してほしい」との声を拾うことができ、市が24時間のいじめ電話相談の窓口を開設したことを一例として挙げました。また、石阪市長(町田市)は、「エリアを分け、子どもの声を直接聞くために、出前ミーティングを行っています。自ら子どもたちの声を聞き、それを担当部署に対応してもらうようにしている」と、取り組みの例を紹介しました。
木下教授は、少子高齢化、虐待、いじめなどの課題・問題が増加している状況で、持続可能なまちづくりを、子どもにやさしいまちづくりの検証作業を通じて扱っていくことも出来るのではないかと考えます。CFCIを推進することは、自治体役所内での縦割行政が、横断的な仕組みにつながっていくようになると思う。2年間の検証作業を通じて、互いに学びながら、他の自治体にもこの取り組みが広がっていくことを期待したいと、まとめました。
ユニセフの「子どもにやさしいまちづくり事業」を日本で展開するにあたり、ユニセフの提唱する基準が、日本の自治体の子ども施策にとって有用なものであるかどうか、確認の作業をする必要があると、日本ユニセフ協会CFCI委員会において判断しました。2018年10月29日から2年間の期間で、ニセコ町、安平町、富谷市、町田市、奈良市の5つの自治体に、その適否の確認を判断する作業を委嘱し、2年後の日本全国での本格的な実施に繋げて行こうとする試みです。この検証作業の期間に参加自治体は横の連絡を通じた情報の共有、疑問点の相談を通して確実な進捗を目指し、また、その展開の内容を可視化することにより他の自治体にも参考となるようにする試行です。
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