【2019年1月23日 東京発】
公益財団法人日本ユニセフ協会は、2019年1月9日(水)ユニセフハウス(東京都港区)にて、ユニセフ・バングラデシュ事務所代表と日本人職員によるロヒンギャ難民支援報告会を開催しました。
©日本ユニセフ協会/2019 |
ロヒンギャ難民の問題は、決して新しいものではなく、これまでにもロヒンギャの人々の国外流出はありました。そのような状況の中、2017年8月に起きた大規模な難民流出によって、73万人以上のロヒンギャの人々がバングラデシュに到着しました。うち半数以上のおよそ40万人が子どもです。
すでにバングラデシュにいた人々と合わせると、難民の数は90万6,000人以上。危機の発生から1年半近く経った今も、子どもたちには栄養不良がみられ、子どもの39%、若者に関して言えば97%もが学ぶ機会を失っています。また、親と離ればなれになるなどして保護者がいない6,000人の子どもたちは、人身売買や児童婚、性的搾取の高いリスクに晒されています。
ロヒンギャ難民の人々は、34カ所の非常に混み合ったキャンプに身を寄せています。クトゥパロン・バルガリ拡張地と呼ばれるキャンプには、62万人以上が暮らしています。急激に大量の難民が押し寄せたことで、ウキヤ郡とテクナフ郡では人口が3倍に膨れ上がりました。
© UNICEF/UN0148163/Brown |
ロヒンギャの人々は、今も完全に支援に頼らざるを得ません。もし支援スタッフが食べ物を届けなければ、キャンプに食べ物はないのです。モンスーンの季節には、病気の流行も懸念されます。またこうした状況下で、暴力、児童労働、人身売買といった危険が増加しています。
キャンプの中での難民同士の対立や暴力事件や、受け入れコミュニティの人々と難民との同様の問題も増えているほか、ブハシャンチャール島への移住やミャンマーへの強制送還に関連した緊張も高まっています。
こうした緊急の課題に対して、ユニセフがどのように対応しているかご紹介します。
© UNICEF/UN0164442/Nybo |
命を守る支援のひとつ、水の問題で、ユニセフはパートナーと共に、およそ35万人が継続的に飲料水を手に入れられるよう支援しました。トイレや手洗い場の設置も大きな仕事です。設置だけでなく、維持管理や修理に重点を置き、住民への研修を実施し、モンスーンに備えるための設備強化を行っています。また、石けんを使った手洗いなどの衛生習慣を広げることで、水に起因する病気の蔓延を防いでいます。
© UNICEF/UN0127292/ |
大規模な予防接種キャンペーンを展開し、たとえば1歳以上の住民100万人近くに、経口コレラワクチンを投与できたほか、5種混合ワクチン接種や、子ども13万4,000人以上の健康相談をおこなってきました。2019年は、新たな病気の流行を生まないために、定期的な予防接種の拡充に移行していきます。
栄養については、治療しなければ命を落としてしまう重度の急性栄養不良の子ども1万8,000人以上を治療しました。母親たちへの栄養指導やビタミン補給なども行っています。すぐに口にすることのできる治療食の供給ラインを確保したり、10代の女の子たちに特に必要な栄養教育や支援を拡大にも取り組んでいます。
© UNICEF/UN0126283/Brown |
ユニセフは、4歳~14歳の14万人近い子どもたちが学習センターに通えるよう支援し、4,000人の教員をトレーニングしました。しかし、教育支援が届いているのはまだ半数にすぎません。28万人の子どもたちが教育を必要としているので、成果を倍増していきます。教育の質の向上や、長期的な改善された学習環境への移行もおこなっていきます。
子どもの保護のプログラムとして、15万人以上に心理社会的支援をおこないました。若者たちへは、さまざまなライフスキル訓練も必要です。2019年は、児童労働や児童婚の予防など、若者を対象にした支援プログラムにより重点を置きます。また、社会的結束や紛争の平和的解決について伝え、ジェンダーに基づく暴力の被害を受けた子どもたちに、必要な支援を確実に届けます。
ロヒンギャ難民を受け入れているコックスバザールは、バングラデシュの中でも厳しい状況にある地域で、社会サービスは脆弱です。そのため、ユニセフの支援は、難民キャンプの中と外で区別することなく、受け入れコミュニティへの支援も組み込み、バランスを取りながら展開する必要があります。特に影響を受けているウキヤ郡とテクナフ郡での社会の結束を促進し、コックスバザール全域でサービスのシステム強化を図っています。2018年は、予防接種キャンペーン、新生児のケア、急性栄養不児の治療、ジェンダーに基づく暴力への対策などを行いました。
© UNICEF/UN0158177/Sujan |
この難民危機の初期の緊急対応では、サービスの質に差が出てしまいました。また、政治的な問題をはらんでいるため、長期的な解決への道筋は現在も見えません。難民キャンプは非常に人口密度が高く、貧困状態で、その生活環境は大変厳しいものです。基本的なインフラや交通アクセス、物流が不十分で、それらはモンスーンやサイクロンによってより複雑になります。さらに、十分な経験や技術を持った現地NGOが限られているため、支援の展開のボトルネックになっています。
2019年は、命を守る支援を続けながら、難民と受け入れコミュニティの社会的結束の促進、緊急時の備えの拡充、すべての子ども(4〜14歳)への教育支援、若者への職業訓練やライフスキルトレーニングのサポートなどを重点的に支援していきます。
2018年は緊急支援を展開しましたが、今後は、保健、水と衛生、栄養といったサービスのシステムを維持し継続していくことに支援の焦点を移して、取り組んでいく必要があります。現在の難民キャンプの状況は、決して持続可能な状況ではありません。長期的な視野に立って、より持続可能な支援を行っていかなければなりません。
©日本ユニセフ協会/2019 |
ロヒンギャ難民危機に対しては、日本ユニセフ協会を通じて、日本のみなさまから本当にたくさんのご支援をいただきました。特に難民の大量流入が始まった直後の資金繰りが厳しい、非常に大変な時期に受領した100万米ドルをはじめ、これまでに合計500万米ドル以上の支援が日本のみなさまから届きました。これは世界からの民間支援の中でももっとも大きな支援です。
実際にその資金をどのように使わせていただいたかについて、ご説明いたします。
© UNICEF/UN0149107/Brown |
医薬品や医療機器、備品を12カ所の保健ポスト(地域の小さな保健所)、2カ所のプライマリー・ヘルスセンターに提供しました。保健ポストでは、予防接種をしたり、下痢症で運ばれてくる子どもへの経口補水療法、妊婦さんへのケアなどをおこないます。2017年には2万4,550人、2018年は13万214人の乳幼児が治療やケアを受けています。難民の方々は医薬品を買う資金などもありませんので、治療に必要な薬や機器を提供して、ケアをしています。
2017年には、9,936人が、2018年は3万7,104人の女性が少なくとも1回の健診を受けました。日本では、10回程度の産前健診があると思いますが、難民キャンプの環境では、少なくとも1回は受けていただくようにしています。また、2017年に1,252人、2018年に5,505人の母親が産後の健診を受けました。
© UNICEF/UN0208858/Sokol |
竹とビニールで覆われた家が密集している場所でたくさんの人々が暮らしており、いつどこでなんの病気の流行が起きてもおかしくない状況ですが、それを防ぐことができたのは、皆さまからの資金があったからだと思います。2017年には11月から12月の1カ月かけて、コレラ予防接種のキャンペーンをおこないました。このキャンペーンのおかげで、1歳以上の36万4,686人が接種することができました。
コックスバザール県の地域病院とウキヤ郡の保健施設で、2,021人の妊婦にHIVカウンセリングと検査をおこなっています。命を守ることが最優先の緊急事態の中で、なかなか手を付けられなかった分野ですが、日本からの支援のおかげで、カバーすることができました。
© UNICEF/UN0205112/Sokol |
様々な活動を展開するためには、物資の調達も必要です。隣県のチッタゴンに物資倉庫があり、家庭での必需品や保健、水と衛生分野の物資などを備蓄しています。この倉庫の維持管理の費用も、皆さまからのご支援でカバーすることができました。また、なんらかの理由でチッタゴンやコックスバザールへの経路が絶たれた場合を想定して、テクナフ郡に追加の備蓄スペースを設置し、予備物資を備蓄して万が一に備えています。
みなさまのご支援によって出すことのできた結果の一部をご紹介しました。今後も息の長い活動になるかと思います。引き続き、みなさまのご支援をよろしくお願いいたします。
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