【2020年12月18日 東京発】
11月25日、「スポーツを通じたSDGsの達成 ビジネス界への期待」をテーマに、『子どもの権利とスポーツの原則』オンラインイベントを開催。2018年の発表以降、『子どもの権利とスポーツの原則』にご賛同いただいた企業のみなさまにご参加いただき、スポーツを通じた子どもの権利の推進、そしてSDGsの推進のために、ビジネスが果たせる役割について、ご知見を共有いただきました。
©日本ユニセフ協会/2020 |
イベント冒頭、前月に就任されたばかりの室伏広治スポーツ庁長官は、「『子どもの権利とスポーツの原則』が念頭に置いている、スポーツにおける、子どもへの体罰やいじめ、身体への過度な負担など、子どもの権利に悪影響を及ぼす課題への対応により、子どもの権利を守ることは、スポーツ基本法の理念にまさに合致するものです」と述べられました。
長官は、ご自身のお話として、子ども時代、持久力が求められる運動が苦手だったものの、瞬発力のある筋肉だから当たり前だとのお父様の言葉で、無理なトレーニングでスポーツを嫌いになることもなかったこと、様々なスポーツを体験され最終的にハンマー投げに行き着くまでの間、ハンマー投げを強制されたことはなかったことなどを紹介され、指導者が子どもの成長を待つことの重要性を強調されました。 さらに、学生の頃から、競技を続けることが困難になった時を見通して別の道も考え、現役のうちに博士号を取得、大学の先生になる夢を実現されたことにも触れ、スポーツだけに特化することによるリスクや、将来を見据えた指導の大切さにも言及。最後に、「スポーツ庁としても、引き続き、皆様と共に、本原則の周知や、本原則を踏まえた取組を推進してまいりたいと思います。すべての子どもが安心安全にスポーツを楽しめるよう、皆で頑張っていきましょう」と、ご挨拶を締めくくられました。
日本の取り組みは、世界の範
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続いて、ビデオメッセージの形で登壇したユニセフのシャルロッテ・ペトリ・ゴルニツカ事務局次長は、子どもの権利の実現無くしてSDGsの達成が無しえないこと、スポーツが子どもの権利の推進に大きな力を持つこと、そして、SDGs達成にビジネスが重要な役割を果たすことを強調しました。
スポーツには、子どもからおとなまで、世界中の人々の関心を集めることができる力があることをユニセフは知っています。しかし、スポーツの力はそれだけではありません。遊びやスポーツは、それ自体が子どもの権利です。スポーツは子どもの健全な発達を促し、平和や寛容さをもたらし、他者の尊重、協力、リーダーシップなどを学ぶことができます。何より、遊びやスポーツを通して、最も不利な状況に置かれた子どもたちも、子ども時代を楽しむことができるのです」
「『子どもの権利とスポーツの原則』は、ビジネスに対しては主にスポンサーとしての役割を想定していますが、ビジネスが果たすことのできる役割は、それにとどまりません。(原則に賛同いただいている)企業の皆さまからは、スポーツを通じて子どもの権利を実現し、またSDGsを達成するための「企業の力」について、ぜひ教えていただきたいと思っています」
また、日本では、SDGsが策定される以前から「スポーツ基本法」がスポーツを「すべての人々の権利」と謳っていることや、重要政策文書で子どもの権利に焦点があてられていることに言及し、スポーツ界やビジネス界とも連携した取り組みに、敬意を表しました。
前回(8月)のスポーツ団体に続き、今回は、企業のみなさまにご登壇いただきました。
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以下、皆さまからのご挨拶を一部抜粋して掲載させていただきます。
この度、「子どもの権利とスポーツの原則」に共鳴し、新たに賛同企業として参加させていただくことになりました。私たちは「より良いスポーツ品とスポーツ振興を通じて社会に貢献する」という経営理念のもと、スポーツの歓びや幸せを世界中の人々、子どもたちに届けることを目指し、良質なスポーツ品の提供とスポーツの振興に取り組んでいます。また、SDGsの取り組みに賛同し、スポーツを通じたSDGsの達成への貢献も目指しています。その一環として、「次世代を担う子どもたちの運動能力と体力の向上」をテーマに掲げており、これは「原則」と共通する点でもあります。新型コロナウイルスの事態を受け、身体を動かすことの大切さや、スポーツができる歓び、スポーツが与えてくれる感動や勇気をより強く認識し、その意義を改めて深く感じています。今後も「原則」に賛同されている皆さまと連携を深め、世界中の子どもたちを笑顔にする取り組みをさらに広めていきます。
グローバル企業として、多様性の尊重や人権の保護に取り組み、また、(コーポレートレスポンシビリティ戦略の一つである)グローバルな衛生課題の解決の分野においては、2018年よりユニセフとのパートナーシップを締結しています。スポーツに関してはアスリートやスポーツチームの協賛をしている他、多様性の尊重を推進するべく「ユニバーサル・ラン」というスポーツ義足の体験授業を小学生向けに実施しています。「ユニバーサル・ラン」で目指す社会は、ユニセフさんが掲げる「原則」の方向性とも一致していると考えています。今後も「原則」を支援し、誰もが身体を動かすことに歓びを感じられるような多様性のある社会を目指していきたいと思います。
「すべてのもの、情報、心がつながる世の中を」をコンセプトに、テクノロジーによる社会や人々の課題解決、SDGsが目指す持続可能な社会の実現への貢献に取り組んでいます。「原則」で謳われている内容が自社の社会貢献活動と合致すると考え賛同しました。ICTを活用した部活動支援や、ロボットを活用したスポーツマンシップの教育を行っています。今後はより広く働きかけを行い、テクノロジーを使った課題解決について一緒に考え協力しながら、原則を推進していきたいと思っています。
企業理念として「クオリティ・オブ・ライフの向上」、「未来の社会を支える」という長期ビジョンを掲げ、奨学金の運営や科学の振興に注力するほか、高校サッカーやタイのJapan Dream Football Associationのスポンサーになる等、スポーツを通じた次世代の育成にも取り組んでいます。私たちの理念とまさに一致すると考え「原則」に賛同しました。スポーツを通じた子どもたちの健全な成長に欠かせない基本的な考え方であると思っており、普及に貢献できればよいと思います。多くの団体を通じて原則が守られるようになることを期待しています。
<パネリスト>
<モデレーター>
高橋 大祐弁護士 「子どもの権利とスポーツの原則」起草委員会/真和総合法律事務所
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[要旨]
高橋弁護士は、「原則」における企業の役割は、SDGsの達成への貢献にもつながるものとして非常に重要で、企業は製品やサービス、社会的な発信、協賛、地域社会での取り組み等を通して、スポーツにおける子どもの権利の保護・支援に様々な役割を果たすことができる、と述べます。
具体的な事例として、品山氏からは、これまでのスポーツ用品の提供に加えて、今後は運動プログラムや体験を提供する事業も拡大していくことや、生涯にわたるスポーツ参画を目指す「フィジカルリテラシー」の考え方に基づき、子どもたちのスポーツに必要な基本動作とマインドを育てるコンテンツを開発中であること等が紹介されました。
大崎氏からは、スポーツウェア・用品用の生地や人工皮革の提供、高校サッカー等のスポンサー、Jリーグチームとタイアップしたスタジアムでの使用済みペットボトルの回収・リサイクルによる環境教育の取り組みが、宮川氏からは、部活動の顧問の多くに競技の経験がない現状をふまえ、ICTを活用して専門の指導者による遠隔指導を提供し、子どもたちを支援している取り組みが紹介されました。
また、原則に賛同しているチーム・スポーツ団体の取り組みとして、岩爪氏は、中学生向けのアカデミーの実施、タグラグビーや保育園・幼稚園でのラグビー教室、母体が農業機械メーカーであることを生かし、子どもたちとトップ選手がともにラグビーの楽しさを分かち合う「田んぼラグビー」などを紹介。瀧上氏は、「指導者は、勝つことより待つことが大切。ゆっくり指導するチームからもスーパースターは生まれる。そんなチームにも良い評価を与えてあげられる社会を望みたい。子どもたちの発育と発達に即した指導に対して応援いただきたい」と原則への期待を寄せました。
続いて、高橋弁護士から、スポーツ団体によるセルフアセスメントや、企業とスポーツ団体の対話のツールとしての活用を念頭に起草委員会が作成した「アセスメントツール」について紹介があり、品山氏からは、保護者にも分かりやすく、小規模なチームにも使えるよう、当初の版に(アシックス社として)コメントされた経緯が説明されました。
パネリストからは、「ツールはあくまでも入り口で、できているかどうかにこだわるのではなく、できていないことがどうすればできるようになるか、対策について対話することが大切ではないか」(宮川氏)、「非常に分かりやすく、スポーツ団体との対話やスポンサーとなる際に確認をするツールとして使いやすいと感じた」(大崎氏)、「自治体や教育委員会と連携して遠隔指導を進めていくにあたり、現場レベルで活用していきたい」(宮川氏)、「いくつかの質問をピックアップしたら、子どもの指導者のためのツールとしても成り立つのでは」(大崎氏)との評価や活用のアイディアをいただきました。
また、競技の特徴や取り組みと結びつけながら、「子どもがフェアプレー、チームワーク等スポーツの基本的価値を学ぶことに配慮していますか」という質問は非常に大切(瀧上氏。全国スポーツ少年団ホッケー交流大会の「相手をたたえるセレモニー」を紹介しつつ)、「指導者が子どもの立場になって指導を考える、ラグビーを考える際にとても実用的だと思った。ラグビーとの親和性も感じており、ノーサイドの精神などにも紐づけることができると感じる」(岩爪氏)とのコメントもありました。
企業としてスポーツ団体として互いに何を期待するのか、今後どのような取り組みを予定しているのか、各パネリストからは以下のような発言がありました。
品山氏:小さい時から身体を動かす楽しさを知り、生涯を通じてスポーツを楽しめる環境をつくっていくことが「フィジカルリテラシー」のポイント。おとなが子どもときちんと接しながら運動能力を高めていけるコンテンツをつくっていきたい。
宮川氏:部活動が大きく変わろうとしており、スポーツ団体や企業がどのように対応していくかが重要。企業からの人や資金による支援には限りがある中、テクノロジーを上手く利用して、継続的に、またより多くのスポーツ団体を支援できるような枠組みを作りながらサポートできたらと考えている。
大崎氏:より子どもたちのためになるようなスポーツ用素材の提供や、スポーツイベントや団体のスポンサーとして、協力して子どもたちの権利が守られるような活動ができたらと思っている。勝つことだけを目指す、過去の厳しい指導に対する反省の中から「原則」ができたのではないかと感じる。スポーツ団体には、スポーツは子どもたちにとって成長の場であり源泉であるということを第一に考え、スポーツを楽しむ形で成長につなげていっていただきたいと思う。
岩爪氏:スポーツ団体は、勝利、ファンを集めることに注力しがちだが、原則に賛同することによって、子どもたちの未来、子どもの権利を考えるシンボルになれればよいと思っている。社会のために、子どもたちのために何ができるか考えている選手も多いので、企業には、選手やチームを活用していただければと思う。
瀧上氏:子どもが皆、スポーツを好きになることを企業に応援してもらいたい。SDGsの「だれひとり取り残されない」という取り組みを企業とともに応援していきたい。
高橋弁護士は、スポーツ団体、企業、アスリート、個人としてできることはたくさんあり、関係者間の対話や協働を通じて、子どもの未来にコミットしていく等の価値感が共有されることが重要であることが確認できたと述べました。また、「ビジネスと人権に関する行動計画」に「原則」が言及されたことで、官民の連携が進み、スポーツにおける子どもの権利の保護・推進につながることへの期待を示しました。
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イベントの最後に、「ビジネスと人権」に関する行動計画をとりまとめられた外務省より、富山未来仁 総合外交政策局人権人道課長にご挨拶をいただきました(以下要旨)。
政府として、人間の安全保障の理念に基づいてSDGs達成をはじめとした地球規模課題に関する取組を推進しており、子どもの権利やスポーツと人権の分野を含め、人権の保護・促進に取り組んできています。例えば、「スポーツ・フォー・トゥモロー」を通じて、スポーツの力を活用したSDGsへの貢献に資するプログラムを行っています。また、10月、政府の関係府省庁連絡会議において、企業活動における人権尊重の促進を図るために、「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定し公表しました。ビジネスと人権に関する取組の重要性は、スポーツの世界にも広がっていると感じています。
行動計画には、子どもの権利の保護・促進に関する施策も盛り込まれており、今後行う具体的な措置の一つとして、「子どもの権利とスポーツの原則」の周知・啓発への協力が明確に掲げられています。特に「原則」7と8に掲げられる、企業によるスポーツ団体等への支援決定に際した子どもの権利の尊重状況の確認や、支援先団体への働きかけが一層広まることを期待しています。
企業がスポーツ分野での子どもの人権を含めた、人権の保護・促進のために責任ある行動をとることはコストではなく、日本企業の価値と国際競争力の向上につながるものであり、SDGsの達成にも貢献するものと考えています。国内において企業、社会全体がスポーツを通じて子どもたちの成長を支えていくこと、それが人権の保護・促進につながっていくこと、そういった議論や活動が盛り上がることを心から期待しています。
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