2023年3月14日発
2月11・12日の2日間、「全国こどもネットフォーラム2023」(主催:一般社団法人ソーシャルメディア研究会)が開催されました。
会場のユニセフハウス(港区高輪)には、「賢いネットの使い方」をテーマにしたエッセイコンテストに応募した400名を超える子どもたちの中から選ばれた12都道府県(北海道、茨城県、東京都、神奈川県、愛知県、滋賀県、京都府、大阪府、和歌山県、石川県、兵庫県、熊本県)の小中高生24名が集まり、ネット利用に関する様々なテーマで議論し、子どもたちをとりまく社会の様々な立場を代表して参加したおとなたち*に直接声を届けました。
* 総務省、文部科学省、日本PTA全国協議会、グーグル合同会社、高校の教員等
1日目:ネット利用について現状や課題を議論、提言まとめ
11日(土)の午後、会場のユニセフハウスに集まってきた子どもたちは6人ずつの班に分かれ、本イベント主催のソーシャルメディア研究会を主宰する兵庫県立大学の竹内和雄准教授による趣旨説明の後、フォーラムがスタートしました。
2日間とも、冒頭にアイスブレイクが行われ、ソーシャルメディア研究会所属の学生さんたちが考えたゲームをみんなでやるうちに、子どもたちも緊張がほぐれていったようです。「おとなが怖い顔して腕組みして聞いていたら、なかなか意見を言えない。おとなも一緒に場を作っていくことが大切」と竹内准教授が話されるように、子どもだけでなくスタッフを含む会場全員で行ったことで、会場がとても穏やかな雰囲気になりました。
次に説明されたのが、”ゴールデンルール”。①他の人の意見を否定しないこと ②話すときは1人2分以内 が会場の共通の約束になりました。
こうしてはじまった1日目はまず、利用時間や自宅での過ごし方、スマホ利用のルール等、子どものネット利用に関して竹内准教授が関西地方の子どもを中心に調査した、アンケート結果を見ていきました。データを見ながら、子どもたちは自分自身が経験していることや日頃感じていることなどを自由に語り、共感したり、驚いたり。
例えば、「家で一番すること」という質問では、ネット、テレビ、遊び、勉強(ネットを使った勉強は「勉強」)の選択肢の中で、小学校6年生以上は50%以上が「ネット」と回答。
これについて子どもたちからは、「家はリラックスする場所なので勉強は放課後自習室でやってから帰る」「学校でうまくいかないことがあった時に、ネットが生きがいや逃げ場になる、現実逃避の場」という発言がありました。
他にも「普段の生活の中で、自分の意見が受け入れてもらえなくても、ネットで同じ境遇の人とつながって分かり合える」「共通の趣味の人たちのグループで発信をしているけれど、画面だけでもかわいい自分でいたいと思う」「日常生活に自信がないから、課金という手段でネットの中でステータスづくりをする」「共通の趣味でつながった人と実際に会うこともある」など、子どもたちのリアルなネットとの関りが語られました。
小学校6年生以上の20%以上、高校生では30%以上が1日4時間以上ネットに接続しているという結果を見て、「友達とネットにつなげて勉強すると、途中でやめにくい」とか「ずっと画面を見てるのではなく、ネットで音楽を聴きながら別のことをやっている」という話も。同席していた先生や保護者の時代との音楽の聞き方の違いについて、盛り上がる場面もありました。
フォーラムの間ずっと竹内准教授は、発言した子どもには「ありがとう」と伝え、みんなに拍手を促しながら、時折冗談を交えて進行されました。その中で、ソーシャルメディア研究会所属の兵庫県立大学の学生さんが各班2人ずつサポート役として入り、子どもに丁寧に寄り添いながら議論を促していました。
各班には小学生から高校生までが混ざっていましたが、高校生も、小学生の意見を対等に聞き、話しにくそうなときは質問しながら発言を促す姿がありました。その中で、小学生も臆することなく率直に発言し、他の人の意見を聴きつつ自分の意見を整理しながら参加していました。
2日目:提言発表とおとなとの意見交換
2日目は、総務省や文部科学省、日本PTA全国協議会PTAや企業などからおとなも参加。まず1日目で読み解いたアンケート結果をおとなとも共有し、実際に身の回りで起こったことや、なぜそういうことが起こったかの分析など、子どもたちが説明しながら、おとなも子どもも一緒に子どものネット利用に関しての理解を深めました。
「何歳からスマホを利用するのが常識?(過半数が使い始めている年齢)」という問いに、おとな・子ども合わせても正解できたのは1人だけ。正解は「2歳」**。竹内准教授は、「この中で常識があるのは1人だけ。みんなわかっていると思っているけれど実はわかってない。おとなもわかってない。だから想像力をもって一緒に考えていくことが大切」と話されました。
その後、1日目に各班でまとめた提言の中で、賛同するものを子どもたちが投票。それを一つひとつ見ていきます。なぜその提言を挙げたのか、なぜ賛同するのかについても、子どもたちが発言し、それに応えるように会場のおとなからも率直な思いが語られ、子どもとおとなが熱心に意見交換を行いました。
**令和3年度⻘少年のインターネット利⽤環境実態調査結果(速報)(令和4年2月内閣府発表)より
■保護者への提言
- お互いの考えを取り入れたルール作りを考える時間が欲しい
「子どもが考えれば自分たちが守りやすいものができるし、自分たちが決めたルールだから守ろうと思う。おとなが考えれば、社会での経験をふまえて子どものことを考えたルールができる。だから、一緒に考えていったらいいと思う。」 - 否定せず私個人を認めてほしい
「今回参加した小学生と高校生の間でも、インターネットの利用についてギャップもあるのに、私たちと親の年齢差があったらもっとお互いにわからないことがあると思う。違いを否定せずにお互いに学んでいけるといい。」 - 1日1時間でいいから家族団らんの時間を作ってほしい
「自分は家族でテレビを見て感想を言い合う時間にすごく救われている。1日1時間でもネットを見ないで、家族と話す時間があったら、ネットにすがる必要はなくなると思う。」
おとなからは、「子どもからもっと話したいという意見が出て嬉しい。実はおとなも子どもと一緒に過ごしたいし、話もしたいが、照れもあるし忙しかったりする。ゲームも一緒にやれるといいが、今のゲームは難しい。お互いの歩み寄りが必要だと思った。おとなたちと会話を続けてほしい」という意見や、「仕事上、もっとネットを使ってもらうために広報しているし、危険ばかりを伝えたくはないが、親としては危険から守りたいと思うのは当然のこと。誰かから決められたルールは守りたくないという気持ちはおとなもわかるので、知恵を出し合いながらルールを決めていけるといい」と言ったコメントがありました。
■先生への提言
・ネットルールを学校全体(先生と生徒で一緒に)で作って平等に守りたい
「先生がスマホを使うこともあると思うけど、先生もルール通り使っていれば、より納得して自分たちもルールを守ろうとすると思う」
これに対し出席の先生からは、「今までは、学校が決めた校則を生徒に守らせるというのが一般的だったが、少しずつ子どもたちも一緒にルールを作っていこうという学校も増えてきている。その時に、子どもも先生も「納得」というのがキーワード。お互いが話し合って一緒にルールを作っていくのは大切なことだと思う」
さらに子どもからは、「今回はおとなが歩み寄ってくれるから、意見が言いやすい。生徒が意見することそのものが良くないと思っているおとなもいるので、残念」と言った意見も。
■国・自治体への提言
●誹謗中傷を取り締まる法律をつくってほしい
「言論の自由が法律に書かれているから、どんなコメントもアカウントを所有する人しか消すことができない、と聞いたことがある。言論の自由よりももっとその上の段階の、誹謗中傷のコメントを取り締まる法律があれば言論の自由と両立できるのではないかなと思う」
●安心して失敗できるネット環境がほしい
「大きな失敗をすると傷ついたり失うものも大きいが、失敗しないと分からないこともある。子どもの時に失敗してもいい環境があれば、おとなになってから失敗しない。そういう環境が欲しい」「自転車の運転と一緒。いきなり道路で運転するのではなく、広い場所でおとなにサポートしてもらいながら練習してから道路で運転する。そういう安心できる環境があった方がいい」
これに対しおとなからは、「誹謗中傷がよくないというのはみんな認識しているが、規制が難しい部分。みなさんのお知恵をいただきながら、法の整備に加えて、モラルへの働きかけによる抑止も考えていきたいと思う」というコメントがありました。
■企業への提言
●利用規約をもっとわかりやすくしてほしい
「アプリのダウンロードの時に利用規約があるが、字が小さくて量も多いので全て読めない。わかりやすく簡潔に書いてほしい」「小さい子どもが読めなくて理解できないので、絵にしてくれたらもっと理解できると思う」
●子どもの「ネット利用」を親に知らせてほしい
「子どもが一日にどのくらいネットを利用しているのか、などの情報は親にも通知が届くようにするのがいいと思う」
これに対し企業の方からは、「利用規約はどうしても厳密に書かざるを得ず、わかりにくいという自覚はある。できるだけわかりやすくするように努めたいが、どうしても難しい部分はあるので、ぜひおとなと一緒に確認してみてほしい」とコメントがありました。
さらに、「ゲームだけでなく、新しいことにももっと夢中になってほしい。インターネットは世界各国、宇宙にも連れてってくれる。みなさんにはネットを使って広い無限の世界を冒険してほしい。そのためにも、節度あるスマホの利用をしてほしい」と述べられました。
■自分たちへの提言
最後に自分たちへも提言をした子どもたち。ネットに頼ったり、無意識にやってしまうことを冷静に振り返りながら、自らや友だちへ提言しました。
・危険性を知って、ネット以外の楽しさを探そう
「ネットの危険性をきちんと学ぶことも大事だし、現実の世界でも楽しさを見つけることができれば、無理してネットに依存しなくてもいいと思う。だからネット以外にも楽しいことを見つけよう」
・効率だけで物事を見ないようにしたい
「ネットで調べると手っ取り早いが、友だちに聞いてみるとか、本を読むとか、他の方法で調べてみるのもいいと思う」
1日目は自主的に、宿泊先で夜遅くまで話し合っていた子どもたち。2日目も予定の時間内では話し足りないくらい、熱心に議論や意見交換が行われました。最後に子どもたちからもおとなからも、代表者が感想を話して終了する予定でしたが、「感想を言いたい人!」の呼びかけに、ほとんどの子どもが手を挙げ、前に出て、感謝の言葉や充実した2日間の感想をしっかり語ってくれました。
「小学生から高校生までが一緒に色々な話ができて良かった。話を聞いて、自分の持っていた知識は一部なんだなと思った。このつながりが今回だけでなく、定期的な交流会になったら嬉しい」
「いろんな人と話し合って意見交換して、おとなに提言する機会をいただいた。一人でやれることには限度があるが、行動を起こそうと思えば、みんなで協力していろんなことができることを感じた。知識不足があって話についていけないこともあったが、助けてもらいながら一緒に頑張れてよかった」
自分の言葉で語り、それを同じ世代の仲間にもおとなにも聞いてもらい、違う意見を聞きながらまた新しい意見やアイディアを出し合った子どもたち。感想を語る表情には、「自分たちでも何か変えられるかもしれない」という希望と自信が表れていました。
そしてそれに応えるように、おとなからもたくさんの声が聞かれました。
「子どものことを考える時、きっとこうだろうと勝手に考えてしまいがちだけれど、時代のトレンドやネットの情報等みなさんの方が詳しいこともあると思う。子どもの声とそれを受け止めるおとなの気持ちが双方合って、いい世の中ができてくるんだと思った。今日のような声をこれからも発信してほしい。特にネットに関しては、おとなも初めて経験することも多く、知識が追い付いていない部分もある。おとなも学んでいきたいと思った」
「このような場に以前も参加したことがあったが、その時に比べて参加しているみなさんの自分事感が増した感じがした。学校でも端末を使うし、ネットを使うことが当たり前で、使わないと生きていけない社会になってきた。今回参加できて、子どもたちと一緒に進めていけると感じた。みなさんの声は社会を前に進める原動力になると思う」
「気軽な気持ちで参加したけれど、みなさんの発言や議論を聞くことができて色々考えることがあった。参加できて感謝している。シニアの方でもスマホを使いすぎちゃって・・という方もいらっしゃるので、自分ももっと考えていかなければと思った」
私たちにできること
子どもたちは提言だけにとどまりません。「私たちにできること」を考え、行動に移そうとしています。
今回の議論から、子どもたちは12個の「私たちにできること」を挙げました。「おとなの意見もちゃんと聞こう」という日常的にできることから、「良く使うアプリの利用規約をわかりやすくまとめて見やすくしたい」という、今回おとなに提言した内容を自分たちでも改善できるように取り組むアイディアもありました。
私たちにできること(資料提供:ソーシャルメディア研究会)
今回のようなフォーラムの開催を、生徒会の企画として計画している高校生もいます。また、今後も定期的にオンライン交流会を行い、具体的な行動につなげていきたいと口々に話します。
今回出席されたある先生は話します。「海外の先生たちと話す機会があるが、海外も同じ課題を抱えている。でも今回のように、子どもたちが考え、提言する機会は海外でも少ないようだ。みなさんの活動を海外にも発信したいと思う」
日本ユニセフ協会は、本フォーラムで子どもたちから示された提言を英文でまとめ、ユニセフ本部を通じて、3月10日に「子どもとデジタル環境」をテーマに開催される国連人権理事会主催のイベント登壇者に提供。また、ユニセフ本部が取りまとめている、子どもの権利に関する国連事務総長報告書に向けたインプットとしても提供しました。同報告書は今回、デジタル環境に焦点を当て、本年9月の国連総会の中で社会開発や人権問題をテーマにする第3委員会での議論の参考にもされることになっています。