【2020年2月20日 東京発】
日本ユニセフ協会は2月8日(土)、2019年カンヌ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した映画『娘は戦場で生まれた』の上映会を、東京都港区のユニセフハウスで開催しました。『娘は戦場で生まれた』は、紛争の続くシリアで生まれた娘のため、若き母親が自らカメラを手に取り戦火の故郷を記録したドキュメンタリー。ユニセフが人道支援に取り組むシリアを女性・子どもの目線から訴える作品であるという思いから、本作をユニセフハウスにて上映しました。
本作の背景となるのは、シリア紛争において、2012年から2016年にかけて起きたシリア北部の都市アレッポでの戦闘です。映画は、激しい戦闘によって破壊される街並みや、日々人々が目にしている悲惨な光景を映し出しています。
そして、今もシリア紛争は終わっていません。紛争が始まってからまもなく9年が経過する今も、ユニセフは、命を救い、希望をつなぐために、人道支援を続けています。紛争当事者や国際社会に向け、もっとも失うものが大きいのは子どもたちであることを継続して訴えています。
©Channel 4 Television Corporation MMXIX |
ワアド・アルカティーブ監督は、自らカメラを手に取り、アレッポの街並みだけでなく、自らの生活や、家族の姿を撮影しました。「私にとってこれは、人生そのもの」と監督が語っているように、次々と映し出されていくのは、プロポーズの言葉、結婚式、妊娠が分かった日、母になった瞬間、そして娘の成長という、人生のかけがえのない瞬間です。ユニセフは日々、シリアをはじめとする世界の国の子どもたちや女性たちの声に応えるため活動を行っていますが、本作では、監督自身の経験を通じて、シリアの子どもたちや女性たちの思いに触れることができます。
上映後には、女優のサヘル・ローズさんにお話しいただきました。以下はお話しいただいた内容の要約です。
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「アレッポが消えちゃった」
これまでのシリア映画と異なる、女性の目線からの作品です。単に戦争を描くのではなく、彼女が生きていた痕跡、日常を撮っているからこそ訴えられることがあると思いました。主人公以外にも、さまざまな家族の姿が映されています。「(子どもに)普通に泣いてほしい」という母親の言葉や、「アレッポが消えちゃった」という子どもの言葉が印象に残っています。
日本で暮らしていると、自分の生まれた故郷をなくす、ということはなかなか経験にないことかもしれません。それ自体、とても幸せなことです。シリアの人々が、最後まで留まろうとした気持ち。状況こそ異なりますが、日本では福島の人々も同じ思いを抱いたのではないでしょうか。自分の住まいや家族など、大切な思い出がある自分の居場所を逃れることは、なかなかできません。誰もが、その場所での再生を求め、希望を捨てない。それが、この作品では象徴的に描かれていると思います。
バラの花に故郷への思いを
主人公が親しくしている家族の母親が、「自分の子どもたちに、悪い背中(故郷を逃れるという姿)を見せられない。親として、ここにいなければならない」と話している姿が心に残りました。そして、子どもも「離れがたい」、と語ります。色が失われてしまったアレッポでも、子どもたちの輝きは失われていません。子どもたちは、いつか帰ってくるという希望をもって、街を離れているはずです。
私がヨルダンの難民キャンプで出会ったシリアの子どもたちは、「いつかおうちに帰るから」と語っていました。整備されていく難民キャンプと、本来ここにいるべきではない子どもたちを見て、複雑な思いでした。シリアの人々はみな、キャンプであろうと、自分たちの生活している場にバラやジャスミンの花を植えていました。ジャスミンはシリアの国花です。「自分の祖国は壊されてしまったけれど、花を植えることで美しかったアレッポをずっと持ち続けたい、ずっとともに生きていたい」と話していました。
映画でも最後、アレッポの我が家を立ち去る時に、バラの苗を持っていく場面があります。女性が撮ったからこそ見えてくる、人々の心があるんだと思います。
人は人の目線から生まれる
難民キャンプを訪問した際、「本当は、泣きたい、自分の国に帰りたいと親に言いたいが、言えない」と話してくれた子どもがいました。私は、子どもたちがそれぞれ心に抱えていることを世界に発信したいと思って、子どもたち200人に手紙を書いてもらいました。そのメッセージを使って、「シリアの子どもたちの声」という衣装をつくりました。花の咲いたようなカラフルで美しい服になりました。子どもたちを悪にさせないように、あたたかい光のほうで忘れないでいてほしいと思います。人は人の目線から生まれてくるのだから。自分の瞳に子どもが映って、子どもも、見てくれているという気持ちを抱くから。人が人を、見てほしいと思います。
戦争には敵も味方もおらず、武器を持たされている人々が多くいるということ。子どもたちに武器を持たせないためには、教育が最も重要だという思いで、私はヨルダンの難民キャンプで学校をつくる手伝いをしています。子どもたち自身が意思を持てれば、人の手をとって握り合えば、負の連鎖はなくなると思っています。
支援とは、寄り添うこと
私たちにできることとして、「知る」ことが第一歩だと思います。支援とは、寄り添うこと。彼らの存在を知って、心から忘れず、シリアの状態を見ていくこと。遠い国の出来事だと思わずに、今社会で起きていることについておかしいことがあれば、それをおかしいと感じてほしい。一人ひとりが責任をもって関わって知ること、そしてこれからも忘れないことが、一番大切な支援だと思います。
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ご参加いただいた皆さまからも、多くのお声を頂戴しました。
・「今回、予備知識もなく試写会に来ました。私の現状とはほんとうにかけ離れた世界で、本当の事なんだと信じられない気持ちで一杯でした。ニュースで聞いた事はあるけれど、実感がなく、聞き流していただけで、当事者が現実にいるという事に気が行かない、無関心だったと思います。もっといろんな人にこの映画を見てほしい、自分の子どもにも見てもらいたいと思いました。
・「とんでもないすごい映画だと感じました。日常が戦争で破壊されてゆく姿が、一人の女性のカメラで写し出されてゆく。戦争の中にも笑顔があり、冗談があるけれど、それもだんだんとうばわれてゆく様がよくわかりました」
・「のんびりと街を歩いたあのアレッポがこんな現実を迎えていたとは…日本にいるとなかなか知ることのできない事実を知ることができて良かったです。戦場であっても日常があるんですよね。私たち日本人にはもう、あんな勇気や志、覚悟があるだろうか」
・「心の声がこちらにどんどん響いてくるお話でした。私は高校の教員ですが、世界の平和のために、まずは隣にいる友達を大切にしようという事を伝え続けたいと思った」
・「映画を見た後、感想が出てこなかったのを、サヘルさんの話で自分の気持ちや様々な事に気づかされた、気づかせてくれたように思います」
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関連動画、展示
当日会場では、シリアの子どもたちの思いや取り巻く状況を紹介する以下の短編動画を同時上映しました。
また、シリア難民の子どもたちの声を紹介するパネル展示「シリアの小さな声 〜世界に逃れる、シリアの子どもたち〜」を開催しました。シリア危機は3月で開始から9年が経過し、10年目に入ります。おとなたちによる紛争の被害を一番受けているのは、脆弱な立場にいる子どもたちです。本展では紛争の中を生きる経験を持つ子どもたちの「生の声」をご紹介しています。
ユニセフハウスにて5月中旬までの開催予定です。
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◇ユニセフ・シアターとは
世界の子どもたちを取り巻く状況や問題、人道支援などについて幅広い方に知っていただくために、日本ユニセフ協会主催で開催している映画上映会です。
2019年には、子どもの権利条約が採択されてから30年を迎えるにあたり、「子ども」を主題とした作品を毎月上映するユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」を開催しました。
※過去の上映報告についてはこちら
◇映画『娘は戦場で生まれた』
2020年2月29日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
原題: FOR SAMA
監督: ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ
配給: トランスフォーマー
2019年/100分/イギリス・シリア/G
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