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日本ユニセフ協会
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アグネス・チャン ユニセフ・アジア親善大使
ニジェール現地報告会 貧困や児童婚~厳しい状況におかれた子どもたち

【2019年7月3日  東京発】

ユニセフ・アジア親善大使のアグネス・チャンさんは、6月22日から29日の日程で西アフリカのニジェールを訪問しました。西部・中部アフリカでは、年間1200万人もが国境を越えて移動しており、その中核とも言えるこの国がニジェールです。人々が命がけで移動するのはなぜなのか、子どもたちや女性たちの声に耳を傾け、また開発から取り残された社会の中で子どもたちの課題解決への道を探るため都市部(首都ニアメ)と農村部(ザンデール州)を訪れました。

7月3日にユニセフハウスで実施した報告会では、ニジェールの厳しい現状とともに、子どもの命を守る活動にとどまらず、人々の意識改革、職業訓練、コミュニティ全体における啓発活動や教育を通じた取り組みの重要性を強調しました。

移動の中継地(概要)

この乾燥した大地に、間もなく雨季がやってくる。雨の量は、数十年前に比べて劇的に減り、降り方も不安定になったという。

© 日本ユニセフ協会/2019/M.Miura

この乾燥した大地に、間もなく雨季がやってくる。雨の量は、数十年前に比べて劇的に減り、降り方も不安定になったという。

サヘル地帯の中心に位置する内陸国であるニジェールは、周囲を7つの国に囲まれています。特筆すべきは、移動の中継地点としてアフリカ各国から移民・難民の人々がニジェールに流入しているだけでなく、ニジェールにもともと住んでいる人の多くも、貧困から抜け出そうと移動を選択せざるを得ないという点です。

ニジェールは若い国で、国民の半数以上が18歳以下の若者です。女の子は平均15歳で結婚し、一夫多妻制の中で彼女らが生涯に産む子どもの数は7.6人と言われています。

そして、国民の8割は読み書きができません。産業に乏しく、約半数の人は1日1.90米ドル未満で生活しています。こうした貧困、社会規範、教育に端を発する課題は、ニジェールの子どもたちに大きな影を落としています。

100人の家族(人口と貧困)

この日、家にいた家族だけで数十人。家長である80代のお父さんは、たくさんの子や孫がいることを誇りに思うと話す。

© 日本ユニセフ協会/2019/M.Miura

この日、家にいた家族だけで数十人。家長である80代のお父さんは、たくさんの子や孫がいることを誇りに思うと話す。

ニジェールは伝統的な文化・慣習が生きている国ですが、その中でも南部のザンデール州は特にそれが色濃く残る地域です。アグネス大使はここで、100人の大所帯の家族と出会います。

夫は80歳で、最初の奥さんと離婚したものの、現在も3人の奥さんと暮らしています。子どもは30人いましたが、そのうち9人は残念ながら亡くなってしまいました。孫はなんと82人。全体で100人を越える大家族です。

農牧業の働き手として子どもが必要とされたり、子どもが多いことを良いこととする伝統的な考え方などが背景にあります。もう一つ、女の子たちが13歳や15歳で結婚するため、早くから産みはじめたくさん産むことができてしまうのです。こうした多産多死は、ニジェールの大きな問題の一つです。

そしてその結果起きるのが、貧困です。

一家の大黒柱である父は、彼ら全員を食べさせなければなりませんが、産業のない国で仕事は限られています。子どもや孫に分け与えられる土地も限られています。この地域の人口は10年で倍になるといわれており、世帯人数の増加は子どもが重度の栄養不良に陥る危険性を引き上げます。病院にたどり着ければ、多くの命を救うことができますが、果たしてどれだけの人々が、取り返しのつかなくなる前に医療を受けられるでしょう。

こうした喫緊の課題に対して現在、村では女性たちがグループを形成しています。このグループでは毎週100セーファーフランを出し合って資金をプールし、お金が必要な女性に貸したり、みんなで何かを作って市場で売り収入を得たりする取り組みをして助け合っています。

アグネス大使が抱えている男の子(2歳)は、手足がとても細く、明らかに栄養不良に陥っている。発育阻害で、認知的な遅れが懸念される。

© 日本ユニセフ協会/2019/M.Miura

アグネス大使が抱えている男の子(2歳)は、手足がとても細く、明らかに栄養不良に陥っている。発育阻害で、認知的な遅れが懸念される。

貧困を防ぐには就業が不可欠であり、そのための社会教育も重要です。滞在中、ザンデール州のカンチェで職業訓練校を訪問する機会がありました。そこには32台のミシンがあり、78人の女性を含む127 人の生徒が通っています。

命がけの移動(移動)

お金を稼ぐことは伝統的に男性の役目とされますが、仕事がないのでは手の施しようがありません。女性はもっと働くことが難しい。その結果、最終手段として母親がまだ幼い子どもを連れて、サハラ砂漠を経由するルートでアルジェリアを目指します。しかし、アルジェリアにも仕事があるわけではありません。物乞いをしに行くのです。移動に伴う命の危険は数え切れません。

アグネス大使がザンデール州のカンチェで出会った16歳の少年は、自分の身に降りかかった出来事を淡々と語りました。彼がお母さんと弟妹とともにアルジェリアを目指したのは、11~12歳の頃でした。長男だった少年は、アルジェリア行きに反対した父親に連れ戻されましたが、移動を続けた母親と7歳の弟、3歳の妹、赤ちゃんは、途中の砂漠で車をおろされ、水も食べ物もないまま亡くなったと村に戻ってから聞かされました。その後母親や他の弟妹たちを捜索しようとしたのか、稼ごうと思ったのか、国境を渡った父親はアルジェリアで逮捕されてしまいました。一人になってしまった少年は、叔母の家に身を寄せています。

このように、密航業者と疑われることを恐れた移動の仲介者が、車に乗せた移動者たちを砂漠に放り出し、彼らが命を落とす事例は後を絶ちません。生き延びてなんとかアルジェリアに到着しても、ニジェール人だと発覚すると不法滞在者として逮捕され、刑務所に収監されてしまう恐れもあります。私たちとの会話の中で少年は「もう二度と物乞いには行きたくない。お店を持って、そこで物を売ることが夢」だと語りました。

父ともう3年会っていないと言う少年は、涙も表情も失っていた

© 日本ユニセフ協会/2019/M.Miura

父ともう3年会っていないと言う少年は、涙も表情も失っていた

 

一方で、4人の子どもを連れて、アルジェリアに行ったお母さんにも会いました。1回目は、1カ月半物乞いをして、40米ドルほど稼いで帰ってこられたそうです。一度成功したので、もう一度行こうとしたところ、砂漠で車を下ろされ、自分の尿を子どもに飲ませないといけないほどの命の危険に遭いました。そんな母を見かねた14歳の長男が、家族のために一人でアルジェリアを目指しているとき、彼が乗っている車が銃撃にあって命を落としました。「長男は家族の希望だった」とお母さんは悲しみに暮れています。

傷ついた少女たち(児童婚)

アグネス大使は今回の訪問で、サフィアさんという、ひとりの女性に出会います。サフィアさん自身、強制結婚の被害者で、自分の意思に反した義兄との結婚を繰り返し裁判に訴えて離婚した経験をもっています。いまユニセフの支援を得ながら、不本意な結婚や性的暴行によって傷ついた女性たちに手を差し伸べ、職業訓練をしたり貧困から抜け出すための支援をしています。しかし彼女のように行動できる女性は多くありません。ほとんどの女性は社会的な規範のもと、こうした被害を打ち明けることすらできません。

サフィアさんのおかげで、性的暴行の被害に遭った一人の少女から話を聞くことができました。以前から彼女に興味を持っていた少年が、ある日仲間とともにやってきて、彼女を暴行したそうです。その事実を誰にも言ってはいけないと母親から言われていた少女は、ずっと誰にも相談することができずにいたそうです。サフィアさんとの出会いによって、少女はいま前を向いて再び人生を歩めるようになりましたが、こうした被害者の多くは泣き寝入りをせざるを得ません。

傷ついた女の子たちに寄り添い、社会の中で自立していけるよう支える女性活動家のサフィアさん

© 日本ユニセフ協会/2019/M.Miura

傷ついた女の子たちに寄り添い、社会の中で自立していけるよう支える女性活動家のサフィアさん

性的暴行の及ぼす影響が深刻な社会では、結婚は女性にとってかえって身を守る術になり、さらに、家庭の中での地位の高い第一婦人になるためにはできるだけ若いうちに成婚しようとするため、児童婚が広く認められてしまうのです。

こうした事態を変革するには、男性の意識改革が肝要です。しかし、結婚は宗教の問題であるとされるため、政府からの呼びかけだけでは、行動変容は起こせません。

伝統規範にアプローチするために、ユニセフは20~30代の若者を中心に結成された子ども保護委員会や宗教的指導者、伝統的リーダーらと力を合わせて、啓発を行っています。

DogoのDanhountoua村では委員会の介入によって早期の結婚を免れた15歳の女の子にインタビューすることができました。

児童婚を免れたカンデちゃんは、はにかみながら理想の結婚を話してくれた

© 日本ユニセフ協会/2019/M.Miura

児童婚を免れたカンデちゃんは、はにかみながら理想の結婚を話してくれた

保護委員会や伝統的リーダーに諭された父親が、娘の早期結婚を望む母親の意向を退け、結婚を取りやめたことで、娘は一度はやめた学校に戻れることになりました。娘もそのことを喜んでいます。こうした保護委員会が、ユニセフの支援でこのカンチェ地区で70以上できているそうです。

少しでも長く教育を受けられるように(教育)

ある村で、3人の15~16歳の少女たちに話を聞く機会がありました。

彼女たちはすでに結婚しているか、結婚が決まっている女の子たちで、それぞれ結婚に満足していると言いますが、アグネス大使が「将来、自分の娘を早く結婚させたいと思いますか」と問うと、口を揃えて「子どもたちは学校に行かせたい」と答えました。

彼女たちが言うように、教育はニジェールの苦境を打破するための大きな鍵です。

実際に、上述の三人の少女のうちのひとりが自分の置かれた状況を冷静に認識し、意見をはっきりと主張することに気がついたとアグネス大使は言います。実は、三人の中で彼女のみが小学校を修了していたのです。ニジェールでは就学年齢の子どもの半数以上が学校に通えておらず、教育を受け、よりよい未来を追求する権利を剥奪されています。

こうした事態に対して、ユニセフは学校に通えない子どもや、学校を中途退学した若者のための代替教育を支援しています。

タヌートでは地域の典型的な学校とCEA(代替教育機関)の双方を訪問することができました。CEAではJICAと協働し、日本式のドリル(練習帳)を活用した学習を提供しています。

日本式ドリルで勉強をする子どもたち

© 日本ユニセフ協会/2019/M.Miura

日本式ドリルで勉強をする子どもたち

首都ニアメではトンディビア小学校でイノベーションパイロットプロジェクトも視察しました。30人の子どもたちがタブレットに搭載されたカリキュラムで勉強をしています。今後、こうした取り組みの効果が発揮されることを期待しています。

人々が命がけで国を出る決心をする背景には、深刻な貧困と複雑に絡み合った様々な社会課題がありました。視察を終えたアグネス大使は、問題は大きいが、政府やリーダーたちは問題を認識してきているとし、「このまま何もせず死んでいくよりも、最後の望みをかけようと、命がけで移動していく。それはとても悲しい選択です。それを黙って見ていてはいけない。根強い問題ですが、子どもに焦点を絞って、できることを最大限やっていかなければいけない」と語り、社会教育への投資、コミュニティを通じた社会規範へのアプローチや教育水準の引き上げを始めとする継続的な支援が欠かせないことを訴えました。

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