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日本ユニセフ協会
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ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」
映画『子どもが教えてくれたこと』
上映会・トークイベントを開催しました

【2019年8月30日  東京発】

上映後のトークイベントの様子

©日本ユニセフ協会/2019

上映後のトークイベントの様子

日本ユニセフ協会は7月19日(金)、世界最大級の子ども向け映画祭「ジッフォーニ映画祭」GEx部門で作品賞を受賞した映画『子どもが教えてくれたこと』の試写会を、東京都港区のユニセフハウスで開催しました。

子どもの権利条約が国連で採択されてから30年を迎える今年、日本ユニセフ協会は「子ども」を主題にした映画12作品を5月から12月にかけて連続上映する、ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」と題したイベントを開催しています。第5回目となる今回は、難病を患う5人の子どもたちとその家族のありのままの日常をカメラに収めたドキュメンタリー『子どもが教えてくれたこと』を上映しました。

上映後には、聖路加大学病院顧問、細谷医院院長の細谷亮太先生から、病気をもった子どもとの向き合い方についてお話をいただきました。

 

映画や監督について

映画『子どもが教えてくれたこと』作中画像

© Incognita Films – TF1 Droits Audiovisuels

映画『子どもが教えてくれたこと』作中画像

映画配給会社の方から「この映画を見てほしい」と言われたことがきっかけで、関連するイベントのたびに招待されては話をするようになり、過去には本作の監督であるアンヌ=ドフィーヌ・ジュリアンさんと直接お話をする機会もありました。監督はもともとフランスのジャーナリストで、ベストセラー作家でもあります。監督の長女は2歳で白質脳症(脳の白質が退行していく難病)を発症したそうです。次女を妊娠しながら長女を看取りましたが、同じ病で次女の命も失っています。

この映画では登場人物たちがその後どうなったかは描かれませんが、彼らが付き合っている病はいずれも、父母が先に見送らなければならないような病です。しかし、作中の病室は鮮やかな色彩に包まれており、少しも暗い印象はありません。

子どもたちの持つ洞察力

過去に、とある放送局が聖路加大学病院でドキュメンタリーを撮影しました。通常のドキュメンタリーでは1週間か2週間程度撮影をしますが、このときはなんと1年間にわたって子どもたちの日常を撮り続けました。その映像には、私たち医療従事者でさえも知らない子どもたちの交流が収められていました。神経芽腫で治療の限界を迎えつつある素平くんと、足の怪我で歩けない司くん。同い年の二人はよく一緒に遊んでいました。素平くんは歩けない司くんを気遣って、彼が移動する際は「気をつけてね」と声をかけます。司くんは、抗がん剤の影響で目が見えない素平くんがどの絵本を読むか選択できるように口頭で具体的に絵本を描写します。このように、たった6歳でも相手の事情をくむことができるのだと、子どもたちの持つ力に気づかされました。

夏のある日、素平くんは眠るように息を引き取りました。一時退院から戻った司くんは素平くんに何が起こったのか分からず、「素平くんは星になった」と説明するお母さんに対して「素平くんに会いたい」と何度も訴えます。私は司くんと少しお話をすることにしました。素平くんにはもう会えないこと、でも素平くんは司くんのことを覚えていて、ふたりの間には楽しい思い出があること。司くんは、素平くんのシールが貼ってあるのを見て「これがあると、素平くんがいるように思える」と言いました。

映画に登場する子どもたちも、素平くんや司くんと同じように、人生に対して鋭い洞察力を持っています。彼らが人生について語った言葉は、我々おとなが感じている人生観となんら変わりないものでした。

子どもの権利と向き合う

細谷亮太先生

©日本ユニセフ協会/2019

細谷亮太先生

私は聖路加大学病院の小児科で小児がんを専門にしていました。小児がんを専門にすることは、小児に関するすべてを診られるようになってからしかできません。がんはがんでも、小児がんと大人のがんはまったく違います。おとなのがんは表面から出ます。イメージと違うかもしれませんが、胃や食道、女性について言えば子宮や卵巣も表面にあたります。しかし、子どものがんは骨や筋肉、血液など内から出ます。また、おとなのがん治療は手術などの外科療法が中心ですが、子どもは薬物などの化学療法が中心です。

私は、患児の精神衛生面からその家族の経済面にいたるすべてを支える「トータルケア」の重要性を学び、日本でも子どもにちゃんと病気を伝えるという宿題を、留学先のアメリカから持ち帰りました。子どもの権利条約第12条には、子どもには自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利を持っていること、その意見が、子どもの発達に応じて、充分考慮されなければならないことが明記されています。だから、きちんと言わなければなりません。病気を伝える際にまず重要なのは両親に揃って伝えることです。どちらかに先に伝えると、情報の偏りが生じてしまいます。それから、落ち着ける場所で落ち着ける時間に告げること。リラックスした雰囲気の中でお伝えすることが大切です。そして、希望を失わせないこと。例えばある病気について「半分は助かりません」と表現するか「半分は助かります」と表現するかで、印象はまったく変わります。最後に、患児に嘘をつかないこと、彼らに分かるように伝えること。これは小児科の義務です。

1986年に実際に病名の告知をしています。急性リンパ性白血病の女の子でした。愛媛の小さな島の出身で患児の情報が島内に知れ渡ってしまっていたために、両親から「病気のことを話してほしい」と頼まれました。バウムテスト(検査を受ける人が樹木を描き、そこに投影される情報を専門化が読み解く心理検査)を実施し、女の子の心理が順調に発達していることが分かったため、10歳頃に病名を告げてもよいだろうと判断されました。病名を告げた病院と告げていない病院のバウムテストの結果を比較すると、前者では化学療法の前後でエネルギー、適応度とも下がらないという結果が出ています。

* * *

医療には限界があり、治せない病気もたくさんあります。今日はワクチンが発達し、80代まで生きられる時代になりました。いまや100万人のうち、未成年で亡くなる人は5,000人を下回っています。未熟児で生まれても難病を抱えていても生きられる時代になりましたが、昔は命を落としたような病気で助かっている人の半分は脳性まひをかかえて生きています。私は、患者やその家族にもなんとかいい時間を過ごしてほしいと考え、病院におけるアニマルセラピーの導入や無償のキャンプ招待などの取り組みを行ってきました。患者や家族に「あの日はとても楽しかった」と感じてほしいと思っています。

 

細谷先生の発表資料はこちらからご覧いただけます。

 

試写会に参加された方々からも、多くのお声を頂戴しました。

  • 「高校生の私ですが、近ごろ子どもの権利について考えることが増えてきました。そのような中でこのような素晴らしく、深く考えさせられる映画を観ることができて貴重な経験となりました」
  • 「子どもながらに、おとな顔負けに、人生について思慮深い語りがあり、自分の立場、周囲の状況、人生をかなり理解しようとしていることに驚きました。映画に登場する医療者の子どもたちに対する態度も子どもに対する思いやりとリスペクトがあり、素晴らしいと思いました。沢山の学びがありました」
  • 「細谷先生のお話が強く残りました。自分にもできることを、これから少しずつでもやっていこうと思いました」

* * *

ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」とは…

子どもの権利条約が採択されてから30年を迎えるにあたり、「子ども」を主題とした作品を5月~12月にかけて毎月連続で上映する日本ユニセフ協会主催の映画上映会です。「子どもたちの世界」を基調テーマに、「そもそも子どもとは?」「それでも生きていく子どもたち」「子どもを取り巻く世界」「女の子・女性の権利」という4つの視点から選んだドキュメンタリーとフィクション計12作品を上映します。

※参加申込や今後の上映予定についてはこちら

 

映画『子どもが教えてくれたこと』作中画像

© Incognita Films – TF1 Droits Audiovisuels

映画『子どもが教えてくれたこと』作中画像

◇ 映画『子どもが教えてくれたこと』

監督:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン

配給:DOMA

2016年 / 80分 / フランス

映画公式ホームページはこちらから

 

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