【2019年7月18日 東京発】
日本ユニセフ協会は7月5日(金)、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で審査員賞を受賞した映画『存在のない子供たち』の試写会を、東京都港区のユニセフハウスで開催しました。
©日本ユニセフ協会/2019 |
子どもの権利条約が国連で採択されてから30年を迎える今年、日本ユニセフ協会は「子ども」を主題にした映画12作品を5月~12月にかけて連続上映する、ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」と題したイベントを開催しています。第3回目となる今回は、貧しさゆえに親から十分な愛情を受けることができずに生きる12歳の少年ゼインの目線を通し、児童労働、移民、児童婚など中東の現実を映し出したヒューマンドラマ『存在のない子供たち』を上映しました。
上映後には、ナディーン・ラバキー監督、音楽とプロデューサーを務めたパートナーのハーレド・ムザンナルさん、そして「子どもの権利条約30周年」ということもあり、急遽一緒に来日していた2人の子どもたち、ワリードくん(10歳)とメイルーンちゃん(3歳)の家族4人が一緒に舞台に登場。会場は和やかな雰囲気に包まれました。
©2018MoozFilms |
ラバキー監督は、本作をつくった理由について
「レバノンに住んでいると、劇中に出てきたような子どもたちの姿を日々目にします。小さくても花を売ったりガムを売ったり、物乞いをしたり、仕事をしているといった光景を。レバノンは150万人以上の難民を受け入れているのですが、それもあり経済状況が悪化しており、もっとも影響を受けてしまうのが子どもたちなのです。
その事実はショッキングで責任を感じましたし、何かしなければと思いました。何もしないということはそれに加担していることと同じだと感じました。子どもたちがそんな風に生きなければならない世界を作ってしまっている。その状況に適応してしまってはいけないんです。
最近の統計によると、10億人以上の子どもたちが世界中で何らかの権利を奪われていて、それは開発途上国に限らず先進国でも同じ状況です。そこで、私にできることとして映画をつくろうと考えました」と言います。
続けて、映画の持つ力について、
「映画というのは真に物事の見方を変えられる力を持っていると信じています。この作品を観て、皆さんに一種の反抗心、このままではいけないという強い思いを抱いていただけたらと思いながらつくりました。
子どもたちのいまの状況を受け入れてはいけない、子どもたちに不公平な世の中であってはいけないという気持ちになっていただけたら、物事が少しずつ変わっていくのではないか。
すべては子どもたちから始まると私は思っています。愛されていない子ども時代を過ごした人々がいるということ。この現状があることに驚いてはいけない、負の連鎖を続けてはいけない、これは私たちが作りだしていることなのだから。そうでなければ(映画の原題である)“カペナウム=混沌”が繰り返されてしまいます」と語りました。
続いて、主人公を演じたゼイン少年の印象的なシーンについて、ラバキー監督へ質問を投げかけると「ゼインが笑顔を向けるシーンは“自分はここにいる”“もう無視はしないでほしい”そういう訴えがまっすぐに伝わるシーンだと思います。同時にこの先の世の中で僕たちは希望を持って生きていける、そういった意味ももっていて、私も感情的になってしまうのですが、じつは現実の世界でもその笑顔は続いているんです」と、現在のゼイン少年は家族とともにノルウェーに移住し、学校で読み書きを学んでいることを報告しました。
ハーレド・ムザンナルさんはプロデュースすることを決めた理由として、
「どんなプロデューサーもこんな仕事は受けないだろうということが分かっていたから。なぜなら、路上で生活している子どもたちの現実を撮るためには、すごく時間がかかってしまう。結果的に、撮影は6カ月に及び、編集に至っては2年間かかっています。最初のバージョンは12時間にも及ぶものでしたので、全部自分たちでやろうと考えました」と説明します。
またムザンナルさんは音楽の演出について、
「映画はフィクションであることも多く、音楽が使われる時は監督が観客にこのように感じてほしいという意図を持って使われることが多いです。
でも今回は、子どもたちの現実を真に迫った形で伝えたかったので、音楽が皆さんの感情を操るようなことをしたくなかった。なので街の音、たとえばクラクションの音などを使いました。しかし自分の感情を抑えることができなかった場面もあり、音楽が強い存在感を放っているところもあります」と話しました。
©2018MoozFilms |
その後、参加者からの質疑応答では、ゼイン少年との最初の出会いについて質問がありました。
ラバキー監督は「初めて会った時、直感的にこの少年はこの先も路上生活を続けていくだけの運命ではないと感じました。当時は学校にも通えず、自分の名前を書くこともできなかったんですが、賢さ、強さや潜在性を感じたのです。栄養不良で実際は12歳なのに7、8歳の体付きをしていた一方で、幼いのにたくさんのことを見聞きしていた」と初対面の時を振り返りました。
「今日登壇する直前に彼のお父さんから電話がかかってきたのですが、アメリカで俳優の賞をもらったという報告でした。いまはどんどんおとなになっているし、学校では成績が1番だそうです。ほかのキャストも、映画を撮ったころよりも生活は向上しており、それぞれが明るい未来に向かって前に進んでいます」と話しました。
試写会に参加された方々からも、多くのお声を頂戴しました。
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子どもの権利条約が採択されてから30年を迎えるにあたり、「子ども」を主題とした作品を5月~12月にかけて毎月連続で上映する日本ユニセフ協会主催の映画上映会です。「子どもたちの世界」を基調テーマに、「そもそも子どもとは?」「それでも生きていく子どもたち」「子どもを取り巻く世界」「女の子・女性の権利」という4つの視点から選んだドキュメンタリーとフィクション計12作品を上映します。
※参加申込や今後の上映予定についてはこちら
©2018MoozFilms |
7月20日よりシネスイッチ銀座ほか全国公開
監督:ナディーン・ラバキー
音楽:ハーレド・ムザンナル
配給: キノフィルムズ/木下グループ
2018年 / 125分 / レバノン、フランス / PG12
映画公式ホームページはこちらから
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