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公益財団法人日本ユニセフ協会

施設で暮らす子どもたち
最良の環境は、施設ではなく家庭的な環境
中部・東部ヨーロッパ、アジア中央部で取り組み広がる

【2014年9月23日 ニューヨーク発】

子どもたちが施設ではなく家庭を基盤とした環境で生活できるように支援することで、家族の絆はより強くなり、子どもたちは自らが持つ力を最大限に発揮することができるようになります。

* * *

セルビア出身の12歳の少年、イリアくん。ダウン症のあるイリアくんは、人生のほとんどの時間を州が運営する施設で送ってきました。さまざまな支援が行われましたが、生みの親のもとで生活を再開させることは叶いませんでした。しかし現在、イリアくんは愛情あふれる里親のもとで生活しています。

「イリアは私と全くコミュニケーションを取ろうとしませんでした。どのような時も目を合わせることすらできない、とても内気な子でした」と、養母のスロボダンカ・マーセタさんが語ります。「しかし、この10カ月でイリアは驚くべき成長を遂げました。体重が7、8キロ増え、身長は25cmほど伸びました。外見だけでなく、人との関わり方にも大きな成長がありました」

子どもにとって最良の選択

イリアくんは、人生のほとんどの時間を州が運営する施設で送ってきましたが、現在は愛情あふれる里親のもとで暮らしています。
© UNICEF Video
イリアくんは、人生のほとんどの時間を州が運営する施設で送ってきましたが、現在は愛情あふれる里親のもとで暮らしています。

ブルガリアと共催で行ったユニセフ執行理事会の会議で、イリアくんのような子どもたちが議論の中心となりました。2011年、中部・東部ヨーロッパとアジア中央部の26カ国で少なくとも140万人の子どもたちが、親元を離れ、施設で暮らしています。別々に生活する恐れのある家庭を支援することは、施設での養育の必要性を減らし、すべての子どもたちが持っている、親といっしょに暮らす権利を促進することにもなります。家族と離れて施設で暮らす子どもたちの発育に関する懸念は、世界中で抱かれています。中部・東部ヨーロッパとアジア中央部では、弱い立場にいる子どもたちを支援するため、子どもの養育における改革が実施されました。この改革により、親と離れ離れで暮らす子どもが減少し、家庭を基盤とした環境で育つ子どもたちが増加しています。

ユニセフ事務局長のアンソニー・レークは、「子どもにとっては家庭に基づく養育が最善であり、施設での養育は最後の選択肢であるべきです。ただ単に安全な場所を与えるのではなく、愛情に包まれ支えになってくれる環境こそが、子どもたちにとって大切なのです。こうした環境は、子どもたち自身が持つ力を自ら開花させる助けとなり、やがて社会に貢献する人間に成長することでしょう」と会議で述べています。

中部・東部ヨーロッパならびにアジア中央部の多くの国々では、ユニセフの支援で実施された改革により、子どもの養育に大きな進展がみられます。この数年、不必要な家族別離を生む子どもの施設養育を避けるべく、困難な状況にある世帯への支援に重点が置かれた政策へと移行しています。その結果、この地域において、施設で養育される3歳未満児の数と、幼児施設の子どもの割合が減少する一方で、コミュニティを基盤とした家庭でのケアや里親のもとで育つ子どもが増えています。

「家族が離れ離れになることなく一緒に生活が送れるよう、社会保障センターを通して、別離する恐れのある家族の支援に力を入れています」(クロアチア社会政策・青年省Assistant Minister フルヴォイェ・サダリック氏)

「子どもたちが母親や父親、兄弟や親戚のもとで育つ環境こそが大切です。それが不可能な場合、母親や父親代わりの人たちのもとで、子どもたちが健康的な環境で育てられることが重要です」(トルコ家族・社会政策省ネスリン・チェリク事務次官)

施設での養育は、子どもたちの身体的、知的、情緒的発達を低下させてしまいます。一方で、家庭やコミュニティを基盤にした養育は、長期的に見ればより費用対効果が高いとの調査結果もあります。

新たなアプローチ

中部・東部ヨーロッパやアジア中央部の施設で暮らす140万人の子どもたちのうち、約半数は大規模な施設で生活を送っています。
© UNICEF Video
中部・東部ヨーロッパやアジア中央部の施設で暮らす140万人の子どもたちのうち、約半数は大規模な施設で生活を送っています。

施設で育つ子どもの人数は減少している一方で、施設で暮らす140万人の子どもたちのうち約半数が、大規模な施設で生活を送っています。2011年のデータでは、施設で育つ子どもの10人中9人は、両親あるいは片親が生存していることが明らかになっています。そして、施設で育つ子どもの6割を占めるのが障がいのある子どもたち、という国もあります。その背景には、コミュニティに専門的な保健ケアや、障がいのある子どもたちを受け入れる教育(インクルーシブな教育)制度が不足していることがあげられます。

なかには、保健ケアシステムの枠組み内にソーシャルワーカーの働きを取り入れたり、関連機関との協力の下で赤ちゃんの育児放棄を防ぐための取り組みを呼びかけるなど、新しいアプローチを試みている国もあります。

「家族を支援するため、教育、社会的保護、保健など、あらゆる分野のソーシャルワーカーが緊密に協力をして活動を行っています」(カザフスタン保健社会省・社会事業局長アズハル・ツレガリヤバ氏)

しかし、施設は家庭に代わることはできません。政府は、施設で生活する子どもたちの数を減らし、両親や里親のもとで暮らすことができるようにするための取り組みに力を入れることを約束しています。

「なかには、清潔な環境で専門家による適切な養育が受けられる施設もあります。しかし、施設は家族に代わることはできません。子どもたちが最良の環境で成長することができるようにするためには、家庭での生活が必要なのです」(セルビア労働、雇用、退役軍人、社会政策省国際協力局ネナドゥ・イワニセビッチ次官)

取り組みには成果が見られています。

「ブルガリアでは、施設で暮らす子どもの人数が劇的に減少しました。2015年までに、施設で暮らす障がいのある子どもをゼロにすることを目指して取り組みを進めています」(ブルガリアの国連常任代表でユニセフ執行理事会の副理事を務めるステファン・タフロブ氏)

イリアくんの里親となったふたりは、イリアくんが施設を出て一緒に暮らすようになってからの目覚しい成長に励まされながら生活を送っています。中部・東部ヨーロッパやアジア中央部だけでなく世界中で、家族が離れ離れになることがないよう、家族が直面している問題を乗り越えることができるように支援をすることで、子どもたちがより健やかな成長を遂げることができるのです。

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