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公益財団法人日本ユニセフ協会

タイ
子どもへの虐待や暴力を無くすために
教員向け研修によって守られた少女

【2015年6月1日 タイ発】

ターク県にある、アイさんが通っていた移民の子どものための学習センターの教室。
© UNICEF Thailand/2014/Metee Thuentap
ターク県にある、アイさんが通っていた移民の子どものための学習センターの教室。

タイで昨年、13歳の女の子、ノン・ケムさんが性的暴行を受けた後に殺害され、電車から投げ捨てられた痛ましい事件が起こり、国内で衝撃が走りました。しかし残念ながらこの国では、子どもへの性的虐待は、みなさんが想像するよりも日常的なものとなっています。

性的虐待を受けていた少女

ターク県で暮らすノン・アイさんは、移民の子どものための学習センターに通っていました。アイさんは12歳から2年間、このセンターの先生から繰り返し性的虐待を受けていました。虐待を受ける以前、アイさんは学校生活を楽しむ、活発で表情豊かな女の子でした。幼い頃に両親が離婚し、母親がバンコクに引っ越したことがきっかけで、アイさんは兄弟姉妹と一緒に農村部の学習センターの寮で生活を送るようになりました。そして、アイさんは暴力の標的にされてしまったのです。

「初めてアイさんが虐待を受けていることを知ったのは、近所の人から耳にした話でした。トイレに行くアイさんの後を追って、男性教師が女子トイレに入っていくのを見たと、住民が教えてくれました。そして後に、この先生が女子寮を訪れ、アイさんを探して蚊帳の中に入って来たと、アイさんの姉妹からも聞きました。私は、テレビを観ているアイさんの身体を触っているのを見ました」と、虐待に気が付いたミア・キン先生が語ります。

ミア先生はなんとか虐待を止めさせようと、ハイマ校長先生に相談したといいます。しかし、ハイマ校長先生はアイさんに虐待をしていた男性教師の親せきでした。校長先生は対処すると告げるに留まり、何の行動も起こさなかったのです。その後も、アイさんへの性的虐待が終わることはありませんでした。ミア先生は、この学校に赴任してからの期間が一番短い上に、このセンターで働く他の教員は全員、この男性教師の親せきだったのです。ミア先生は、どうしたらいいのか分からなかったと話します。

ミア先生はアイさんを本当の子どものように可愛がり、アイさんのことを“私の子”と呼んでいました。「アイさんがこの男性教師と二人きりにならないようにしていました。でも、それ以外に私に何ができるのか、分かりませんでした。追い込まれ、私にはアイさんを助けることはできないのだと感じていました」と、ミア先生が涙ながらに語ります。

助けを求めて

ユニセフのシアヌーク子どもの保護専門官と話をするミア先生。
© UNICEF Thailand/2014/Metee Thuentap
ユニセフのシアヌーク子どもの保護専門官と話をするミア先生。

その後ミア先生は現地のNGO団体が実施した子どもの保護ワークショップに参加しました。そこで、子どもの権利や虐待を受けている子どもの見つけ方、通報の方法などを学んだのです。そして、ミア先生はこのNGO団体にアイさんの虐待について報告をしました。

過去を断ち切って新しい生活を始めることができるよう、NGOの手助けでアイさんは兄弟姉妹と共にこのセンターを退学し、新しい学習センターに通い始めました。また、検査のために病院に行き、精神科医とのカウンセリングも行っています。

「アイさんは当初、食欲もなく、夜も眠ることができませんでした。自分は価値のない存在だと感じ、他の人たちに虐待について知られることを恐れ、友達とは距離を置いていました。長い間虐待を受けていましたが、誰にも言えなかったのです。家族にすら、打ち明けていませんでした」と、NGO団体のスタッフが語ります。

アイさんの証言により、男性教師は逮捕・起訴されました。この教員は罪を認めており、現在25年間の刑期についています。

「刑務所に入ったことを聞き、安心しました。もうこれ以上、虐待の被害に遭う女の子が出ないのですから。その後、アイさんにも会いました。アイさんは私を見つけると、ぎゅっと抱きしめてくれました。生き生きと、元気を取り戻したアイさんの姿を見て、本当に幸せな気持ちになりました。アイさんと虐待について話すことはありませんでしたが、通報したのは私だと、アイさんは知っているのだと思います」と、ミア先生が話しました。

タイの子どもたちを守る、ユニセフの活動

ターク県の移民の子どものための学習センターにある、アイさんが暮らしていた女子寮。
© UNICEF Thailand/2014/Metee Thuentap
ターク県の移民の子どものための学習センターにある、アイさんが暮らしていた女子寮。

タイでは、子どもに対する暴力が深刻な問題となっています。2013年、1万9,000人以上の子どもが、虐待が原因で公立病院を訪れて治療を受けています。そしてその大半は10歳〜15歳の少女たちで、自分たちのことをよく知る周りの人たちから性的虐待を受けていました。このような虐待は、子どもたちの心身の発達を妨げ、社会に大きな影響をもたらします。

ユニセフはパートナー団体と共に、ターク県やチェンマイ県で活動するNGO団体を支援し、先生やコミュニティ向けの研修を行っています。この研修では、ミア先生が虐待を通報するきっかけとなったワークショップも行われています。ターク県では、10カ所の学習センターで50人の教員が、ネグレクトや虐待、搾取の被害を受けている子どもたちを助ける方法について研修を受けました。

「もっと前にこの研修を受けていたら、もっと早くアイさんの力になれたのに」と、ミア先生が語ります。

また、ユニセフは教育省と共に、教育現場で虐待を防ぐための、より強固な保護政策の整備に努めています。暴力や虐待から生徒を守る教師の義務や、報告後の対応手順が詳しく定められており、タイのすべての公立学校でこの政策が取られることになります。ユニセフはより多くの人に子どもの虐待を発見・報告する方法について知ってもらうため、啓発キャンペーンも行っています。

子どもたちが安心して暮らせる社会へ

「もし性的虐待を受けていなかったら、アイさんの人生はどんなにいいものだったでしょう。暴力の被害に遭う子どもをなくすことを目指して、ユニセフは日々活動しています」と、ユニセフのシアヌーク子どもの保護専門官が語ります。

子どもに対する暴力は、あらゆる場所で起こっています。私たちの目に見えないところでも起こっているのです。すべての子どもに、心身の発達を妨げ、社会全体を後退させる子どもへの暴力のない社会で暮らす権利があります。人々が一致団結し、暴力を許してはいけないと声を上げることで、子どもたちを暴力から守ることができるのです。

*名前はすべて仮名です。

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