メニューをスキップ
日本ユニセフ協会
HOME > ニュースバックナンバー2015年 >

世界の子どもたち

タジキスタン
『イマジン・プロジェクト』
手話が繋いだ子どもたちの心

【2014年12月  ドゥシャンベ(タジキスタン)発】

ある日のイマジン練習風景

© UNICEF Tajikistan/2014/Shohei Kawabata

ある日のイマジン練習風景

「子どもの権利条約」が記念すべき25周年を迎えた11月20日、ユニセフ史上最大の世界「シング・アロング(みんなで歌おう)」企画、『イマジン・プロジェクト』(#IMAGINE)がスタートし、世界中からたくさんの歌声が集まりました。このプロジェクトは、故ジョン・レノンさんが平和へのメッセージを込めた曲「イマジン」を世界中の人々がともに歌い、世界を覆っている暗雲をみんなの力で吹き飛ばし、子どもたちへの祈りを結集しようという趣旨のもと行われました。賛同アーティストやユニセフ親善大使の歌声を結集した特別動画の配信のほか、一般の方々がジョン・レノンさんと一緒に歌うことができる専用アプリを通じて、多くの歌声がユニセフに集まったのです。

中央アジアのタジキスタンにおいて、インクルージョン(誰もが受け入れられる社会)の推進の一環としてこのプロジェクトに精力的に取り組んだユニセフ・タジキスタン事務所の川畑昌平(かわばた しょうへい)子どもの保護専門官が、子どもたちの様子を報告します。

* * *

タジキスタン初の試み

暗闇をステージに変えるタジキスタン・イマジン子ども合唱団

© UNICEF Tajikistan/2014/Shohei Kawabata

暗闇をステージに変えるタジキスタン・イマジン子ども合唱団

この日、タジキスタンで初めての試みとなる、聴覚障がいのある子どもたちと障がいのない子どもたちによる混声合唱団が、「子どもの権利条約」25周年を記念する国際会議式典でイマジンの歌声を披露しました。この試みは、障害のある子とない子が共に合唱するということだけでなく、真っ暗な暗闇のなかで合唱を披露したという点においてもタジキスタンで大きく取り上げられました。

暗闇で白色を浮かび上がらせるためのブラックライトや特殊な電灯が用いられ、白い手袋をまとった子どもたちの手が音声合唱とともに織り成すハーモニーに、来場した聴衆は魅了されました。

このアート・パフォーマンスは、障がいのある子どもたちが持つ能力を示し、障がいの有無に関わりなくすべての子どもにとって住みよい平和な世界を実現しよう、そんな希望を願う事から生まれました。

タジキスタンの子どもたちによる、Imagineパフォーマンス動画はこちら

素晴らしい経験に

未来の夢をノートの書き留めているザリーナさん

© UNICEF Tajikistan/2014/Shohei Kawabata

未来の夢をノートの書き留めているザリーナさん

8才になるザリーナさん。「子どもの権利条約」採択25周年記念の式典で、障がいのない子と一緒に歌を歌いましょうと先生から聞いたとき、ザリーナさんにはまだそれがどんなに素晴らしい出来事になるか想像できませんでした。

両親、そして3人の兄妹と一緒にヴァフダットという小さな集落に住んでいるザリーナさんには、生まれつき聴覚障がいがあります。住んでいるコミュニティには聴覚障がいのある子を受け入れてくれる学校が見つからないため、毎日家から交通機関を乗り継ぎ1時間もかけて首都にある、聴覚・発声障がい児のための小学校に通っています。

ザリーナさんは、算数と国語が大好きです。一生懸命勉強して、将来はテレビで映るようなコンピュータがきれいに並ぶオフィスでタイピストとして働くことを夢見ています。多くの子どもたちと同じように、ザリーナさんは学校から帰宅して宿題を済ませると、兄妹と一緒に遊びます。けれどもこれまでは、障がいのない友達と遊ぶことはほとんどありませんでした。様々な事情から、お母さんが家の外で遊ぶ事を認めたがらないからです。混声合唱団への参加は、大きな変化でした。

また、首都に住む13歳のトミリスさんも、先生から障がいのある子ども達と一緒に歌ってみないか提案されたとき、それがどんなに楽しい発見の連続になるか想像もつきませんでした。とにかくそのアイデアを気に入り、参加したいと手を挙げました。

障がいのない子も、手話に興味を

イマジンプロジェクトで経験した楽しい思い出を話すトミリスさん。世界の子どもたちについての夢も語ります。

© UNICEF Tajikistan/2014/Shohei Kawabata

イマジンプロジェクトで経験した楽しい思い出を話すトミリスさん。世界の子どもたちについての夢も語ります。

練習初日。練習室で顔を合わせた子どもたちはみな緊張していました。一体どうやってコミュニケーションをとればいいのでしょう。トミリスさんも耳の聞こえない子とどうやってお話を始めたらいいのか分かりませんでした。

イマジンの練習は当初、障がいのない子が音声パート、聴覚・発声障がいのある子は手話のパートと、別々に演じる予定でした。ところが、練習が始まると障がいのない子どもたちは手話に興味津々でした。

ジェスチャー、ボディ・ランゲージ、筆談、そしてスマートフォンを活用して、教室にかかっている絵や写真を使っては、手話の単語の教え合いも始まりました。教室の中で笑いが起き始め、あとは友達の輪が広がります。練習の合間に互いの連絡先を交換したり、携帯からショート・メッセージを送りっこしたりして合唱メンバーは仲良くなってゆきました。

教室のあちこちで手話でのおしゃべりが繰り広げられたのを見た先生が、手話パートをみんなで演じてみることを提案したところ、みんなそのアイデアが気に入り、全員で手話パートも合唱することになったのです。

共に学び遊べる環境を

ある日のイマジン練習風景

© UNICEF Tajikistan/2014/Shohei Kawabata

ザ リーナさんは手話の先生にだってなれます

初めは手話は難しそうと思っていましたトミリスさんも、簡単でしかも楽しいことが分かって、今では帰宅するとインターネットの手話サイトで単語を調べてはお母さんに披露しています。そして、彼女は以前にも増して、私たちは障がいの有無に関わらず同じ教室でともに学び遊ぶべきであり、別々にされるべきではない、と感じるようになりました。

一方のザリーナさんにとっても合唱団の練習は驚きの連続でした。まず、障がいのない子達が手話に感心を示し、一生懸命学ぼうとしていることです。教室にかかっている絵を指してはどうやって手話で表現するかをたずねてきます。それに、とても早く意味を理解して手話を使い始めるのもザリーナさんには驚きでした。

ザリーナさんの両親も聴覚障がいがあります。そのため、ザリーナさんは学校に通うずっと前からご両親から手話を教わっていました。手話を多く知っているザリーナさんは、先生役としてみんなに手話を教えることもできました。話す相手の手話の理解の程度を鋭く察知し、理解していないようであれば即座に会話の方法をジェスチャーに切り替えることもします。似ているようで実は全く異なる手話とジェスチャーを上手に使い分ける事も彼女は心得ているのです。

未だ残る差別をなくすために

合唱の大成功を祝して、バンザイ!写真最前列右から1人目が川畑昌平子どもの保護専門官

© UNICEF Tajikistan/2014/Kirrill Kuzmin

合唱の大成功を祝して、バンザイ!写真最前列右から1人目が川畑昌平子どもの保護専門官

ユニセフ・タジキスタン事務所は、この『イマジン・プロジェクト』をすべての子どもの権利、そして障がい者にやさしい社会を実現するための長期キャンペーンの一環として取り組みました。タジキスタン政府が発表する統計では、2011年の時点でタジキスタンには約2万6,300人の障がい児がいると報告されています。これはタジキスタンの18歳未満の子どもの100人にひとり以下の割合です。ですが、WHO(世界保健機構)及びユニセフはこの統計は障がいのある子どもの数を過小評価していると考えています。その理由のひとつとして、この統計には、障がい者に対する手当てを受け取るために市役所へ登録に来た子どもしか数えられていないからです。

タジキスタンには、未だ障がい者に対する根強い偏見と差別があります。特に村落では障がいのある人々は様々ないわれの無い誹りを受けることがあります。このため、多くの家庭では、障がいのある子は障がい児登録も受けずに家の中に隠され、屋外を歩く喜びも無くひっそり過ごすか、社会から隔離された施設に送られているのです。

政府は、事態の改善の一つとして、障がいの有無に関係なくともに学べるインクルーシブ教育政策の推進を決めましたが、障がい児の受け入れは学校現場ではなかなか進んでいません。学校に限らず、タジキスタンでは障がいのある子は未だ社会の様々な場面で隔離・分離されています。このように、一般の人々が障がい者と触れる機会が非常に少ないため、障がいのある大人や子どもや、障がい者権利に対する理解が進まないという課題があります。

こうした状況は、先進国・途上国を問わず、障がい者に対する誤ったステレオタイプを生み、更なる差別や偏見を引き起こす原因にもつながっていきます。

インクルーシブな(誰もが受け入れられる)社会づくりを

ユニセフ・タジキスタン事務所の子どもの保護部門チーフ、シーマ・バルキン・クズミンは 「私たちには、人々の関係を阻む、障がい児や障がい者に対する否定的な社会規範を変える不断の努力が必要とされています」 と述べます。

トミリスさんやザリーナさんの例が示すように、障がいのある子どもにも多くの能力があり、障がいの有無に関わらず子どもはとても仲良しになれます。更に、手話というコミュニケーション・ツールをアート・パフォーマンスに高めて人々の心を揺さぶる合唱を披露することだってできるのです。

冒頭に紹介した36人の混声合唱団。彼らはユニセフが主催する子どもの権利条約25周年式典で、多くの国際ドナー・政府関係者の心を打つ素晴らしい合唱を披露しました。障がいの有無に関わらず、どの子も受け入れられたこの混声合唱団のことは口伝えに広がり、様々なイベントに招待されて合唱を行いました。彼らの姿に心を打たれたのでしょうか、時に涙を見せる聴衆さえいました。結成当時、合唱団には名前がありませんでしたが、今では誰とも無く “イマジン合唱団”とニックネームで呼ぶようにもなっています。

子どもたちの未来への希望

この式典で、集まる聴衆を前に子どもたちは未来への希望も語りました。

“私は、すべての科学技術が障がいに関係なく、子どもたちみんなにアクセス可能な形で提供されることを願います (ザリーナさん)”

“私は、障がいのあるなしに関わらず、子どもたちに国境線のない世界が実現されることを願います(トミリスさん)”

一堂に集まった政府関係者を含む多くの聴衆も子どもたちの力に衝き動かされ、未来への希望をツイートしています。ユニセフ・タジキスタン事務所代表ルチア・エルミも「私たちは、今日この日の取り組みを更に推し進め、子どもたちの夢を大きく育て、大きな変化をもたらすよう強く進まなければいけません。」 と話します。

私たち一人ひとりの力はごく小さく限られたものかもしれません。ですが、私たちがもつ思いやりの気持ちや希望を信じ、多くの人が行動を起こし続ければ、子どもたちの明日への希望は今からそう遠くない未来に実現するでしょう。私は、彼らの希望が歌声に乗って、世界にひとつでも多くの友達の輪が広がることを願います。

シェアする


トップページへ先頭に戻る