【2015年10月 東京発】
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当協会は、日本弁護士連合会との共催で、『子どもの権利とビジネス原則』をテーマとしたセミナーシリーズ「ビジネスで守る子どもの権利」を開催しています。9月3日(木)、第1回セミナーを開催、ビジネスと人権をめぐる国際的な動向や日本企業にとっての課題、ビジネスが子どもの権利に取り組む様々な可能性等について議論しました。
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冒頭の挨拶で、日本ユニセフ協会早水研専務理事は、2012年にユニセフ等が発表した『子どもの権利とビジネス原則』が、企業が子どもの権利を侵害しないという面と、子どもの権利を積極的に推進するという2つの面からなっていることや、企業と子どもの接点を、職場、市場、地域社会・環境という3つの「場」に分けて考えていることを説明し、本セミナーシリーズが、特に"推進"の側面について考える機会になることへの期待を述べました。また、原則が発表される前から、ユニセフや日本ユニセフ協会は、旅行・観光業や、情報通信産業等において、業界の方々とともに子どもの権利を守ることに取り組んできたことや、国連で採択予定の(注:同月25日に採択)「持続可能な開発目標(SDGs)」で企業の役割が重視されていることも紹介しました。
次に、日弁連の企業の社会的責任と内部統制に関するプロジェクトチーム座長、齊藤誠弁護士より、2011年に国連人権理事会で承認された『ビジネスと人権に関する指導原則』、『子どもの権利とビジネス原則』、日弁連が2015年1月に発表した『人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)』の概要や意義を含め、ビジネスと人権の国際的な動向についての説明がありました。
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特に『指導原則』は、企業が尊重すべき人権ルールを定めることで、企業の社会的責任を、社会貢献から事業活動のありようそのものへとシフトさせたとして、その意義を強調しました。また、『子どもの権利とビジネス原則』については、人権に関する条約等が具体的な内容をイメージしにくいものであるのに対し、「子ども」だけでなく、家族、地域社会等の子どもをとりまく「環境」や、子どもに影響を及ぼす広告等も含めてとらえており、ビジネスと人権の多様な接点を示し、「人権」の広がる範囲が具体的にイメージしやすい文書として注目していると述べました。
齊藤弁護士は、指導原則の定める企業が尊重すべき人権の内容は、「国際的に認められた人権」であるが、日本では人権教育の不足等から「国際人権感覚」が欠如していることを強調しました。目の前にあるのに人権問題が見えない、例えば、外国人の就労問題は、就労資格や日本の労働法制をクリアーするだけでなく、自由意思による就労や「ディーセントワーク」までも保障することが人権の保障であるとの理解が欠如していることからくる、と説明しました。
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日本企業による具体的な取り組みの事例として、まず、日本航空株式会社 執行役員総務本部長 日岡裕之氏より、同社の行動指針である「JALフィロソフィ」に基づくCSR活動で重視する分野の一つが「次世代育成」であること、その具体的な活動である、「子どもに夢を与えられる仕事」であることを生かした現場の社員による子ども向け講座や、旅行という商品を通じた、東日本大震災被災地の子ども支援やユニバーサルデザインの取り組み等が紹介されました。また、一人の社員(国際線パイロット)の「世界の子どもたちへの支援が地球の未来につながる」との思いから始まったユニセフへの支援、外国コイン募金の実施・輸送等の協力についても紹介があり、これらの活動が着実に社員の意識に浸透しているとの説明がありました。
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株式会社LIXILグローバルCR推進室長の小竹茜氏からは、グローバル・コンパクトへの署名を契機に取り組みを強化したこと、交通事故の3倍の人が家庭内の事故で命を落としていることを踏まえ、「子どもにやさしいはみんなにやさしい」をコンセプトに、家庭内の安全性を考慮した様々な商品開発を行っていること等が説明されました。また、学校に適切なトイレがないことが、衛生問題であるだけでなく、教育・貧困問題さらに性暴力の問題にもつながっているとの認識から、ユニセフと協力して、ケニアなどで学校のトイレを改善するプロジェクトを実施、トイレに対するイメージを変え、行動変革をおこしたこと、また、日本で行っている環境教育なども紹介されました。
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後半のパネルディスカッションの中で、両社の取り組みについては、齊藤弁護士、司会の高橋大祐弁護士(日弁連企業の社会的責任と内部統制に関するプロジェクトチーム副座長)より、子どもの安全や衛生問題への取り組みはもちろん、子どもに夢を与え創造力を豊かにする活動や、社員のワークライフバランスへの配慮なども、『子どもの権利とビジネス原則』を実践する活動であると評価されました。両社は必ずしも「人権への取り組み」として認識していたわけではないとのことですが、「子どもの権利」というレンズを通して見ることで、実は多くの子どもの権利を守る取り組みがすでに行われていることがわかり、ビジネスの多様な可能性を示す結果となりました。
『子どもの権利とビジネス原則』には1〜10の原則がありますが、それぞれの企業にとって位置付けや重点が異なることは、2社の事例からも確認されました。何から始めるのかという点について、企業の登壇者からは、「本業でできることをやっていくことが基本」との発言がありました。また、家庭内で子どもを危険から守る、途上国の学校トイレで女の子を性暴力の被害から守る取り組みは、「最も子どもに危険を生じさせるものから対処する」ものとして人権デュー・ディリジェンスのリスクベース・アプローチの考え方とも合致している、と評価されました。
パネルディスカッションでは、日本企業は一般的に、欧米企業に比べて"アピール"が苦手であることにも話が及びました。今後、非財務情報の開示がますます求められるようになる中、子どもの権利に関する取り組みを、サステナビリティー戦略に位置付け、積極的に情報を開示していくことで、コーポレートブランド向上へと結びつけていくことができるだろう、との議論で一致しました。
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