【2015年10月23日 ベトナム発】
ユニセフはベトナムの子どもたちのために、栄養プログラムを実施しています。ユニセフ東アジア・太平洋地域事務所のクリスティアーヌ・ルデルト栄養アドバイザーが、ベトナムの極北に位置する山岳地域で暮らす、少数民族のモン族の子どもたちを訪ね、その地で行われている栄養改善プログラムについて報告しています。
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© UNICEF EAPRO/2015/Christiane Rudert |
ベトナム国内に約100万人ほどいる少数民族のモン族は、遠く離れた山奥の村々で生活し、急勾配で階段状の畑で米やトウモロコシを育てています。
発育阻害(身長が年齢相応に成長していない状態)でないかを確認する基準でみた場合、モン族の子どもたちは低栄養の割合が極めて高く、子どもたち全体の75%が発育阻害である地域もあります。私が世界各地で見てきた中でも、これほど発育阻害の子どもの割合が高い地域は他になかったと思います。ベトナム北部の山岳地帯に位置するラオカイ省の平均は40%ですが、この数値でも全国平均のほぼ2倍に上ります。山岳地域で出会ったモン族の子どもたちは、自分たちのことを9歳と言っていましたが、4歳程にしかみえませんでした。大人たちも背の低さが際立っています。
ユニセフは、モン族コミュニティの保健当局を支援し、モデルケースとなる栄養プログラムの実施を支えています。モデルケースにするためには、プログラムの進捗が徹底的に記録され、実施期間の2年間に渡り、追跡評価されるなければなりません。経験や教訓を得るだけでなく、このプログラムが栄養不良の減少に貢献していることを証明しようとしています。それが証明された場合、保健省は、この栄養プログラムを、発育阻害が高い割合で見られるすべての地域に対象を広げて導入していくつもりです。
モデルケースのプログラム開始後、すぐに実施した調査により、モン族の間で発達阻害の割合が高い原因のひとつに、食糧の確保が著しく不安定なことが指摘されました。モン族は、天水依存での米栽培を一年に一回しかしていないうえ、その米作地は、市場からはるかに遠く離れた狭い土地なのです。家族を年間通して安定的に養い、バランスの良い食事を必要とする幼い子どもたちに提供するには、はるかに不十分なのです。
幼い子どもに与える離乳食も、非常に栄養が乏しいことが分かりました。伝統的な離乳食には米しか含まれておらず、母親か祖母が子どもに与える前に咀嚼して柔らかくします。同様に、衛生状態も非常に悪く、これが発達阻害を引き起こす重要な原因となっています。一方で、6カ月未満の子どもに対する完全母乳育児率はかなり高く、約60%に上るという良い報告もありました。
© UNICEF EAPRO/2015/Christiane Rudert |
栄養プログラムには2つの主要な活動があります。「子どもの食事とケアのクラブ」、そして、村の保健員たちで構成される「村の栄養支援グループ」です。私が訪ねたクラブには約20人が参加し、その多くが母親で赤ちゃんや幼児を連れて来ていましたが、中にはほんの数名、父親や祖父も参加していました。
様々なクラブ活動の中には、訓練を受けた保健スタッフによる栄養学習も含まれており、その学習にはユニセフが提供する資材も使用されています。他にも、米と二種類の豆を粉に挽く作業もしました。その後の料理の実演では、この混ぜた粉を使った柔らかいオートミールの作り方や、野菜、卵、牛乳、豆腐、魚もしくは肉と混ぜることによって、さらに栄養価が高まることを学習します。
クラブで調理したオートミールを口にした6カ月以上の子どもたちは、それを好んでいる様子でした。保健スタッフは、重度の急性栄養不良に陥っていないか確認するために、子どもたちの身長と体重を計りました。、治療が必要と判断された子どもは、その場ですぐ口にできる栄養補助食品を受け取ります。
© UNICEF EAPRO/2015/Christiane Rudert |
子どもの食事とケアのクラブに参加していた22歳のテイアン・チ・ドアさんは、1歳の娘ホアンちゃんを連れていました。
ホアンちゃんは生後6カ月間の大半を母乳で育ちましたが、時には水を与えられることもありました。現在、テイアンさんは母乳での授乳を続ける一方、クラブで学んだ米と豆の離乳食をホアンに与えています。彼女の家族は、ホアンちゃんの健やかな成長のためには、経済的に負担にならないくらいのわずかな量の肉が必要なだけだと分かってから、ホアンちゃんの食事を優先させてくれているそうです。
ホアンちゃんは生後6カ月間の大半を母乳で育ちましたが、時には水を与えられることもありました。現在、テイアンさんは母乳での授乳を続ける一方、クラブで学んだ米と豆の離乳食をホアンに与えています。彼女の家族は、ホアンちゃんの健やかな成長のためには、経済的に負担にならないくらいのわずかな量の肉が必要なだけだと分かってから、ホアンちゃんの食事を優先させてくれているそうです。子どもの食事とケアのクラブに参加していた22歳のテイアン・チ・ドアさんは、1歳の娘ホアンちゃんを連れていました。
孫のためにクラブに参加していた、祖父のジアン・セオさんの自宅を訪れるために、険しい山道を進みました。孫のダンちゃんは、過去に、重度の急性栄養不良に苦しみました。
ダンちゃんは、生後18カ月の時体重がわずか7キロしかなく、やせ細った小さな赤ちゃんでした。しかし、ユニセフの提供する栄養補助食品を2週間口にしたことで、その後体重が順調に増えました。ダンちゃんの通常の食事は米と少しの野菜だけです。母親は家から遠く離れた場所にある農作物の世話のため留守がちで、生後6カ月の時に母乳育児をやめていました。
セオさんは、自分たち家族には肉を買うだけのお金がないと言います。卵はあるのですが、赤ん坊には与えないそうです。村の保健員が赤ちゃんの父親に、スクランブルエッグの作り方を実際に見せて伝えました。発育阻害は世代から世代へと受け継がれてしまうのです。
ユニセフはまた、村の保健員を訓練し、幼児や子どもの食事に関するカウンセリング、衛生の推進、重度の急性栄養不良の子どものスクリーニングができるように支援しています。訓練期間5日間のうちに、村の保健員は、担当区域内の2歳未満の子どもがいる家庭を訪問し、子どもの食事について聞き取りを行い、カウンセリングを行います。また、人々を集めて学習会も開催します。村の保健員には、ベトナム政府から月30米ドル以下の給付金が提供されます。
© UNICEF EAPRO/2015/Christiane Rudert |
モン族が暮らす山岳地帯から戻った後、地域の保健局のスタッフと話し合いをもちました。副局長のリエン医師は、その地域の90すべての自治体(小区域)が、発達阻害の子どもに関する同様の問題を抱えていると言いました。子どもたちの食事は米だけで、親たちは子どもに与える適切な食事に関する知識が不足しています。リエン医師は、保健局のスタッフがユニセフの栄養プログラムを注意深くモニタリングし管理すること、そして、結果から学び状況を改善していく必要があると強調しました。モデルケースとなる今回の栄養プログラムの結果を今か今かと待っているリエン医師は、他の地域にこのプログラムを拡大するための、予算や実施計画を立てようと考えています。
今回訪問したモン族のコミュニティを離れる際、私は、モン族の人々の可能性に明るい兆しを見ました。親や祖父母、そして保健員の人々が、栄養プログラムの実施に熱心であり、子どもたちにとって最善のことをしようと決心していたからです。保健省とユニセフ、そしてユニセフのパートナーの支援によって、栄養のある食事をとり、より背が高く健やかに成長するであろうモン族の子どもたちには、過去の世代よりもより良い未来が待ち受けていると、私は自信を持って言えます。
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