【2016年2月4日 スバ(フィジー)発】
©UNICEF Pacific /2015/Sokhin |
太平洋諸国の多くの島々では、その地理的制約から、特別な支援を必要とする子どもたちへの教育が困難になりがちです。東太平洋に広がり、10万人強の人口を抱える島国ミクロネシア連邦のヤップ州で暮らす9歳の女の子は、目が見えないという障がいがありながらも、母親の献身的な支援のおかげで、毎日学校に通っています。
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娘のグレースちゃんが学校のことを話すと、母親のロージーさんから笑みがこぼれます。「毎日学校に行くのが楽しくて仕方がありません。授業中は席に座って、先生が話すことを聞いています。新しい学びが毎日あります。一番好きな教科は理科。私を取り巻く世界を知るのが好きです。お母さんはいろいろ手伝ってくれます。分からないことや見えないものについて、説明してくれます」
グレースちゃんは生後わずか3カ月の時に未熟児網膜症を患い、目が見えなくなりました。これは、網膜内に異常な血管が生じた場合に、未熟児に発生する疾患です。グレースちゃんは現在9歳、小学校4年生です。
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ここまでたどり着くには、母と娘ともに信じ難い程の努力が必要でした。グレースちゃんの通う学校は、特別な支援を必要とする子どもたちをサポートする体制がなく、特別な訓練を受けた先生もいませんが、だからといって通学をあきらめたことはありません。
母親のロージーさんは、娘が2人の弟たちと同じ教育を受けるのだという決意を胸に、娘と一緒に毎日ガーネレイ・コミュニティスクールに通っています。
「本来であれば、ヤップ州の特殊教育局によって、グレースちゃんの通学に付き添うフルタイムの専門職員が派遣されるはずなのですが、そのような職員はここにはいません。だから、なんとかして時間を作って、毎日8時から正午まで、娘に付き添って学校に行くことにしたのです。現地語、ヤップ語、英語、算数、理科の勉強を手伝います」とロージーさんは話します。
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グレースちゃんは、島で暮らす目の見えない子どもの中で、唯一学校に通っています。目の見えない子ども向けの教材がないため、ロージーさんはグレースちゃんの教科書やノートを点字に翻訳しています。
「他にやってくれる人がいないので、私がやるしかないのです。ヤップでは点字の本が手に入らないので、自分で作る方法を学びました。ヤップ語と英語で作ります。時間が足りないので、一番大事な本だけです。必要な本全部を点字にすることはできません。ほかの2人の子どもたちの面倒も見なければいけませんから。目の見えない子の中で、島で学校に通っているのは娘だけです。ほかの子どもたちは、親が音を上げてしまうので、学校に通わずに家にいるほかないのです」とロージーさんが語ります。
家族の中に静かな決意がみなぎっていることは明らかです。グレースちゃんも同じように学習に対して真剣に取り組んでいます。「学校の友達はみんな親切だけど、あんまり一緒に遊びません。学校が終わったら家に帰って、お人形遊びをしたり宿題をしたりします。お母さんが点字で書く方法を教えてくれるから、自分で本を作れます。私が知っていることを他の子どもたちにも教えてあげたいから、大きくなったら学校の先生になりたいと強く思っています」
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太平洋地域の多くの島は遠く、孤立しているため、特別な支援を必要としている子どもたちへの教育が特に困難です。必要なスキル、サービス、高度な専門家が不足し、家族や親せきがグレースちゃんの母親のような支援を行えないため、障がいのある子どもたちの多くは学校に通うことができません。
太平洋諸国のすべての子どもたちが、自身がもつ潜在能力を最大限発揮できるよう、ユニセフは子どもの権利条約に明記されている等しく教育を受ける権利の実現に向けて、政策提言を進めています。
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