【2016年2月2日 ニューヨーク発】
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持続可能な開発目標(SDGs)の採択と気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の合意という、2つの重要な外交上の成果がもたらした活気や高揚と共に、2016年が幕を開けました。
かつて、これほどまで多くの政府やグループ、人々が、私たち皆にとってより良く、より持続的な未来を築くための行動を強く求め、団結したことはありませんでした。
私たちの強い想いを結束させたことは重要な第一歩ですが、次にどのような行動を起こすかが、非常に重要なのです。それは過去の理事会でも述べた通りです。
昨年6月のユニセフ執行理事会では、何百万人もの子どもたちが陥っている不平等という負の循環、そして、(社会的・経済的)不利、貧困、不健康、教育の欠如という世代間の負の連鎖を絶たない限り、SDGsを達成することはできない、ということについて議論をしました。さらに昨年9月の理事会では、私たちの都合で区分している「人道支援」と「開発支援」の壁を壊すことの重要性について、そして、紛争または自然災害、あるいはその両方の人道危機に巻き込まれている子どもたちへの支援なくして、この意欲的な目標であるSDGsを達成することはできない、ということに関しても話し合いました。
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そして今日は、より持続的な未来を築くために必要な第3の事項を、みなさんと一緒に議論したいと思います。「気候変動」についてです。SDGs達成に向けて、そして人道危機への対応として、私たちは、ユニセフの活動と気候変動への対応とを結びつける責務があります。なぜなら、気候変動に対する具体的で力強い行動なくしては、昨年の大きな外交的成果も、実際には世界中の人々に悲劇をもたらし、さらには“世界の最も若い市民”である子どもたち一人ひとりに、悲しみを与え得るからです。
“最も若い市民”を挙げた理由、それは、子どもたちが気候変動の影響を、不当なほど大きく受けているからです。5億人以上の子どもたちが、極めて洪水のリスクが高い地域で暮らしています。1億6,000万人近くの子どもたちが、極めて干ばつのリスクの高い地域で暮らしています。世界の子どもたちの半数が、空気汚染が深刻な都市部で暮らしています。そして、子どもたちが最も多く暮らす地域であるアフリカとアジアは、気候変動の影響に対して最も大きい負荷を強いられている地域でもあるのです。
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そして子どもたちは、単に子どもであるという理由で、多大なリスクに晒されています。子どもはおとなに比べ、体重あたりでより多くの食べ物を摂取する必要があります。その理由から、干ばつや洪水の発生の際に、子どもたちは飢えや栄養不良のリスクに最も晒されます。また、子どもの呼吸数はおとなの2倍にのぼることから、空気汚染の悪化に伴った呼吸器系の病気にかかるリスクが最も高くなるのも、子どもたちです。ただでさえマラリアやデング熱、下痢、肺炎などの病気のリスクに晒されている子どもたちは、病気への感染により認知的、身体的な発達を妨げられる多大なリスクにも晒されているのです。
そして言うまでもなく、子どもたちは人道危機下において最も脆弱な立場に置かれ、あらゆる形の暴力や搾取、虐待の危険が最も高い存在です。
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その“子どもたち”の中でもとりわけ、最も弱い立場に置かれた子どもたちが、最も危険に晒されます。気候変動は、“公平性”に深く関わる問題です。干ばつや厳しい気候、紛争に直面した際、貧しい家庭の子どもと裕福な家庭の子どもが同じような機会に恵まれることは、到底ありません。
子どもたちの生存は、医療ケアや清潔な水、安全な住居へのアクセスにかかっています。しかし、最も弱い立場に置かれている子どもたちは、(災害発生や紛争勃発)以前から既に貧困に苦しんでおり、これらの必要不可欠なサービスを十分に利用できない地域で暮らしています。
それだけではありません。そういった子どもたちは、気候変動による影響を特に受けやすい農地で暮らしている傾向にあります。洪水や嵐に晒されるリスクが高い、都市部の農耕限界地で暮らしていたり、あるいは、脆弱な森林生態系や海洋生態系に依存する先住民のコミュニティに属していたりします。基本的なインフラが十分に整っていない地域で暮らしていることもよくあることで、そのことが、災害後の復興はもちろん、開発や発展を極めて困難にしています。2050年までに、世界の子どもの3人に1人以上がアフリカで生まれると予測されており、ますます多くの子どもたちが、気候変動の影響を大きく受けるこの地域で暮らすようになるでしょう。
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気候変動は、最貧困で最も脆弱な人々に対して、最も厳しく、最も不公平な影響をもたらしています。それだけではありません。それらの影響は、何百万人もが陥っている貧困や不健康といった世代間の負の連鎖を更に深刻化させています。私たちがSDGsの目標を達成し、2030年以降も持続可能な開発を促進させていくためには、この連鎖を絶たなくてはいけません。
例えば、およそ3億人の子どもたちが、国の人口の半数以上が貧困の中で暮らしている国々の、洪水の起こりやすい地域で生活しています。度重なる自然災害に遭い、その度に対処しなければならないことを想像してみてください。民家や学校、給水システム、病院を繰り返し再建し続けなくてはならないのです。そして、何十年にもわたる開発で築き上げられてきたものが、気候変動による災害で一瞬にして崩れ去ってしまう場面を、想像してみてください。
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気候変動は、人口移動にも影響を及ぼします。国内避難民監視センター(Internal Displacement Monitoring Center, IDMC)によると、気候変動のために国内避難をする可能性は、4年前よりも60%高くなっており、移動をする人々が置かれる不利な立場や脆弱性は深刻さを増しています。
例えば、気候変動によって水没の恐れのある小さな島国で暮らす人々の苦境を考えてみてください。子どもたちは将来への計り知れない不安とともに成長し、親たちは、家族のよりよい未来を求めて故郷を去るか、最善の結果を祈りながらその地で暮らし続けるか、極めて困難な選択に直面しています。
かつてアフリカ最大の湖の一つで、何世代にもわたり、人々に水を供給し、家畜の命をつなぎ、漁業の支えとなってきたチャド湖は、気候変動も一因となり、1960年代から水位と湖の大きさは90%縮小し、地域で暮らす人々の水と生活の支えが徐々に失われています。
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さらに、干ばつや洪水、厳しい気候などの気候変動に関連する自然災害は、競争に拍車を掛ける可能性もあります。つまり、手に入りにくくなった天然資源を巡って、より多くの紛争が起こることが考えられます。
ですから、気候変動は世界の最も脆弱な人々、そして誰よりも最も弱い立場に立たされる子どもたちに、不当で偏った影響を及ぼしているのです。それは、貧困や不平等をより深刻にし、世代間で続く負の連鎖をなくすことを更に困難にします。開発でもたらされた前進のスピードを弱め、後退させます。避難や競争、さらには紛争に拍車をかけるきっかけにもなります。
だからこそ、ユニセフは、「緊急支援」と「長期的な開発支援」を統合して実施するとともに、SDGsの目標達成のために、気候変動に焦点を当てた対応を、それらの活動に結びつけなくてはならないのです。「気候変動とその影響への緊急対策の実施」というSDGsの目標13の設定をユニセフは歓迎しますが、気候変動の影響はおそらく、SDGsのすべての開発目標に及ぶことでしょう。
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ますます多くの人々が家畜を失い、不平等が拡大すれば、SDGs目標1「貧困の撲滅」の実現へ向けた私たちの努力に、どのような影響が及ぶかを考えてみてください。あるいは、目標2「飢餓の撲滅」へ向けた取り組みの一方で、干ばつによる影響で作物の生産が減少し、何百万人もの人々が適切な栄養を摂ることができません。また、災害の度に水の供給源やインフラが流されてしまう地域で暮らす人々のために、水を確保しようとする私たちの努力に対し、気候変動が及ぼす影響を考えてみてください。
事実、開発目標の達成には、気候変動が関連しています。なぜなら、最も望みのある推測をもってすら、気候変動は今後何十年にわたり発展を妨げるであろうと予測されているからです。
COP21は、世界の平均気温の上昇を産業革命以前から2度未満に抑えるという目標に世界が合意した、重要な節目となりました。そしてほぼすべての国が、温室効果ガスの排出削減と低炭素技術の開発への促進を、各国の約束草案(INDC)に組み込むと約束しました。
しかしながら、この大切な節目を祝うだけではなく、私たちは明敏である必要があります。すべての国の約束草案が達成されたとしても、結果的に気温は3度上昇すると考えられています。パリで合意に至った目標よりも1度、現時点よりも2度、高くなります。
昨年、世界の平均気温が近代史上初めて、産業革命以前よりも1度以上の上昇を記録しました。このたった1度ですら、洪水や干ばつ、熱波、山火事を悪化させ、氷冠や氷河を溶かし、現在私たちが直面している過去最大規模のエルニーニョ現象の一因となっています。
気候変動に関連するリスクは劇的に増加しており、近年のこの傾向は、否定ができないものです。20年前には200件であった自然災害の年平均発生件数は、この10年ほどは年間400件と、倍増しています。その400件の4分の3に、気候変動が関係していると推定されています。
これらの厳しい現実を考えると、約束草案の順守に留まらず、それを越える努力を各国に求めなくてはなりません。地球のために、私たちはさらなる努力をしなくてはならないのです。
© UNICEF South Sudan |
もちろん、私たちユニセフも努力しなければなりません。残念ながら、この問題に対するユニセフの取り組みは遅く、十分な努力をしてこなかったと言わざるをえません。
だからこそ、その対応に一層力を入れるため、ユニセフは優先的に取り組む4つの分野を決めました。アドボカシーと説明責任、レジリエントな開発を通した気候変動への「適応」、気候変動の「緩和」、そして、ユニセフ自体を環境に配慮した組織にすることです。
1つ目の優先事項は、アドボカシーと説明責任です。世界中で活動しているユニセフの存在(プレゼンス)とデータ収集力を生かして、各国政府がその役割を果たす取り組みをサポートするため国やコミュニティレベルの活動に参加すること、そうすることで政府に責任を持たせること、気候変動の影響から子どもたちを守る、より意欲的なプログラムを提唱すること、を示します。
2つ目は、レジリエントな(しなやかで回復力のある)開発を通じた気候変動への「適応」*です。ユニセフの人道支援は、迅速な緊急支援と長期的な開発支援の双方を支えるものでなくてはなりません。それと同様に、コミュニティが受ける損害を減らすため、気候変動に関連する災害発生時にその被害を軽減するのはもちろん、災害予測が可能なシステムによって、緊急支援と開発支援の双方がより強化されなければならないのです。
その実現には、より多くの投資が必要とされます。人道支援活動資金のためのハイレベル・パネルによると、開発プロジェクトに投資される100米ドル中、減災や防災にはたった40セントの資金しか使用されていないことが明らかになっています。たった40セントです。つまり、1ドルにつき0.04セントの資金しか当てられていないのです。
来たる世界人道サミット(※2016年5月23・24日にトルコ・イスタンブールで開催予定)は、迅速な人道支援と長期的な開発の双方のニーズのために、気候変動に関連する災害を含めた特定の危機への支援要請方法の向上と統合に関するアイデアや、支援への意欲を高めるアイデアについて話し合う良い機会です。柔軟な資金調達、早期警戒システム、最も必要な場所で直接的な開発支援を行うための能力強化などに関しても考える場となることでしょう。
© UNICEF Pacific/2015 |
世界各国で実施されているユニセフの支援プログラムは、私たちに何ができるのかを示しています。ユニセフの水と衛生プログラムなどは、その良い一例です。
このようなプログラムをより多く支援できるよう、ユニセフが活動する国々において気候変動に関するリスク調査を実施し、現地で活動するパートナーに情報を提供する予定です。
© 日本ユニセフ協会 |
より長期的な視点で見れば、レジリエントな開発の中心は、気候変動の課題についてより理解し、私たちの努力を未来に引き継いでいく、子どもたちや若者であるべきです。
インドネシアのバンダアチェで出会った子どもたちのことが思い出されます。子どもたちは、再建された耐震性のある学校で、将来起こりうる緊急事態に備え、定期的な避難訓練に熱心に取り組んでいました。
ブラジルのリオデジャネイロで出会った若者たちは、凧に取り付けたカメラで、災害リスクの高い地域の分布図を作成していました。
そして、2011年に東日本で津波を経験した女川町の生徒たちは、津波が到達した地点を示す石碑を見せてくれました。この石碑は、もし再び津波に見舞われるようなことがあったとき、未来の人々に安全な行動を伝えるため、子どもたちが設置したものです。
仙台で出会った子どもたちは、「まち」の模型づくりを通じて本当に多くの事を学んでいました。模型でつくられた「まち」が、そのまま実際につくられることはないかも知れません。でも、この取り組みに参加した子どもたちは、私たちが実現を目指しているものを将来推し進める大きな力になってくれるのです。
気候変動への適応は、私たちの世代の責任に留まりません。残念ながら、どのような予測においても、未来の世代にも課されるものなのです。
© UNICEF Video |
アドボカシーや気候変動への適応の先にある、3つ目の優先事項は、気候変動の悪影響をできるだけ小さく抑えるための「緩和」*に関して、ユニセフの取り組みをさらに強化することです。新しい技術や再生可能エネルギーを用い、より適切で賢明なマネジメントのもと、温室効果ガス排出の削減または防止に向けて取り組みます。
温室効果ガスの排出量を削減するための努力を促進するには、低炭素開発への移行に取り組むコミュニティへの支援も必要です。ユニセフは、世界各地でさまざまな活動を行っています。ブルンジでは、より安全な照明器具が使用できるよう、農村部の家庭を支援しています。バングラデシュでは、低燃費のコンロが4万世帯の家庭を支えています。モンゴルでは、政府と協力して空気汚染の削減とクリーンエネルギーへの移行を進めています。
これらすべての優先事項への取り組みを強化するために、ユニセフの戦略計画の中期レビューにもこれらを反映する予定です。さらには、2020年までに、気候変動に関する要項をすべての国の支援プログラムに取り入れることを目指しています。
© UNICEF/NEPA2015-00028/Karki |
そして4つ目の優先事項は、ユニセフ自体を環境に配慮した組織にすることです。私たちユニセフは、支援プログラムに限らず、あらゆる事業においてこれを目指すことを約束します。
ユニセフは気候変動枠組条約(UNFCCC)を通じて炭素クレジットを購入しています。少なくとも2014年には、正式に“climate neutral(気候ニュートラル)”となっていました。
いくつかのユニセフ事務所では、太陽光パネルや、ネパールのカトマンズで私も見たような燃料効率のよい電気の導入など、実際に温室効果ガス排出量の削減に向けて投資を始めているところもあります。これらの投資は環境によいというだけでなく、燃料や電気代の削減にもつながり、費用面でもよい効果をもたらすものです。
また、ユニセフの事業を環境にやさしいものにする取り組みや、障がいのある人たちもユニセフの事務所で働いたり訪問したりできるようにする取り組みもしています。
ユニセフがこれらの対応を実施する理由は、私たち皆が気候変動との闘いに貢献しなくてはならないと、強く信じているからです。市民やコミュニティ、政府、非政府組織の間で広がっている、本当の変化を求め達成しようとする活動に、私たち全員も声を添え、支えていかなくてはならないのです。
そしてこの闘いを続けていくためには、次世代、つまり、今日の子どもたちのために、私たち皆が力を合わせなくてはいけないのです。なぜなら、子どもたちはこの地球を受け継ぐ存在であるだけでなく、私たちの大志がもたらす結果も受け継がなくてはならないからです。
子ども世代の未来は、私たちの世代の今日の行動に大きくかかっています。世界各国がどれだけ迅速に力強く団結できるか、自分たちがした約束を果たせるか、さらには、約束を超えた努力をするかにかかっているのです。そして、私たち皆がどれほど決意を高めていくことができるかにも。
昨年は、より持続的な未来を築き上げるための約束に世界が合意を示した、極めて重要な年でした。私たちは声を揃え、愛するこの地球を守るためにできる限りのことをするよう、強く訴えなくてはいけません。
私たちの大切な、子どもたちのためにも。
* * *
*注: 気候変動の悪影響をできるだけ小さく抑えるための対策は、気候変動やそれに伴う気温・海水面の上昇などに対して、感染病の予防や防波堤建築、防災意識の向上など、人や社会のシステムを調整することで影響をより小さくしようと努める「適応」と、地球温暖化防止に向けた温室効果ガスの排出削減と吸収を目指す「緩和」とに分類できるとされる。
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