【2015年10月7日 ニューヨーク発】
かつて私は、乳幼児期の子どもの発達(ECD)は、教育の問題だと考えていました。子どもに色や形、文字や数字を教えれば、子どもの脳は刺激され、健康的な脳の成長を促進するものだと。そして、その考えは正しいのです。
しかし、今では、私たちは、子どもの脳が発達するためには、教育以外にもたくさんの事が必要だということを知っています。そして、私達が学んでいることは、乳幼児期の子どもの発達の考え方や行動に革命を起こすものなのです。私達は、子どもの脳の健康な発達にとって最初の数年がいかに大切かを、すでに知っています。最初の数年間、子どもの脳の中では、毎秒1,000近くの脳の神経細胞の接続がおこなわれます。この早いペースでの発達は、この時期特有のものです。
© UNICEF/HTIA2011-00370/Dormino |
この脳の神経細胞の結合は子どもの人生の基礎となるものです。この発達によって子どもの認知、感情および社会的な発達が左右されるのです。そして、子どもの学習能力、将来の成功や幸福に導く能力まで決定します。しかし、私達は、このような脳の神経細胞の結合が遺伝的なものだけでなく、子どもが乳幼児期に置かれた環境に大きく左右されることを知っています。この2つは、密接にからみ合っています。
したがって、私達が子どもと遊んだり、話したり、本を読んで聞かせることで、子どもの脳に刺激を与え、これが脳の発達を促すのです。子どもが養育する家族から十分な注意が払われなければ、子どもは幸せが薄くなるだけではないのです。生きるためや学習するための将来の能力が影響を受けるのです。子どもの体に十分な栄養を与える時、子どもの脳にも栄養を与え、神経細胞の結合を促します。そして、私達が子どもをケアし、暴力や虐待から守ることは、子どもの脳の神経細胞の結合を絶ち、健康な脳の発達を阻害しうる有害なストレスから脳を守ることにもなります。
これは、人生を変えうることなのです。そして、私たちは行動を改めなければなりません。
© UNICEF/NYHQ2015-1505/Sokol |
最も弱い立場にある子どもたちにとって、脳に栄養を与えるという意味について、私達はどれだけの知識があるか考えてみましょう。今日、世界には、約1億6,000万人の子どもが発育阻害(スタンティング)の状態にあり、身体と認知の発達が阻害されています。そんな子どもたちはどうやって生まれ持つ潜在能力を十分に発揮することができるでしょうか?また、人口の半分が発育阻害である国の社会は、どれほどの生産性や繁栄を見込めるでしょうか?
また、大きな紛争の真っただ中で育つ5,000万人以上の子どもたちにとって、有害なストレスが脳の発達に与える影響について私達は何を知っているか考えてみましょう。イエメンやシリア、中央アフリカの子どもたち。彼らの脳はどのように影響を受けているのでしょうか?思考し判断を下す将来の能力は?他者を信頼し友達を作る能力は?
あるいは、世界各国にいる暴力や虐待の被害にあっている数えきれない子どもたちのことを考えてみましょう。両親が子どもたちに体罰を与えたり虐待するとき、彼らは子どもたちの感情を傷つけるだけでなく、子どもたちの未来も傷つけているのです。
では、どのように人生を左右する乳幼児期の子どもの脳の発達と機能の恩恵を引き出すことができるでしょうか?私達は、すべての子どもたちが人生の始まりから、公平な機会が与えられるよう初期に投資します。私たちが公平に投資するのは、恵まれない子どもほど得るものが大きいからです。
私達は賢く投資します。教育だけではなく、保健や栄養、保護にも投資します。それらすべてが連動して健康な脳の発達を助けるからです。そのため、私達の投資とプログラムも統合されなければなりません。
私達は、今それを行動に移します。
© UNICEF/NYHQ2013-1495/Pirozzi |
世界の指導者たちは、持続可能な開発目標(SDGs)を採択しました。そこでは、ECDが世界的な開発目標として初めて明確に認識されました。これから一緒に取り組んでいきましょう。政府や開発の専門家だけではなく、私達全員です。
メディアは、これを機会に、ECDがなぜすべての子どもとすべての社会にとって重要なのかについて、人々の理解を深める助けとなることが出来ます。
慈善事業団体は、最も資源が集まりにくいものの一つである、ECDのプログラムに対する支援を増やすことが出来ます。民間企業も、これらのプログラムを支援し、働きながら子育てをしている両親が幼い子どもたちのケアをしやすいような規則を定めることが出来ます。このように、今日の職場に投資することで、未来の労働力を育てることになるのです。
市民社会は、すでにECDの啓蒙活動に甚大な役割を果たしていますが、ECDのサービスや質の高い乳幼児期プログラムが世界中のすべての子どもたちに届けられるように、努力を強めかつ調整することが出来ます。
この重要な問題に関して、私達がお互いの力、専門性、ネットワークを高めるために出来ることはまだまだあります。今は、私達全員に恩恵をもたらしてくれる幼い子どもたちのために新しい風を起こす時なのです。科学者たちが言う、私達がしなければならないことを実践しようではありませんか。科学の提示する事実に反論の余地はありません。その道徳的な論拠は有力です。投資の事例には説得力があります。SDGsの機運を高めるのは私達です。そして、私達には行動に移す力があります。
2015年10月7日
ユニセフ事務局長 アンソニー・レーク
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