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日本ユニセフ協会
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世界の子どもたち

カンボジア
予防接種をすべての子どもに
幼い命を守る保健員たちの活動

【2018年4月24日  クラティエ(カンボジア)発】

毎年4月の最終週は、世界予防接種週間です。予防接種の大切さとその恩恵を正しく伝え、予防接種によって防げる病気からすべての人が守られるように、世界中で啓発活動が行われます。保健員のヴォン・バナックさんの後について、カンボジア北東部の子どもたちに予防接種が届けられる様子を追ってみましょう。

予防接種を届ける船路

遠く離れたコミュニティにワクチンを届けるため、メコン川をボートに乗って進むバナックさんと保健チーム。

© UNICEF Cambodia/2018/Antoine Raab

遠く離れたコミュニティにワクチンを届けるため、メコン川をボートに乗って進むバナックさんと保健チーム。

平日の朝、ヴォン・バナックさんの姿は、カンボジア北東部のサンボ村の保健センターで見かけることができます。バナックさんはここで、子どもたちに予防接種をおこなっているのです。けれども今朝はいつもとは少し違います。バナックさんの姿は、8キロ離れたコーサム村に向かって、メコン川を下るボートの上にありました。

ボートが岸に到着し、白い砂が波打つ光景が目に入りました。砂の上を歩き、丘を登り、10分ほどでコーサム村に到着しました。この村の住人の多くは農業で生計を立てています。
バナックさんは同僚とともに、村のボランティア保健員の家に、簡易の診療所を設置しました。ここで、2歳未満の子どもたちを対象にした無料の予防接種(はしか、風疹、ポリオ、BCGなど)と、妊婦向け健康診断をおこないます。こうした機会がないと、村の妊婦たちは、定期健診や破傷風の予防接種を受けないままになってしまうからです。バナックさんは経験豊富な保健スタッフで、ウクさんとニェクさんという2人の助産師とともに働いています。

支援が届いていない地域に、支援を届ける

コーサム村で、診療記録を書くバナックさん。

© UNICEF Cambodia/2018/Antoine Raab

コーサム村で、診療記録を書くバナックさん。

バナックさんたちが到着してから15分程断つと、およそ20人の女性と子どもたちが、予防接種を受けにやってきました。妊婦を対象にした健康診断や、予防接種の大切さと保健の知識などを学ぶセッションも行われます。
およそ2時間ほどで、予防接種や妊婦健診、学習セッションが終わりました。けれども、バナックさんたちの仕事はこれで終わりではありません。予防接種が必要なのにもかかわらず、この簡易診療所に来られなかった子どもたちを追跡するのです。

コーサム村のボランティア保健員の女性は、予防接種の重要性や保健サービスについて住民たちに伝えるとともに、バナックさんたちの保健チームが村に来るときは、予防接種が必要な子どもを特定しています。

さらに、オートバイにのって両親や養育者のもとを訪れ、大切な学習セッションの開催についても伝えて周ります。

バナックさんたち保健チームは、予防接種が必要な子どもが遅れてやって来る可能性もあるため、午後までその場で待機します。バナックさんが自分のオートバイを持ってきて、予防接種が必要な子どもの家に直接出向き、その場で予防接種をおこなうこともよくあります。

この日は、コーサム村の24人の子どもたちと、3人の妊婦の女性に、予防接種をすることができました。

保健ケアへの厳しい道のり

予防接種をうける生後9カ月のテアちゃん

© UNICEF Cambodia/2018/Antoine Raab

予防接種をうける生後9カ月のテアちゃん

サンボ村の保健センターは、コーサム村から最も近い場所にある保健センターで、8km離れています。けれども、村民たちは歩いてそこへ行くことができません。メコン川は、生きるために欠かせない恵みをもたらしてくれるものの、基本的な保健サービスへのアクセスという面では大きな障壁となります。コーサム村と、保健センターがある対岸とを結ぶ道路もなく、橋もないのです。
多くの住人たちは、保健センターへ行くための手段がありません。船もなく、乗船料を払うためのお金もないからです。そのため、保健チームがコーサム村を訪れることが、子どもたちが予防接種を受けられる唯一の機会になっているのです。

ホム・ブンナさんは、生後5カ月の娘ディちゃんに必要な定期予防接種を受けさせられていませんでした。本来だとすでに4回の予防接種を受けていなければならないのに、実際受けていたのはわずか1回です。保健センターに通うことができなかったのです。

「対岸に渡って帰ってくるのに、4000リエル(約1米ドル)かかります。行ったり来たりすることはできません。オートバイも持っていませんし、とても難しいのです」(ホムさん)

ディちゃんは今日、ポリオや結核などの病気から守られるための、2回目の予防接種をうけることができました。こうした出張での保健サービスや予防接種キャンペーンは、ディちゃんのような子どもたちにとって、非常に重要なのです。

「当然のことですが、村の住民たちにとって最も重要なのは、お腹を満たすことです。農業によって生計を立て、家族全員を養わなくてはなりません。だから、予防接種を受けるためだけに、お金を払ってボートに乗ることは、望まないのです」とバナックさんは語ります。「だからこそ、私たちが月に1度、この村に保健サービスを届けることで、より多くの子どもたちが健やかに育つために必要な予防接種を受けることができるのです」

継続すること

予防接種を受けた生後5カ月のディちゃんを抱くホムさん(26歳)。

© UNICEF Cambodia/2018/Antoine Raab

予防接種を受けた生後5カ月のディちゃんを抱くホムさん(26歳)。

こうした努力にもかかわらず、クラティエ州の完全予防接種率(2017年)はわずか65%です。都市から離れた農村部で暮らすすべての子どもたちに予防接種を届けることは、多くの困難が伴います。家族の多くは、仕事を求めて、子どもをつれて移住をします。このことが予防接種にも影響を与えます。村の住民たちは保健ケアや予防接種の重要性に関する知識が乏しいうえ、都市から距離的にはあまり離れていなくても、道路やアクセス状況が悪ければ、支援が最も届き難い地域になってしまいます。村民たちが保健ケアを求めることも、保健スタッフが保健サービスを届けることも困難になってしまうのです。

「特に雨季には、道路が滑りやすく泥状になり、運転するのも危険です。オートバイを使ったとしても、辺地へ支援を届けることは非常に難しいのです」(バナックさん)

しかし、バナックさんは希望をもっています。

「困難であることは確かですが、村民の間で知識が広まっているのもまた事実です。以前は、私たちが訪れて、子どもたちの姿を目にしても、ワクチンを打てば子どもが病気になると恐れられ、子どもたちに予防接種をおこなうことができませんでした。でも今は、私たちが村を訪れて子どもたちに予防接種をすることを、みなさんとても歓迎してくれます」

ユニセフは、カンボジアの子どもたちが予防接種を受けられるよう、保健省とサンボ保健センターのような地域の保健施設に、資金面と技術面でサポートをおこなっています。完全予防接種率が低いコミュニティは特に優先的に支援をおこなっています。

「村民たちの間での認識がますます高まり、より多くの村民たちが今後のセッションに参加してくれればいいなと思います。私たちは、あらゆる場所で暮らすすべての子どもたちに、質の高い保健ケアを提供したいのです。ワクチンは大切ですし、予防接種をきちんと受けることができれば、病気にかかっても重症化せず、家族の負担も減るのですから」(バナックさん)

コーサム村での予防接種や妊婦健診、学習セッションを終え、サンボ保健センターに戻るニェクさん、バナックさん、ウクさん。

© UNICEF Cambodia/2018/Antoine Raab

コーサム村での予防接種や妊婦健診、学習セッションを終え、サンボ保健センターに戻るニェクさん、バナックさん、ウクさん。

 

 

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