【2020年7月30日 ニューヨーク発】
ユニセフ(国連児童基金)と環境NGO「ピュアアース」が本日発表した新しい報告書によると、鉛中毒は、これまで知られていなかった大きな規模で子どもたちに影響を及ぼしています。
この分野で初めてとなる本報告書では、約3人に1人の子ども、世界全体で最大8億人の子どもたちが、対策が必要な水準である血液1デシリットルあたり5マイクログラム以上の血中鉛濃度(注)を示したとしています。これらの子どもたちの半数近くは南アジアに暮らしています。
「鉛は、初期症状がほとんどないまま、子どもたちの健康と成長に静かな大惨事をもたらし、致命的な結果をもたらす恐れがあります」とユニセフ事務局長のヘンリエッタ・フォアは述べました。「鉛による汚染がいかに広範囲に及んでいるかを知り、それが人々の生活や地域社会にもたらす破壊を理解することで、子どもたちを守るための緊急の行動を推進しなければなりません」
報告書『有毒な真実:子どもたちが鉛汚染にさらされることで将来世代が弱体化する』(原題:The Toxic Truth: Children's exposure to lead pollution undermines a generation of potential)は、米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)によって実施された子どもの鉛曝露に関する分析で、科学誌「Environmental Health Perspectives」への掲載が承認された研究として検証も行われています。
報告書は、鉛が子どもの脳に回復不可能な害を引き起こす強力な神経毒であることを指摘しています。子どもの脳が完全に発達する前に脳に損傷を与えるため、特に5歳未満の赤ちゃんや子どもに破壊的な影響を及ぼし、その後の生涯における神経学的、認知的、身体的な障がいを引き起こします。
子どもの鉛曝露はまた、精神衛生や行動の問題、犯罪や暴力の増加にもつながっています。報告書によると、年齢が上の子どもは、腎臓への障害や心血管疾患のリスクの高まりを含む深刻な影響に苦しむといいます。
子どもの鉛曝露によって、生涯にわたり子どもたちの経済的可能性が失われ、低・中所得国では約1兆米ドルの損失となると推定されています。
© Larry C. Price |
報告書はまた、鉛蓄電池の非公式で基準を満たさない再利用が、2000年以降、自動車の保有台数が3倍に増加した低・中所得国に暮らす子どもたちの鉛中毒の主な原因であると指摘しています。自動車所有者の増加は、自動車用バッテリーのリサイクル規制やインフラの欠如と相まって、鉛蓄電池の最大50パーセントが非公式経済において安全でない方法で再利用されるという結果をもたらしています。
危険でしばしば違法なリサイクル作業では、作業者がバッテリーケースを壊し、酸と鉛の粉塵を土壌にこぼし、回収された鉛を露天の焼却炉で溶かし、有毒ガスを発生させて周囲のコミュニティを汚染しています。多くの場合、労働者や被曝した地域社会は、鉛が強力な神経毒であることを認識していません。
子どもの鉛曝露の他の原因としては、鉛パイプの使用によって水に含まれる鉛、鉱業やバッテリーリサイクルなどの産業由来の鉛、鉛をベースにした塗料や顔料、ここ数十年で大幅に減少したものの歴史的に主要な供給源であった有鉛ガソリン、食品缶に含まれる鉛ハンダ、香辛料、化粧品、アーユルヴェーダ薬、玩具、その他の製品に含まれる鉛などが挙げられます。鉛を扱う職業に従事する保護者は、服、髪、手や靴についた汚染された粉塵を家に持ち帰ることが多いため、気づかずに子どもたちを有毒な成分にさらしてしまいます。
そして、ほとんどの高所得国では、有鉛ガソリンと大部分の鉛系塗料が全廃されて以来、血中鉛濃度は劇的に低下しているものの、低・中所得国の子どもたちの血中鉛濃度は依然として高く、多くの場合、有鉛ガソリンが世界的に廃止されてから10年が経過した今でも、濃度が危険なほど高い状態です。
報告書では、鉛汚染やその他の有害重金属廃棄物が子どもたちに影響を与えた次の5つの国の事例を紹介しています:バングラデシュのカトゴラ、ジョージアのトビリシ、ガーナのアグボグブロシー、インドネシアのペサレアン、メキシコのモレロス州
© UNICEF/UN037170/Bindra |
報告書は、影響を受ける国々の政府は、以下の分野にわたる協調的なアプローチを用いて子どもの鉛汚染と曝露に対処できると指摘しています:
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注:
血液1デシリットルあたり5マイクログラム(μg/dL)以上の血中鉛濃度は、米国疾病予防管理センター(CDC)が介入を必要としている基準値で、世界保健機関(WHO)が子どもの知能低下、行動問題、学習障がいに関連している可能性があるとしている水準です。
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