【2021年4月16日 マリ発】
©UNICEF/UN0293636/Keïta |
真昼の暑い日差しの下、ロバの引く荷台に揺られて、何時間もかけて移動しているのは、保健員のママドゥさん(29歳)。膝の上に抱えているのは、ワクチンの保冷箱です。
カンケレナという小さな村にいる幼い子どもたちのもとに命を守るワクチンを届けるため、砂ぼこりが舞う道を進みます。生後3カ月のマリアムちゃんの母親アイサタさんも、ママドゥさんの到着を待つ家族の一人です。
治安が悪化しているマリ中央部のモプティでは、アイサタさんのような母親が子どもを連れて、最寄りの保健所まで歩いて行くのは多くの危険を伴います。最寄りの保健所と言ってもとても遠いうえに、費用の面から、交通機関を使うことは多くの住民にとって難しいのです。
「保健所に行くのはとても大変です」とアイサタさんは言います。「距離が遠い上に、道が荒れていて、不安があります。子どもが健康に育つように、保健所に連れて行って診てもらいたいのですが、治安が悪いのでとても怖いのです」。
さらに、移動するための交通手段の選択肢も以前に比べて減っています。隣町へ向かう道は、治安対策の一環としてオートバイの通行が禁止されています。なぜなら、武装グループはオートバイを使って移動していることが知れわたっているからです。
こうした状況の中、ママドゥさんのような保健員は、命を守るワクチンを届けるために、バイクからロバに乗り換えました。その他の保健員も、馬に乗ったり、木製の船で河川を渡ったりと、移動手段を変えて、必死に、子どもたちのもとへワクチンを届けようとしています。
アイサタさんは、最初の子どもを亡くしました。理由は分かりません。残念なことに、そうした経験をしているのは、彼女だけではありません。アイサタさんの村には、同じような悲劇を経験した親がたくさんいます。しかし、それ以上に悲劇的なのは、はしかのようにワクチンで予防可能な病気で子どもを亡くした親がいることです。
ママドゥさんは「私たちが担当する地区でちょうど1カ月前、はしかが流行しました」と話します。
アイサタさんの3番目の子どももはしかに罹ってしまいました。「体中、顔中に吹き出物ができて、熱が出て、とても具合が悪そうで、命を落としかけました」とアイサタさんはその時を振り返ります。「とても怖かったです。それ以来私は、子どもたち全員に予防接種を受けさせるようにしています」。
©UNICEF/UN0293634/Keïta |
ここモプティは、マリ国内で最も子どもの予防接種率が低い地域のひとつで、必要な予防接種をすべて受けている子どもはわずか37%です。さらに悪いことに、地域の治安が悪化して以来、ワクチンを接種していない子どもの数は4倍に増え、7万人を超えています。
保健・医療へのアクセスの悪さが最大の課題です。そのため、子どもたちが暮らす家々に保健ケア支援を届けることが、現実的な解決策なのです。
保健員のママドゥさんが直接家に来てくれることが、アイサタさんたち母親にとって大きな変化をもたらしました。
「家々を訪問する「Door To Door(ドア・トゥ・ドア)」の予防接種は、とても良い取り組みです。子どもや母親の命を危険にさらすことがなくなるからです」(アイサタさん)
マリアムちゃんを含む、村の幼い子どもたちがはしかの予防接種を受けると、ママドゥさんはワクチンの箱をまとめて、急いで帰路につきます。「安全のため、日が沈む前に、家につかなければならないのです」カンケレナ村のお母さんたちに、ママドゥさんははこう言って別れを告げました。そしてまた来月、ワクチンを持ってこの村を訪れる予定です。
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4月24日~30日は世界予防接種週間。ユニセフは、すべての子どもが予防接種を受け、予防可能な病気から守られるよう、「誰も取り残さない」支援を目指して活動を続けています。
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