2022年3月28日発
5回に渡り、自治体のご担当者へインタビュー形式でユニセフ「日本型CFCI実践自治体」をご紹介しています。
第4回目は奈良市です。奈良市でCFCIを担当されている、子ども未来部子ども政策課の保田優香さん、利川茂宏さん、木田朱音さんにお話をうかがいました。
奈良市にとっての「子どもにやさしいまちづくり事業(CFCI)」とは
Q. なぜ奈良市ではCFCIに取り組もうとされたのですか?
利川さん:本市では平成27年に「奈良市子どもにやさしいまちづくり条例」を制定し、「奈良市子ども会議」など子どもの参画の活動にも継続的に取り組んできました。それらの活動を評価いただきCFCIの検証作業にお声がけいただいたことがきっかけとなっています。
この事業は、世界的な枠組み、基準の中で子どもにやさしいまちづくりを実現してこうという取り組みであり、今後こう言った活動を日本で広めていくためにも、子どもにやさしいまちづくりを自然体で推進している本市としては、是非とも取り組むべきものだと判断し検証作業に参加しました。
Q. 「子どもにやさしいまちづくり条例」というのはユニークな名前の条例ですね。なぜこういう名前になったのでしょうか?
利川さん:記録からのお話しになりますが、条例策定に際しては、有識者をはじめ多くの方にサポートいただきました。また、ワークショップをやったり、さまざまなご意見を聞いたりする中で、ユニセフで提唱している「子どもにやさしいまち」の考え方が、奈良市が考えていた「すべての子どもが今を幸せに生き、夢と希望をもって成長することができるまちになりたい。」という理念ととても近いことに気が付いたのです。そのことから、「子どもにやさしいまち」というキーワードをそのまま条例の名前に使うということになりました。
奈良市子どもにやさしいまちづくり条例(概要版PDF.) 提供:奈良市
Q. CFCIに取り組む前から子ども向けの施策はあったと思いますが、どのように調整されたのですか?
利川さん:本市は、平成27年に子ども・子育て支援法第61条に基づく「奈良市子ども・子育て支援事業計画」を策定し、現在116の子ども・子育てに関する事業の進捗管理を行っています。
事業計画は、個々の事業の取り組み状況を具体的なKPIにより進捗管理するためのものですが、CFCIは、行政活動の中の「手続き」や「視点」について、子どもにやさしいまちの構成要素として評価します。それにより、事業の「成果」だけでなく、組織運営全体の考え方とか仕組みづくりを継続的に評価することができます。また、担当者の感覚によらず、取り組みが十分でない領域を明確化できるツールであると思います。本市では、CFCIによって子どもや子どもの権利の視点からあらゆる行政活動の評価を行うことは、「子どもにやさしいまちづくり条例」が適切に運用されているかを確認することそのものであり、今後この取り組みが条例の適切な運用を補強し、推進してくれるものと考えています。
Q. 奈良市の持続可能性を図るのにCFCIの取り組みはありますか?
木田さん:SDGsの理念を踏まえ、行政、市民や事業者など様々な主体とともに経済、社会、環境の課題に取り組み、持続可能な社会づくりを行っていくことが重要であると考えており、本市の第5次総合計画(令和4年度~令和13年度)においても考慮していく予定です。CFCIというのは「子ども」や「子どもにやさしいまちづくり」という観点からまちづくりを行う際の指標になるという点で、SDGsと同様の取り組みと位置付けてよいと思います。
第5次総合計画の策定にあたっては、公募による市民ワークショップで、10年後の奈良市がどんなまちになってほしいかを考えていただきました。子育てに係るまちづくりについては『誰もが子育てに関わり多様な生き方を認めあうまち』を方向性として、それを実現するための施策が示されています。まちの未来を担う子どもの成長に地域全体で関わり、また人々の多様性を尊重しようという思いが込められています。
Q. CFCIの予算について教えてください。
利川さん:子ども会議、予防接種や保育園・幼稚園環境整備等も含む「児童福祉費」と、子どもの集まる中心となる学校教育現場に関する「教育費」の、大きく2つがCFCIの予算の対象になると思います。それ以外にも子どもの住環境整備になると都市整備に関連する費用や、公園の整備などもCFCIの関連予算になります。このように子どもに関連する全ての予算がその対象となりますが、子どもたちが理解しやすい予算書の作成・広報は今後の課題となっています。
Q. CFCIに取り組むのに緊急時と平時では違いがありますか?
保田さん:現在、新型コロナウイルス感染症対策支援のため、本市としても奈良市フードバンク事業を始めとする子どもや子育て世帯を支援する様々な施策を強化しています。取り組む内容・事業数・予算額も平常時とは異なるものが多くあります。これらは、コロナウイルス感染症拡大により喫緊に対応が必要となったものの、本来であれば平常時においても実施すべき取り組みもあったと感じています。CFCIがこのような事業も評価対象とするならば、緊急時と平常時の違いはないと考えます。
CFCIの難しさと成果
Q. CFCIは子どもの権利を地方自治体が訴求する取り組みです。この点に関し難しさはないですか?
木田さん:本市の「奈良市子どもにやさしいまちづくり条例」の基本理念には「日本国憲法及び児童の権利に関する条約の理念に基づき、子どもが権利の主体として尊重されることを全ての取り組みの基礎とすること。」と明記しています。CFCIの取り組みの根拠を条例等により明確化することで、法的な裏付けができ、様々な活動に子どもの権利を訴求できると考えています。
保田さん:子どもの権利ということについて、難しさということではないですが、私自身の気づきについて少しお話しすると、私は去年の4月に異動してきて、初めて子どもに関わる部署で働くことになりました。正直なところ、これまで自分の子どもとその周りしか接してこなかったですし、子育てに精いっぱいで、子どもの権利などということは考えたことがありませんでした。異動してきたときも、「子どもの権利?」という状況でした。既に自分の子どもは成人しましたが、1年間この事業に関わる中で、時代と共に子どもを取り巻く状況が変わっていることを実感しています。例えば今までは、子どもの遊び場なんてすぐそこにあるというイメージでしたが、アンケートを読むと「子どもの遊び場がない」という声が聞かれます。調べてみると安全面の問題から校庭が解放されなくなっていることに気が付いたりしました。自分のこれまでの感覚によらずに、変化に対応するように発想を変えないといけないんだなと感じています。
Q. CFCIに取り組むうえで、難しい点や苦労されたことはないですか?
利川さん:CFCIは理念的な話になるので庁内への説明が難しく、浸透させるのは簡単ではありません。通常の業務では、単年度で事業を回し、成果を出すということをやっているので、特に子どもという切り口で全庁横断的に中長期に仕組みをつくっていくというのはなかなか難しいことだと思います。そのため、CFCIの取り組みを実践していくには、相応の時間と作業工数が必要となりますので、その体制を確保する必要があると思います。
保田さん:CFCIのチェックリストをまとめる際には、複数の事業が該当するものが多数ありましたので、取りまとめるのはたいへんでした。ただ、もともと子ども子育てに関する取り組みは多くの事業や関係者が関係する取り組みだと思っていて、以前から分野横断的な取り組みをしてきています。CFCIの実施にあたって特別なことが必要だったとは思っていません。大変な部分もありますが、子どもに関する施策は、担当課だけで進められるものではないですから、進めていくのは当然のことだと理解しています。
Q. CFCIに関わる、奈良市ならではの取り組みや成果はありますか?
木田さん:「子どもにやさしいまちづくり条例」の中に「奈良市子ども会議」の設置を謳っており、柱となる取り組みです。「奈良市子ども会議」は、会議に参加する子どもたちが子どもにやさしいまちづくり等について話し合い、出された意見をまとめ、市長や教育長へ提出しますが、子どもたちが単に要望をあげるだけでなく、提案実現のために「自分たちは何ができるか」についても子どもたち自身で考え、提案の実施につなげています。子どもたちの提案を実現するための庁内体制を構築し、市役所全体で子どもの意見表明を支援しています。毎年対象年齢のお子さんにチラシとポスターは配布していますが、毎回会議後にアンケートを取り、それを参考に改良を加えていることもあり、リピーターの参加率も高く、毎年積極的に参加してくれる子どもが多いです。この取り組みは平成27年度から毎年開催していますが、コロナ禍にあっても中止にするのではなく、オンラインを活用して実施しています。
このような市行政への子どもたちの参画など、子どもにやさしいまちづくりは、今後も継続・発展させていく必要があると考えており、奈良市のCFCIの構成要素の10項目は「奈良市子どもにやさしいまちづくり条例の運用」として取り組んでいます。
利川さん:子どもたちが意見を市長や教育長へ提出する場に、関連する部署の幹部職員も参加します。子どもたちがいる場所で、市長からその意見を反映するための方向性が提示される、つまり市としてのコミットメントを子どもの前で明確にしていることが特徴的だと思います。それとは別に、ホームページへも報告書と子どもたちからの意見を取りまとめて公開しています。
今後の展望と取り組みを検討している自治体へのメッセージ
Q. CFCIの今後に取り組みたい計画について、短期的なものと長期的なものを教えてください。
利川さん:CFCIの事業には抽象的な表現もあるため、具体的な業務がCFCIのチェックリストのどれにあたるのかということを、それぞれの部署ですくいきれていないということがあります。「子どもにやさしいまちづくり条例」についても含めて、本市が行っている様々な事業を「子どもにやさしいまちづくり」の観点をもって推進していけるよう、本市職員に対するCFCIの研修を実施したいと考えています。職員がCFCIに対する理解を深めることは、本市の取り組みの基礎を固める大変重要な事だと思います。
長期的なことで言えば、本市では、中核市で4番目となる児童相談所を令和4年4月に開設する予定です。子どもの命を守るために必要な施設ですが、児童相談所に一時保護した子どもにとっては大きな衝撃であるとともに精神的にも不安を与えるものとなります。一時保護所が子どもにとって安心感をもたらすような環境としていくためには、一時保護所においても子どもの権利が守られ、子どもが気持ちを伝えたいと思ったときに伝えることのできる体制づくりが重要と考えており、それらの取り組みを推進していきたいと考えています。例えば、アドボケイトと言われる人を一時保護所にも配置して、子どもの権利が守られるような体制をつくりたいと考えていますし、最終的には一時保護された子どもだけではなく、すべての子どもたちの話を聴く制度へと展開していきたいと思います。
Q. CFCIは、50年後、100年後の奈良市にどのような影響を与えると考えますか?
利川さん:本市も例外ではなく、少子化の問題が危機的な状況となっており、今後一層子どもや子どもの権利を大切にしようとする機運が強まると思います。子どもにやさしいまちづくりは子どもだけでなくすべての人にやさしいまちをつくることですから、CFCIを推進することで例えば女性や高齢者、LGBTQの方々等にもやさしいまちになると考えています。そういう意味でも50年、100年というスパンで見た時に、社会全体にとって必要な取り組みだと思います。本市はこれまでも子どもにやさしいまちづくりを実践してきましたが、今後は全国の自治体のベンチマークとなるよう、この取り組みを継続していきたいと考えています。
Q. 最後に、CFCIを進めてきて、今お感じになっていることを教えてください。
木田さん:私自身初めて配属されたのが今の部署で、「子ども会議」の担当という具体的な事業の実施から関わり、CFCIの定義等は後から理解していったような感じです。CFCIを通じて事業を客観的に評価できたことで、課題だけではなく、逆に良いところにも気づくことができました。それが自治体のPRにも役立つことを実感しています。
利川さん:以前はシステム関連の部署におりました。今は子ども・子育て担当ということで、業務の内容はシステムの仕事とは違いますが、「子どもにやさしいしいまちづくり」を「仕組みづくり」という点で見ると、システムと似ている部分が多くあります。CFCIも一個一個の事業をどうするかというより、全体の行政の取り組みを、子ども主体としてみた時にどうかという風に少しずつ目線を変えて考えていく取り組みだと思うので、そういう視点に気づけたのは良かったです。子どもたちがこのまちで育っていく上では、この取り組みが直接影響を与えられるので、ありがたい仕事をやらせてもらっているなと感じています。
保田さん:先ほどお話しした通り、これまで自分の子育てを通してしか子どもに対する価値観をもっていなかったですし、今の子どもの状況を知ろうともしませんでしたが、仕事を通して、子どもの状況を知ろうという気持ちになってきていますし、子どもの目線で事業に取り組もうという考え方に変わってきています。
奈良市CFCI関連ページ>> 子どもにやさしいまちづくり(CFCI) - 奈良市
奈良市基本情報(令和4年2月現在)
人口:352,897 人(18歳未満 48,755人)
世帯:165,738世帯
面積:276.8k㎡
第5回目は宮城県富谷市です。