2023年6月8日ナンガルハール(アフガニスタン)発
6月12日は「児童労働反対世界デー」。児童労働に従事する5〜17歳の子どもは約1億6,000万人-世界の子どもの10人に1人近くに相当します。そのうち約半数にあたる約7,900万人の子どもたちは、心身の発達、あるいは社会性や教育面での発達を阻害するようなリスクを伴う「有害な児童労働」に従事しています。
国境を命がけで越える子どもたち
アフガニスタンとパキスタンとの国境にある小さな町、トールハムは、貿易や仕事、チャンスを求める人々であふれています。花柄や幾何学模様に彩られたカラフルな貨物トラックが国境に停車し、次の国へ向かってゆっくりと走っていきます。トラックは様々な商品を運びます。ときには、幼い子どもたちをも。
毎日、何十人もの子どもたち(中には8~9歳も)が、国境を警備する当局に捕まらないようトラックの下に隠れながら、商品の入った袋を手に持ち、命がけで国境を越えています。子どもたちは、タバコや手作りの商品、果物などを運びアフガニスタンで売ることで、家計を助けているのです。
子どもたちが運ぶ商品は、「ガンディー」と呼ばれる袋に入っています。ガンディーは、ビニールや防水シートの切れ端を用い、肩ひもとしてロープを結び付けてリュックに仕立てたものです。大きさは子どもたちの背と同じくらいあり、重くて運びにくいものがほとんどです。
児童労働で奪われた幼い命
サルマン(11歳)は、叔父の携帯電話の画面に写る弟の写真を見ながら、つらい過去を思い出します。
「これはハイダル」とサルマンが話し始めました。「ハイダルが9歳だったある日、トラックの下でガンディーを持ちながら、元気に“バイバイ”って手を振ったんだ」。その5分後、ハイダルはつかまっていたトラックから落ち、タイヤにひかれてしまいました。
「もう二度と国境を越えたくない。弟のようになりたくない」。
サルマンは、それ以上弟の話を続けることができず、テントに戻って泣き出しました。
ハイダルのような何千人もの子どもたちが、家計を助けるために命の危険を冒して働いています。国境を越えて商品を運ぶ仕事から得られる収入は、1袋あたり2ドルから4ドルです。
「2022年3月に行った調査によると、2,500人以上の子どもたちがトールハム国境において、このような危険な児童労働に従事しています」と、ユニセフの子どもの保護担当官 アジズ・ノールは話します。
国境に子どもにやさしい空間を設置
ユニセフはトールハム国境に、子どもたちが安全に学習し遊ぶことができる、子どもにやさしい空間を設置しました。ここではパシュトー語の授業を行ったり、歌を歌ったり、クリケットや縄跳びなどのスポーツをしたりして、子どもたちが危険な労働に従事することを防いでいます。ユニセフはまた、子どもたちを心理社会的支援などの必要のサポートにつなげるために、ソーシャルワーカーへの支援も行っています。
サルマンは、弟を亡くした苦しみを今も抱えながら、国境を越えて荷物を運ぶ危険な労働をやめ、子どもにやさしい空間でクリケットで遊ぶ毎日を送っています。
「クリケットが大好きなんだ」とバットを振りながら話すサルマン。「ここで友達と対戦するんだよ」。
危険を伴う労働をやめて、学校へ
「他に方法がなかったんです。食べるものがなかったから」と、以前は、国境を越えてガンディーを運ぶ仕事をしていたサディアがいいます。
けれども、父親がユニセフの子どもにやさしい空間の管理人として働くことになり、サディアも危険な労働をやめることができました。「この仕事を手に入れたとき、サディアを危険な旅に出すことをやめました」と父親は話します。
子どもに密輸をさせるという児童労働の危険性と、子どもにやさしい空間の役割を知った父親は、今では村で暮らす他の親たちに、サディアの成長や、自分の収入で食べ物や文房具を買えるようになったことを伝え、子どもたちを危険な労働に従事させないよう後押ししています。
ユニセフはトールハム国境に加え、アフガニスタン各地の国境地域に子どもにやさしい空間を設置し、その運営を支援しています。この場所で何千人もの子どもたちが、家族と再会し、カウンセラーやソーシャルワーカーの心理社会的サポートを受け、学校に再入学したり、職業訓練を受けることができています。