2023年7月21日ワドメダニ(スーダン)発
“No bullets. One rose for each child.” -「すべての子どもに、銃ではなく、バラの花を」。
これは、ユニセフがパートナーとともに提供している、スーダンの子どもたちへの心のケア支援の中で、マジュド(10歳)が発した力強い言葉です。
スーダンで紛争が激化してから100日が経ちました。マジュドも、家を追われた多くの子どもたちのひとりです。
子どもたちは恐ろしい体験で負った心の傷を抱えながら、新しい家や友達、生活に慣れようと懸命な努力を続けています。すぐに専門的な支援を受けなければ、子どもたちが受けた傷は、生涯にわたって暗い影を落とすことになるでしょう。子どもたちへの心のケア支援は、スーダンにおけるユニセフの緊急人道支援の中でも重要な支援のひとつです。トラウマやストレスからの回復を後押しするだけでなく、今後子どもたちが生き、成長していくための手助けとなるのが心のケアなのです。
絵を描いて自分の気持ちを表現する子どもたち
3,000人以上の国内避難民(その大多数は女性と子ども)が暮らすワドメダニの避難場所で、ユニセフなどの支援で提供されている朝のアクティビティに、子どもたちが楽しそうに参加しています。子どもたち一人ひとりが、紛争のことや、紛争が日常生活に及ぼしている影響について、感じている気持ちを解放するように、絵で表現しています。さまざまな年齢の子どもたちが集まり、自分の想いを伝えるために、カラーペンを使って一生懸命描いています。
子どもたちが自分の気持ちを声に出し、他の人と分かち合う姿を、母親たちは遠くから見守っています。その過程が、心を癒すために必要なことだと知っているからです。
「娘は絵がとても上手です。心を閉ざし、あまり話さなくなってしまったので、人と触れ合うことが必要なのです。彼女は故郷で経験した銃撃のトラウマに苦しんでいます」と、ある母親は話します。
この活動を通して、子どもたちが描いた絵とその声を紹介します。
親友を亡くした記憶に苦しむマジュド
マジュドは多くを語りません。親友のサラとアスラールを亡くし、その記憶に苦しみ続けています。
「門のそばでハルツームから脱出するために乗る車を待っていたとき、近くに砲弾が落ちてきて、その破片が2人に当たりました。受け入れてくれる病院が見つからず、2人とも搬送中に亡くなりました」と振り返ります。
悲しそうな顔をしていたマジュドは、紙とペンを見て少しだけ笑顔になり、すぐにペンを手に取って絵を描き始めました。彼女が描いたのは、バラの花で銃口がふさがれた銃を持つ兵士です。マジュドは絵に込めた想いをこう語ります。“No bullets. One rose for each child”-「すべての子どもに、銃ではなく、バラの花を」。
「飼っていた猫と本が恋しいです」。マジュドは紛争が終わり平和になった故郷に戻ること、家族と再会することを願っています。
「この戦争の影響を受けたすべての子どもが、より強くなって戻って来ることを願っています」。
2度の避難を経験したファティマ
ファティマは戦車を描きました。「別の町に逃げているとき、戦車や兵士を見ました。戦いがあったんです。家にいても、銃声や爆弾の音が聞こえました」と話します。
ファティマの家族は、2度の避難を経験しました。1度目は出身地のハルツームから、2度目はコスティから、すべてを置いて逃げてきました。現在住んでいるワドメダニは、ハルツームより戦況がずっと落ち着いていると話します。
「友達のオムニアとファリダとファティマ、人形やおもちゃが懐かしいです。戦争が終わればいいのに……。家に帰りたいです」。
遺体を目にしたアフメド
ある夜、ぐっすり眠っていたアフメドは銃声で目が覚めました。今も続く故郷での紛争の始まりでした。「銃声に飛び起きて、ニュースで戦争が始まったことを知りました」。
状況はさらに悪化し、アフメドの家族は故郷を離れるしかありませんでした。「僕たちは荷物をまとめて、町を出るためのバスを探しました」。
「避難しているとき、遺体を見ました。強烈な臭いがして、その臭いはバスの中からなかなか消えませんでした」とアフメドは話します。
恐ろしい体験で心に傷を負った子どもたち。しかし、彼らの描く絵には力強い声が込められています。絵を描いて色を塗ったり、簡単な会話をしたり、自分の体験を他の人と分かち合ったりすることで、子どもたちの心はゆっくりと癒されていくのです。
ユニセフとパートナーは日々変わる現地の状況に対応しながら、紛争の影響を受ける子どもたちとその家族に、心理社会的支援を届けています。
「この絵は、戦争の影響を受けるすべての子どもたちのために描きました」。最後に、マジュドはそう話してくれました。