2023年12月6日フィレンツェ/ニューヨーク/東京発
本日、ユニセフ(国連児童基金)が発表した報告書「レポートカード18」によると、世界で最も豊かな国の一部では、2014年から2021年にかけて子どもの貧困が大きく増加したことが明らかになりました。
ユニセフ・イノチェンティ研究所の「レポートカード18:豊かさの中の子どもの貧困(原題:Child Poverty in the Midst of Wealth)」は、OECDおよびEU加盟国の子どものウェルビーイングを調査する報告書シリーズの最新刊です。これらの国々の子どもの貧困について最新の状況を比較し、各国政府の子どものいる家庭に対する所得支援政策等について分析しています。それによると、2014年から2021年にかけて、貧困の中で暮らす子どもの数は40カ国全体で約8%減少したものの、2021年末時点で依然として6,900万人を超えています。この期間にフランス、アイスランド、ノルウェー、スイス、英国では子どもの貧困が大幅に増加した一方、ラトビア、リトアニア、ポーランド、スロベニアでは大きく低下。日本は、2019~21年の子どもの貧困率と、2012~14年からの貧困率の改善度に基づく総合順位で39カ国中8位でした。
日本39カ国中8位 結果についての分析
今回の報告書にも日本のデータの提供等でご協力いただいた、東京都立大学の阿部彩教授(子ども・若者貧困研究センター長)は、日本の結果について、独自のデータも交え、次のように分析しています。 ≫解説全文(日本語)はこちら
- 2012~14年は、2008年末から始まった不況によって日本の子どもの貧困率が過去30年で最も高かった時期。この時期からコロナ禍にかけて貧困率が大きく減少したため、総合8位という良い結果となった(現状の貧困率では39カ国中11位、改善率でも11位)。
- この間の子どもの貧困率の減少は、好景気による人手不足と、それに伴う賃金上昇や就労率の上昇が原因と考えられる。しかしこの間、ふたり親世帯とひとり親世帯の間、また、ひとり親世帯の中でも所得を上昇することができた世帯とそうでない世帯の間の格差が拡大している可能性がある。
- 日本は、2010年に比べ2019年の家族関係支出(対GDP比)が大きく伸びているが、それでも38カ国のうち17位であり、先進諸国の中では中間的な位置。
- 公的現金給付の貧困率削減機能は、他国に比べ大幅に小さい。
阿部教授は、報告書の対象期間に、日本で教育費の軽減やサービス給付の充実などの貧困対策が拡充されてきたことを「大いに評価できる」としつつ、現金給付における貧困の子育て世帯に対する公的制度の機能が他国に比べて大きく劣っていることを指摘。「やはり現金給付とサービス給付の両輪が必要だ」と訴えています。
大きな格差も浮き彫りに
報告書は、貧困リスクにおける大きな格差も浮き彫りにしました。データがある38カ国全体では、ひとり親家庭で暮らす子どもたちは、他の子どもたちの3倍以上の確率で貧困の中で暮らしています。障がいのある子どもや少数民族・人種的背景を持つ子どもも、平均より高いリスクを抱えています。
「貧困が子どもたちに与える影響は根深くかつ深刻です。ほとんどの子どもたちにとって貧困は、十分な栄養のある食事、衣服、学用品、暖かい家などがなく成長することを意味します。それは権利の実現を妨げ、身体的・精神的健康の低下につながる可能性があります」とイノチェンティ研究所のボー・ヴィクター・ニールンド所長は述べています。
報告書の対象国では、2012年から2019年にかけ安定した経済成長が見られ、2008年から10年の不況の影響から回復する機会となりました。しかし、この間に子どもの貧困を削減した国も多い中、最も豊かな国の中には、最も後退した国もあったのです。報告書は、スロベニアとスペインのように、国民所得が同程度の国でも、子どもの貧困率には10%と28%と大きな差があることを示し、子どもたちが暮らす環境は、国の豊かさにかかわらず、改善することができると指摘しています。
子どもの貧困をなくすために
「レポートカード18」は、各国政府や関係者に、子どもの貧困をなくすための以下の取り組みを訴えています。
- 世帯の所得を補うための児童手当や家族手当など、子どものための社会的保護を拡大する。
- すべての子どもたちが、保育や無償の教育など、ウェルビーイングに欠かせない質の高い基本的サービスを利用できるようにする。
- 保護者の仕事と育児の両立を支援するために、適切な賃金の雇用機会や、有給の育児休業などの家族にやさしい政策を整える。
- 特に困難な状況の家庭やひとり親家庭のニーズに対応する措置を用意し、社会的保護、主要なサービス、適切な仕事へのアクセスを促進し、不平等を是正する。
レポートカード18:豊かさの中の子どもの貧困
2008~2010年の不況が子どもの貧困に及ぼした影響を分析した『レポートカード12』(2014年)を踏まえたその後の状況を分析しています。子どもの貧困の分析には、相対的貧困率および物質的はく奪率を用いています。相対的貧困率は、主に、世帯所得の中央値の60%未満の世帯で暮らす子どもの割合が使われています(日本の定義とは異なります)。物質的はく奪は、子どもに必要不可欠なものやサービスへのアクセスを測る方法です。データ不足により物質的はく奪の分析には日本は含まれていません。