パキスタンは南アジアに位置するイスラム国家で、インド、アフガニスタン、イラン、中国と国境を接しています。かつてインダス文明の中心として栄えた地域として知られ、ギリシャ文化と仏教芸術が融合した「ガンダーラ美術」は、中国を経由して日本にも伝わりました。
今日、パキスタンは世界第5位の人口を抱えており、その45%が18歳以下の若者です。主要産業である農業には労働人口の37%が従事しており、特にコメと綿花の生産量は世界第5位です。2021年のGDP成長率は6.5%で、マイナス成長を記録した2020年に比べ持ち直したものの、経済は依然として危機的状況にあります。2017-18年の調査では38.3%がいわゆる多次元的貧困下にあるとされていましたが、コロナ禍で経済の不安定化とインフレが一層加速したことで、困窮状態にある人々の数はさらに増加しているとみられています。
また、この国は、二酸化炭素排出量の割合では世界全体の1%に満たないにもかかわらず、近年、洪水や干ばつなど、気候変動がもたらす深刻なリスクに直面しています。2022年のモンスーン期には、過去30年における平均降水量の3倍の雨が南部に降り続き、大洪水によって国土の3分の1が水没しました。国家非常事態が宣言されてから4カ月以上が経過した2023年1月時点でも、最大400万人の子どもたちが洪水によって汚染された水の近くで生活し、呼吸器疾患や、マラリアやデング熱など水を媒介とする感染症、重度の急性栄養不良に苦しんでいます。
【栄養】
6~23ヶ月の子どものうち、最低限必要な回数の食事を摂取できているのはわずか3.6%で、農村部ではさらに低い割合となっています。5歳未満児の発育阻害と消耗症は乳幼児期の子どもの発達を脅かし続けています。
ユニセフは、パキスタン政府が栄養分野への取り組みを一層強化するよう働きかけを行っています。技術的支援等を通じて、栄養スクリーニング、重度の急性栄養不良の子どもたちの治療、微量栄養素(葉酸)の補給、乳幼児の適切な食事に関する知識の普及などを行っています。
【保健】
パキスタンは、ケアの質の低さ、予防接種率改善の遅れ、栄養不良、ヘルスケアへのアクセスの不平等といった課題を抱えており、新生児と妊産婦の死亡や疾病の原因となっています。5歳未満児死亡率は出生1,000人あたり65人、妊産婦死亡率は出生10万人あたり186人です。定期予防接種率は改善しているものの、地域によって大きな差が見られます。
ユニセフは、保健医療の改善に向けた政策や計画、制度が強化されるよう、様々な取り組みを行っています。ワクチンを保管・輸送するためのコールドチェーン機器の設置、病院施設内に女性スタッフによる24時間体制のワクチンセンターを設置することによる、新生児への予防接種促進、医療従事者や女性ヘルスワーカーの育成、重度の細菌感染症の治療、経口補水塩や亜鉛の提供などを通じて、子どもの命を守る活動を続けています。
【教育】
5~16歳の子どものうち、2,000万人以上が学校に通っていません。中退率も高く、特に中等教育の女子の間で顕著です。コロナ禍を機にこの状況はさらに悪化し、女子や貧困世帯、低学年の子どもたちを中心に、学習損失が深刻な問題になっています。
コロナによる学習危機にさらに追い打ちをかけたのが、パキスタン史上最悪の被害をもたらした2022年の洪水です。2万7,000校の学校が損壊・破損し、200万人以上の子どもたちが学校に通えなくなりました。学校は学びの場であるだけではなく、子どもたちが保健ケアや心理社会的支援、予防接種を受けられる重要な場所です。学校の閉鎖期間が長引けば、子どもたちが学校に戻らなくなる可能性が高まり、児童労働や児童婚などの搾取や虐待のリスクが高まります。
パキスタン全土の学校は、2020年3月~22年3月の期間中、新型コロナウイルスの感染拡大により、64週間にわたって、完全あるいは部分的に閉鎖されました。学校閉鎖期間としては世界最長規模です。それから半年も経たないうちに起きた大洪水の被害により、子どもたちは再び学習の場から閉め出されることとなりました。電気やインターネットを含むインフラへの被害により、遠隔学習もほぼ不可能となっています。
ユニセフは、最も被害の大きかった地区に600以上の一時学習センターを設置し、教員や子どもに必要な教育支援を行っています。子どもたちの心身の健康を支援するため、心理社会的ケアや健康状態のチェックに関する教員研修を行い、清掃・洗浄や修復が行われた学校については、子どもたちの学校復帰や入学のための準備を進めています。。