ユニセフ・FIFA共同製作 サッカー指導者向けハンドブック
“Coaching Boys into Men”
〜責任と良識ある大人に育てるために〜
サッカーのピッチは、子どもたちがおもいっきり遊ぶことができる解放的な空間です。そこは、「暴力」や「いじめ」、「無視」など、「外」の世界で子どもたちを取り巻く脅威から解き放たれる場所です。でも、子どもたちがやりたい放題できる場所ではありません。ルールがあります。サイドラインもゴールラインもペナルティーエリアもあります。そこは、子どもたちが「許された範囲」の中で「ルール」に則って遊ぶことを学ぶ場所なのです。
「許された範囲」の中で「ルール」に則って遊ぶこと。子どもたちに、ピッチの外の世界にでも「許される範囲」「ルール」があり、守らなければならないことを教えるのに、これほど適した場所があるでしょうか? こうした発想から、ユニセフとFIFAはサッカーの指導者向けハンドブック『Coaching Boys into Men』を作りました。
暴力や虐待は男女間の不平等を生み出し、紛争や暴力を家庭内やコミュニティ、学校にまでひろめ、世界の人々の生活を荒廃させています。家庭が安全でないとすれば、他に安全な場所などあるでしょうか?世界のサッカー指導者に、「競技」としてのサッカーだけはなく、サッカーを通じて、子どもたちに尊敬の念、正しいモラルと価値観、チームワークの大切さ、寛容と誠実さを教えてもらおう、というものです。
ユニセフとFIFAは、2006ワールドカップドイツ大会TM開催中に共同記者会見を開催。その場で、このハンドブックを公式発表する予定です。ユニセフとFIFAは、このハンドブックが一人でも多くのサッカー指導者の手に渡り、世界の子どもたちを取り巻く、身体的な暴力や虐待につながる差別的な態度、他人を傷つける態度を変えていく重要な役割を果たす重要なプレーヤーになってくれることを期待しています。
『チーム・ユニセフ』参加選手からのメッセージ
世界のプロサッカー選手は子どもたちのお手本。チーム・ユニセフに参加するエマニュエル・アデバイヨル選手(トーゴ)は、次のメッセージを寄せてくれました。
「子どもや若者には、もっと沢山のロールモデル(お手本を示してくれる大人)が必要なんだ。暴力、特に自分より弱い者に向けた暴力は『いじめ』でしかないし、人として絶対やってはいけない事だ。そんな事をちゃんと説明してくれる人が必要なんだ。」
ユニセフとFIFAは、世界のサッカー指導者の皆さんも、こうした声に是非賛同していただきたいと思っています。サッカー指導者の皆さんは、サッカーの技術の向上のみならず、子どもたちのロールモデルとして、倫理的に「正しい」姿や方向性を示してあげられる立場に居るのですから。
サッカーのピッチ上での指導と、「生きるため」の指導は表裏一体の行為です。そして、サッカー指導者はその2つの役割を同時に担える立場にあり、子どもたちに効果的なメッセージを発信できる立場にあるのです。「次世代の大人たち」に、どのような態度や行為が、特に女性や女の子への差別に通じるのかを教えることができるのです。
強豪チームとの試合に備えるには、十分な練習が欠かせません。これと同様に、人生で難しい選択を迫られた時へ備えるためにも、十分な「訓練」が必要であると、サッカーの指導者は子どもたちに教える事ができるのです。また、チームのメンバーに、困難な状況を打開する方法が暴力ではないことを教える事もできますし、女の子との接し方、デートの仕方などを教える事で、女の子に対する暴力を未然に防ぐことも出来るでしょう。
トリニダード・トバゴからチーム・ユニセフに参加しているドワイト・ヨーク選手は、次のメッセージを寄せてくれました。
「暴力は力を示すものではありません。暴力は問題を解決する方法でもありません。自分の行動が、他の人にどんな影響を及ぼすのかってことを、常に考えて行動する必要がありますよね。平和こそが唯一の道です。スポーツが僕の人生を変えたんですよ。ひとりひとりが暴力と闘う力を持っていることを教えてくれました」
子どもたちに「メッセージ」を伝えるために
暴力は解決方法ではない。力を誇示する方法でもない。これを子どもたちに教える方法はひとつではありません。『Coaching Boys into Men』にも、唯一絶対の答えは載っているわけではありません。このハンドブックは、この本を手にするサッカーの指導者が、自らの言葉で、自らの創意工夫で、こうした「メッセージ」を子どもたちに伝えるためのヒントを与えてくれます。サッカー指導者一人一人が、「借り物」では無く、自分の言葉として、自分のやり方で伝える事程、子どもたちの心に強く訴える方法は無いのですから。
サッカーを教える立場にある人々に期待される主要な役割の一つは、ゲーム中、重要な場面でチームとしての判断を下すこと。状況に応じてすばやく対処し、対戦相手の得点を最少限に抑え、ゲームの展開を自陣に有利な状況へもっていくことです。こうした場面を繰り返す中に、子どもたちに「非暴力」を教える恰好の機会が何度も出て来るかもしれません。これこそが「教育的機会」なのです。
プレー中、子どもたちが取る行動を、サッカー指導者が統制できない状況が出てくるかも知れません。しかしそのような場面こそ、その状況に直接関わった子どもたちのみならず、関わらなかった子どもたちにも両方に語りかけ、まちがいを正す重要な機会、つまり「教育的機会」になり得るのです。
執筆:ジョナサン・シーンバーグ
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