政治的なプロセスにおいて、子どもたちの意見が聞かれることはほとんどなく、考慮されることもありません。しかし、政策のほとんどすべての分野が何らかの形で子どもに影響を与えます。また、気候変動、人口増加、グローバル化等、現在の子どもたちだけでなく将来の子どもたちにも重要な影響を与える地球規模の課題は山積しています。
2015年9月下旬の国連総会で、17の目標と具体的なターゲット169の項目からなる国連持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。SDGsでは、子どもへの投資が社会的課題であるだけでなく、社会・経済・環境全ての側面で持続可能な開発の達成に貢献し、子どもへの投資が子ども自身にとっても社会全体にとって高い効果があると位置づけました。また、子どもが保護の対象であるだけでなく、変化の主体と位置付けられました。
目標の11番目にはすべての人が受け入れられる、安全かつレジリエントで持続可能な都市と住居への転換が謳われている他、地方自治体の活動に依存する目標が多くあり、子どもにやさしいまちづくりに取り組むことは、SDGs達成のための取り組みにも役立ちます。まさに、子どもにやさしいまちの展開が推進されているのです。
地球環境的要因
21世紀の今日において私たちの暮らす地球は、様々な難題に直面しています。その一つが、気候変動による地球温暖化の問題です。図1にあるように、地球の気温は、1850–1900年の平均値に比べ2100年には平均5.7℃上昇し、多くの生命が絶滅し、食糧生産にも多大な影響が出ると予測されています。こうした温暖化を食い止めるために地球全体で今すぐに取り組みを始める必要があります。
<図1>
次に、人口増加の問題があります。日本では少子化により人口は減少していますが、図2にあるように、世界に目を転ずると、サブサハラ以南を中心とした開発途上国では年々人口が増え、2050年には世界全体で97億人ほどの人が暮らすようになると予測されています。しかし、これだけの人を地球は支えられないという予測もあります。温暖化により食糧生産が減り、増える人口を賄えないと考えられているのです。
<図2>
この2つは特に、今すぐに世界が一つとなって取り組まなくてはならない課題です。しかし、開発途上国では、2018年現在、小学校にさえ行くことができない子どもが5,900万人もいます。子どもたちに教育の機会がないと、温暖化や人口増加についても知ることができないため、地球規模の課題に取り組むこともできません。まず子どもたちが学びの機会を得ることが必要です。
そしてさらに、その子どもたちから社会への積極的な関与を進めるのがこの事業です。子どもたちの意見を尊重し、子どもたちの良い意見を聞き、積極的に採用する社会のあり方です。子どもたちが、社会の中で自分たちも重要な役割を担っていると認識できることで、より具体的に、積極的に課題に取り組み、温暖化や人口増加を抑止する活動が期待されるのです。
子どもの自己肯定的要因
子どもにやさしいまちづくり事業は、子どもの権利条約を具現化する活動です。子どもたちが自律的に物事に取り組むことにより、他者のへの配慮に発展していくのです。こうした展開には、自己肯定感が関わっています。子どもは権利を学習し、理解が深まると、自律的になり、他者も尊重するようになります。
さて、図3に日本の子どもの状況が国際比較で示されています。「どうせ自分は何をやっても駄目だ」「自分がいたって、いなくたって影響はない」などという自己否定の言葉を多く聞きます。こうした言葉がこの図に反映されているのです。今の日本の子どもの自己肯定感の低さ、希望の低さは極めて象徴的な特徴であると見られています。
2020年にユニセフ・イノチェンティ研究所が発表した『レポートカード16-子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か(原題:Worlds of Influence: Understanding what shapes child well-being in rich countries)』でも、日本の子どもの精神的幸福度は、38カ国*37位という結果となりました。
これは何が原因なのでしょう。どうすれば子どもが肯定的な自分を取り戻せるのでしょう。子どもが自己肯定的になり、社会に関心を持ち、参画することなしに社会の、地球の状況を変えることはできません。この傾向を変える試みとしても、子どもにやさしいまちづくり事業は重要な役割を果たします。
*38カ国:経済協力開発機構(OECD)または欧州連合(EU)に加盟する国々を対象
<図3>