【2019年1月18日 東京発】
日本ユニセフ協会は2019年1月10日、「ジェンダーに基づく暴力」メディアブリーフィングをユニセフハウス(東京)にて開催しました。6社8名の報道の方にご参加いただきました。
© 日本ユニセフ協会/2019 |
報告者の山科真澄氏は、ユニセフ 緊急支援オペレーション室(EMOPS)でジェンダーに基づく暴力の被害者の保護やその防止のため取り組んでいます。南スーダンで紛争勃発直前の2013年9月より、約2年半子どもの保護専門官を務め、現在も1年の半分以上はバングラデシュ、エチオピアやナイジェリアなど現場を飛び回り活動する専門官に、GBVについて、またユニセフの取り組みについてご報告いただきました。以下は、報告の概要です。
性暴力、パートナー間暴力、児童婚、女性性器切除(FGM)や虐待を含む、ジェンダーに基づく暴力 (Gender Based Violence: GBV)は、日本を含む、世界中で起きています。表面化しにくいため、見えない暴力とも言われています。
世界では、女性の3人にひとりが生涯の間に身体的・性的暴力の被害に遭い(*1)、10人にひとりの女の子(約1億2,000万人)が望まない性行為やそのほかの性暴力の被害者となっています(*2)。また、男性・男の子も性暴力や性的搾取の被害に遭っています。
社会にもともとあるジェンダーの不平等が、GBVの根本的な原因です。イラクやコンゴ民主共和国など、武装勢力による性暴力が特に注目されていますが、一般市民による性暴力や、児童婚など家庭内の暴力、身分を証明するものを持たないなかでの人身売買といった搾取など、より身近な場での暴力の規模も大きく、見逃すことはできません。
(*1) WHO, London School of Hygiene & Tropical Medicine, the South African Medical Research Council (2013) ‘Global and regional estimates of violence against women: prevalence and health effects of intimate partner violence and non-partner sexual violence’
(*2) United Nations Children’s Fund, Hidden in Plain Sight: A Statistical Analysis of Violence against
Children, UNICEF, New York, 2014.
© 日本ユニセフ協会/2019 |
紛争などの緊急時には、GBVの被害に遭うリスクが高まり、通常時にはなかった暴力の発生も報告されています。例えば、キャンプなどで男女共同トイレを使用したり、隣に知らない男性がいる中で眠らないといけないといった状況では、通常よりも暴力が発生しやすくなります。
また、シリアやバングラデシュなどでは、男性や男の子に対する性暴力も確認されています。しかし、報告されているGBVはあくまでも氷山の一角です。緊急時において、GBVの実態を把握することは非常に困難となっています。
ユニセフは、紛争時の暴力のモニタリング、軍や警察へのアドボカシーやトレーニングを行っています。一方で、活動の中で最も大きな比重を占めているのは被害者への支援であり、医療サポートや心のケア、女性・女の子のエンパワーメントなどを行っています。被害に遭った女性がコミュニティでの信頼関係を取り戻すことは、報告件数の増加にもつながります。
(*3)WHO, London School of Hygiene & Tropical Medicine, the South African Medical Research Council (2013) ‘Global and regional estimates of violence against women: prevalence and health effects of intimate partner violence and non-partner sexual violence’ Geneva: World Health Organization
(*4)International Rescue Committee, A Safe Place to Shine: Creating opportunities and raising voices of adolescent girls in humanitarian settings, IRC, New York, 2017.
ユニセフは、現在活動を行っているほぼすべての国でGBVに関する取り組みを行っており、今後はさらに対象地域を増やしていくことを目指しています。例えば、南スーダンは、GBVに関して包括的な取り組みを実施している国のひとつです。
南スーダンでの事例
南スーダンで現在も続く紛争によって、これまでに約190万人が国内避難民となり、160万人以上が隣国へ逃れました。2013年に紛争が始まった当初は、提供できるサービスがほとんどなく、性暴力を専門に扱える医療関係者もほぼいませんでした。こうした、心のケアをすることが非常に難しい状況の中、被害者へのケースマネジメント(一人一人のニーズ、必要なケアを聞き取り、ケアのためのプランをつくっていく)や、女性にやさしい空間を設置するなど、被害者支援のシステム作りに取り組みました。男性優位の社会である南スーダンでは、学校に通っている女の子が少なく、識字率も低いため、文字を介さずに口頭で伝えなければならないという難しさもあります。また、警察や国のソーシャルワーカーを集めてトレーニングを行い、コミュニティ内での信頼を高めることで、地域では、被害を訴える人の数が増えました。
© UNICEF SouthSudan |
16週間にわたり、コミュニティの社会規範を変革するための対話を行い、個人の考えや行動に具体的な変化をもたらすことができました。それは、「女性のリーダーを増やしたい」という女性の意見や、家事は女性の仕事で男性がするべきではないと考えられている南スーダンで水汲みをする男性が現れたこと、「妻も人間だと初めて気づいた。牛と引き換えにもらったので、今までは自分の所有物だと思っていた」という男性の発言にも表れています。
GBVを防ぐためには、ユニセフのすべての活動においてリスクを軽減させることが不可欠です。グローバルレベルでのシステムを形成するとともに、ユニセフが先導するクラスター(子どもの保護、教育、栄養、水と衛生)をはじめとする各分野のプログラムにおいてもGBVの取り組みを取り入れていかなければなりません。
各分野におけるGBVの取り組み例:
■ 教育
■ 水と衛生
トイレは女性にとって、難民・避難民キャンプの中で最も危険な場所です。南スーダンでの紛争勃発直後に設置されたトイレは男女共用のもので、扉がないため隙間があり、のぞかれてしまうおそれもありました。(①)トイレを使う際に襲われたり、向かう途中にハラスメントに遭うこともありました。夜7時以降はトイレに行ってはいけないというルールが女性の間で生まれ、彼女たちは夜間利用を控え、代わりにビニール袋や屋外で用を足していました。 ユニセフは、キャンプで暮らす女性たちから、どのようにすれば安全にトイレに行けるのかをヒアリングし、その意見に基づきトイレの設計を変えていきました。
半年後には、色を分け入口を反対側にしたトイレを導入。(②)さらにその半年後には、男女それぞれのトイレを離れて設置し、扉には鍵をつけました。(③)木やプラスチックといった、トイレを建設するための基本的な材料は変えないまま、女性にとって必要なものを構造に反映させたのです。空間や資源が限られていても、小さな気づきと、それに対するひとつひとつの行動によって大きな効果を生むことができました。
■ 栄養
■ 保健
|
紛争時の性暴力による傷は、その紛争が終わった後も消えません。家族、世代を超えて残ってしまうとともに、一度「普通」と見なされた暴力は社会において負の連鎖を生み出します。また、紛争が長期化する中で、ユニセフはネガティブな社会慣習を変えるための取り組みも行っています。最初は支援を受ける人が少なくても、信頼関係を築くことで利用者が増えていくため、継続してサービスを提供できる場があることが重要です。被害者は、至るところにいるのです。
ジェンダーに基づく暴力はすべての人の責任であり、すべての分野において共同で取り組むことが重要です。すべての紛争、災害時に暴力は発生します。そのため、常にその防止や、被害者の支援に取り組んでいく必要があります。
シェアする