【2019年4月8日 東京発】
2019年3月、ユニセフ親善大使のマズーン・メレハン大使がユニセフハウスを訪問。シリア難民としての体験や教育活動家としての経験と想いを語った後、ボイス・オブ・ユースJAPAN で活動する同年代の大学生たちと、教育の大切さや互いの活動について意見を交わしました。
© 日本ユニセフ協会/2019 |
シリアに生まれたマズーン・メレハンさんは、14歳の時に隣国のヨルダンに逃れ、難民となりました。生まれ育ったシリアを離れる時が人生の中で最も辛い時だったと想起し、避難をするよりほかの選択肢がなかったという当時の切迫した状況を語りました。
辿り着いたヨルダンの難民キャンプは、電気もない生活で、シリアでの暮らしとは大きく異なり、小さなテントで家族が身を寄せ合って暮らしたと言います。
そのような状況の中で、メレハンさんの最大の関心事は、教育でした。「教育を受けられなければ、人生において何も達成することができません。自立することもできません。他を助けることもできません。自分の国を支えることもできないのです」と語ります。「教育を受けることができれば、人生におけるすべての困難に立ち向かうことができる」と強く信じていたのです。
教育への強い希望をもっているメレハンさんは、難民キャンプの中で通える学校を見つけるために自ら行動に出ました。その結果、幸運にもユニセフが支援する学校に通うことができるようになりました。
そこから、メレハンさんの教育活動家としての物語がはじまります。「教育は、自分の人生を変えることができる。そして、他の子どもたちの人生も変えることができる」と強く思ったメレハンさんは、教育の大切さを伝える活動を始めます。難民キャンプ内のテントからテントへと訪ね歩き、家族と子どもたちに、教育の大切さ、教育がもたらす未来への希望について、熱心に語り続けたのです。
メレハンさんの働きかけによって、多くの子どもたちが学校に通うようになった一方で、「うちの子どもたちは結婚するから学校には行かせない」などと言われ、聞いてもらえないこともありました。けれども、メレハンさんは、そうした逆境を糧にして、さらに語り続けたと言います。
「聞き入れてくれなくても、教育の大切さを分かってもらうために、伝え続けなくてはなりません。もし諦めたら、子どもたちは人生において何も成し遂げられないでしょう。だからこそ私たちは、気持ちを強く持ち、決して諦めてはいけないのです。」(メレハンさん)
メレハンさんは、難民キャンプで3年間を暮らした後、家族とともに英国に移住する機会に恵まれました。現在は英国の大学で学ぶ一方で、教育活動家として、若きユニセフ親善大使として、声を上げ続けています。
メレハン大使は最後に、「ひとりの声でも変化を起こすことはできるけど、私たちが一緒に声を上げれば、さらに大きな変化を生み出せます。私たちは、たくさんの子どもたちの人生を変えられるのです。」と強く語りかけました。
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スピーチの後、メレハン大使は、ボイス・オブ・ユースJAPANとしても活動する、東京大学の学生たちとの対話セッションに参加しました。
セッションでは、教育の大切さを伝えているメレハンさんの想いや活動内容について、学生や会場から次々に質問があがりました。
教育活動家となった原点を問われたメレハンさんは、次のように語りました。
「教師である父が私に非常に大きな影響を与えたのは間違いありません。残念なことに、私の文化では、女の子への教育は必要ないという考える人も少なくありません。でも私の父や叔父、伯母は教育現場で働いているので、私たちが学校に行くこと、教育を受けることを非常に大切にしてくれました」と、家族への感謝を述べました。
また、メレハンさんの祖母は、教育を受ける機会を得られなかったそうですが、まだ幼かったメレハンさんに、「私は学校には行けなかったけど、行くことが出来ていたならどれほど良かったかと思うの。もし教育を受けられていたら、私の人生は全く違ったものになっていたから」と語り、学校へきちんと行くように諭したと言います。そうした日々の言葉も、教育の大切さを伝える原点になっていると、メレハンさんは笑顔で答えました。
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「教育の大切さを他に伝える際、最も重要となるのは、モチベーション、つまり、彼らに教育を受けたいと思ってもらうことだと思います。そのためには、教育の価値や、学校・大学へ行くことで未来が開けることを伝え、時には背中を押したり、助言をしたりすることがとても大切だと思います。」(メレハンさん)
今後の目標について問われたメレハンさんは、「世界は1年で変えることはできません。活動家は、目標を達成するまで、辛抱強く、取り組みを続けなければなりません」と語った上で、次のように答えました。
「私の最大の目標は、すべての子どもが教育をうけ、平和な生活ができることです。すべての子どもが、私たちと同じように、教育の機会、そしてさまざまな権利を得られることです。私が教育の権利を特に重要と考えるのは、教育を受ける権利を失うことで、他の権利も失われてしまうからです。教育を受けなければ、健康でいることもできません。さまざまな問題に対して、平和的な解決を目指すこともできません。特に紛争下においては、教育を受けた人々による平和的解決が必要なのです。教育は、私たちと課題とをつなぐ橋であり、解決策なのです。」
さらには、「平和もとても基本的なことです。平和でなければ、安全に学校へ通うことはできません。いつの日か、戦争も無く、誰も恐怖を感じることのない平和な世界が実現することを願っています。」と平和の重要性を強調しました。
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「英国での学業を終えたあとは、シリアに戻ることを考えていますか?」という学生からの質問に対してメレハンさんは、「私の最も大きな夢は、いつかシリアに戻れる日が来ることです。英国の人々は、難民の私たちをあたたかく受け入れてくれ、たくさんのサポートをしてくれました。それは、私の人生においてとても大きなことです。非常に感謝していますし、英国は第二の故郷だとも感じています。その一方で、私の一番の願いは、シリアに戻って、シリアのために力を尽くすことです。シリアの子どもたちのためにも。いつになるか、どういう手段でできるかは分かりませんが、その願いはいつも持っています。」と語りました。
シリアへの想いに関して、メレハンさんは次のようにも語りました。「今もシリアに残り、恐怖の中で生きている子どもたちがいます。今はシリアの子どもたちにとって大変困難な時ですが、こうした子どもたち、あるいは次世代の子どもたちが、学校に通い、教育を受けることができれば、シリアの復興を支えることができます。教育、希望、そして機会があれば、変化のために行動することができるのです。」
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会場から、「日本の就学率は非常に高いです。それ故に、教育の機会を当然のものとして捉えてしまう子どもや学生もいると思います」というコメントとともに、日本の子どもたちや学生へのメッセージを求められたメレハンさんは、「世界各地で、多くの皆さん、特に、教育環境の整った国で暮らす皆さんに伝えている、とても大切なメッセージがあります」と述べ、次のように語りました。
「日本の皆さん、日本の子どもたちは、とても幸運な皆さんであることをお伝えしたいと思います。お聞きした通り、日本における高い就学率や、整った教育へのアクセス、教育システムは素晴らしく、日本をお手本にしたいとする国は、たくさんあるのではないかと思います。質の高い先生や、学校の安全など、必要なものがすべて整っています。
私が皆さんにお願いしたいことは、そうした状況を当たり前にとらえず、そうした恵まれた環境で培ったことを活かして、環境に恵まれずに教育をうけられない子どもたちを助けてあげて欲しいということです。
私が暮らしていたシリアでは、紛争で学校が爆撃されることもあり、恐怖の中で暮らし、教育を受けることが難しかったのです。避難した難民キャンプでの教育環境も、もちろん素晴らしいものではありませんでした。
私の経験から申し上げると、皆さんからのサポートは、それがたった一つの言葉であっても、それが子どもたちの支えになる、ということです。思いやりのある言葉をかけられると、私たちのことを気にかけサポートしてくれる人がいるということを知ることができて、将来を前向きにとらえることができます。だからこそ、子どもたちは皆さんの力を必要としています。
最後に学生たちは、自分たちが取り組む社会貢献の活動の事や、ボイス・オブ・ユースJAPANとしての活動についてメレハンさんに紹介しました。メレハンさんは「ユースである私たちが声を上げていくことがとても大切だと思います。これからもお互いの活動を続けていきましょう。そして、何か助けになれることがあったらいつでも声をかけてください」と語り、未来を担う同じ若者として、それぞれが取り組む活動に力を注ぎ続けることを、学生たちと誓い合いました。
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対談後、学生たちは、メレハンさんとの対談で感じとったこと、新たにできた目標、将来に向かっての抱負を語りました。そのほんの一部をご紹介します。
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