2022年5月12日ニューヨーク発
「ウクライナの平和と安全の維持に関する国連安全保障理事会」において、ユニセフ(国連児童基金)事務局次長のオマール・アブディが発言した内容を抜粋してお知らせします。
子どもの教育への深刻な影響
ユニセフが前回、安保理にウクライナの状況を報告してから、ちょうど1カ月が経ちました。日が経つにつれ、この紛争の恐怖にさらされている同国の子どもは増えています。この1カ月間だけで、国連は100人近い子どもが命を落としたことを確認しましたが、実際の死者数はさらに多いと考えられます。負傷した子ども、重大な権利侵害を経験した子どもはさらに多く、また、何百万人もの子どもたちが避難を余儀なくされています。学校は、未だに攻撃を受けたり、軍事目的に使用されたり、水と衛生のインフラが被害を受けたりしています。ウクライナの紛争は、他の戦争と同様に、子どもの保護と権利の危機になっています。
今日のウクライナでは、教育も攻撃を受けていることを痛感させられます。2月に紛争が激化し、学期は中断されました。先週時点で、同国東部にあるユニセフが支援する89校のうち、少なくとも15校(6校に1校)が、損傷または破壊されています。人口密集地における重砲などの爆発物の使用や、空爆によって、全国で数百の学校が攻撃されたと報告されています。また、他の学校は情報センター、避難所、物資補給拠点、あるいは軍事目的に使用されているため、長期間、子どもたちが教育現場に戻れなくなっています。
2021年、安保理は決議第2601号を採択し、学校への攻撃を非難し、教育を受ける権利を守るために必要なすべての安全策を求めました。「安全な学校宣言(Safe Schools Declaration)」は、紛争下の教育の保護を強化するために必要なことを示しています。今必要なのは、この言葉を行動に移す勇気と規律、そして政治的意志です。
オンライン教育への支援
3月中旬、ウクライナでは1万5,000以上の学校が再開され、そのほとんどが遠隔学習や対面式とのハイブリッドという選択肢をとっています。同国教育科学省は、ユニセフの支援を受け、幼稚園児から11年生までを対象としたオンライン教育への支援を含め、子どもたちに手を差し伸べるため、あらゆる手段を講じています。また、ユニセフは、現在実施中である爆発物リスク教育に関するデジタルキャンペーンや、教育関連物資の供給も支援しています。しかし、遠隔学習は一時的な解決策にしかなりません。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの教訓から、子どもは、仲間や先生と学校で学ぶことが重要だと、明らかになっています。
近隣諸国の政府や自治体は、ウクライナの子どもたちを、その国の学校制度に組み込んだり、代替の教育を提供したりしています。これにより、学習を継続し、今年度を修了できるよう支援することにつながっています。ウクライナ国内外において、370万人の子どもが、オンラインなどの遠隔教育を活用していると推定されています。しかし、受け入れ側の限度、資金の制約、言語の壁、子どもやその家族に起きうる突然の避難など、大きな障壁が残っています。
年少の子どもたちは、教育を受けることが特に難しいです。難民の就学前の子どものうち、公立幼稚園に在籍しているのは5%未満と推定されています。障がいのある子どもたちは、インクルーシブサービスや福祉用具の利用だけではなく、リハビリテーションなど、特定のニーズに対応するための専門プログラムも必要としています。
子どもたちが見る「生き地獄」
先月、マリウポリなど前線地域から避難してきた子どもや民間人が比較的安全な場所にたどり着き、わずかながら安堵しました。人道支援を行う人々が、国中で困窮する何百万人もの人々に、保健、教育、水、必要物資、情報、カウンセリング、心理社会的支援などを提供することができました。
しかし、人道支援を受けられない紛争地域の子どもとその家族が、依然として厳しい状況にいることは明らかです。子どもや親たちは、空腹を強いられ、濁った水たまりから水を飲み、絶え間ない砲撃や爆撃から身を守り、爆弾や弾丸、地雷を避けながら逃げてきたなどと、「生き地獄」を語っています。
世界の食料と燃料の価格が史上最高値まで急騰する中、ウクライナでの紛争は、極めて弱い立場にある世界中の子どもにも壊滅的な影響を与えています。アフガニスタンからイエメン、アフリカの角(アフリカ大陸東部地域)に至る地域に住む子どもたちは、世界中の紛争や気候危機によって苦しんできましたが、今度は、遠く離れた別の紛争によって、大きすぎる代償を払わされています。ウクライナ紛争の影響は、今後も世界中に波及していくでしょう。
必要なのは紛争の終結
ウクライナの子どもたちは、家族と再会したい、暮らしていた地域に戻りたい、学校に行きたい、近所で遊びたい、と言っています。子どもには立ち直る力がありますが、そもそもそのような力が求められるべきではないのです。彼らはこの紛争で、すでに考えられないほどの高い代償を払っています。この上、彼らの未来まで犠牲にされることがないよう、できる限りのことをしなければなりません。
私たちはこの紛争の被害を受けた子どもたちのニーズに対応し続けるため、安全、安定、保護を提供できるよう全力を尽くしますが、これだけでは決して十分ではありません。子どもたちに必要なのは、この紛争の終結です。彼らの未来は、危機に瀕しているのです。
■ユニセフ「ウクライナ緊急募金」ご協力のお願い
ウクライナでは、2022年2月から続く戦闘によって、今すぐに人道支援を必要としている子どもの数は、ウクライナ国内で300万人、避難先の難民受け入れ国で220万人以上にものぼっています。
ユニセフはウクライナ国内に留まり、子どもたちと家族のための支援活動を継続するとともに、周辺国に避難しているウクライナ難民支援も強化しています。
その活動を支えるため、日本ユニセフ協会は、ユニセフ「ウクライナ緊急募金」を受け付けております。
避難を余儀なくされ、教育の機会を奪われ、恐怖におびえ心身ともに影響を受けている子どもたちとその家族に、人道支援を届けるため、ご協力をお願い申し上げます。