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日本ユニセフ協会

プレスリリース

「ワクチンは子どもにとって大切か」
コロナ禍を経て日韓など52カ国で信頼度低下 ユニセフ『世界子供白書』で警鐘
信頼度回復と未接種の子どもへの対応が急務

2023年4月20日ニューヨーク

ユニセフは本日、『世界子供白書2023 すべての子どもに予防接種を(The State of the World’s Children 2023: For Every Child, Vaccination)』を発表。調査対象の55カ国中52カ国で、「ワクチンは子どもにとって大切」と考える人々の割合が、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て低下したと、警鐘を鳴らしました。

 

 

日本を含む5カ国で、信頼度が大きく低下

『世界子供白書』は、ユニセフが1980年から発行を続ける基幹報告書です。このたび発表された『世界子供白書2023 すべての子どもに予防接種を』によれば、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行が始まって以降、ワクチンは子どもにとって大切であると考える人の割合は、韓国、パプアニューギニア、ガーナ、セネガルおよび日本の5カ国で30ポイント以上低下しました。他方、重要という認識を持つ人の割合が変わらない、もしくは増加したのは、中国、インド、メキシコのわずか3カ国にとどまりました。また白書はほとんどの国で、35歳未満の年齢層と女性の間で、子どもへのワクチンの信頼度に低下傾向が見られたと報告しています。なお白書では、英国ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のThe Vaccine Confidence Projectが調査したデータを使用しています。(※注)

コロナ禍を経て、高まるワクチンへの躊躇

ダルフールで、ポリオの予防接種を受ける子ども。(2023年3月18日撮影)

© UNICEF/UN0822696/Hassan Nazmi Ahmed
ダルフールで、ポリオの予防接種を受ける子ども。(2023年3月18日撮影)

ワクチンへの信頼度は、調査環境や調査が実施されたタイミングなどによって大きく変化しうる指標です。よって、今回の調査結果が長期的な傾向を示しているか否かを判断するためには、さらなるデータ収集と分析が必要です。上述のとおり子どもにとってワクチンが大切であると考える人の割合に落ち込みが見られた一方で、ワクチンに対する総合的な支持は比較的高い水準を維持しました。調査対象55カ国のほぼ半数の国々では、回答者の80%以上が、予防接種は子どもにとって大切であると認識しています。

しかし同時に白書は、パンデミック対応への不安や、誤解を招く情報へのアクセスの増加、専門家に対する信頼の低下、そして政治的分断の広がりなど複数の要因を背景に、ワクチンへの躊躇の傾向が高まっている可能性があると警告しています。

ユニセフ事務局長のキャサリン・ラッセルは、「コロナ禍の中、科学者たちは急速にワクチンを開発し、数え切れないほどの命を守りました。しかし、この歴史的な偉業にもかかわらず、あらゆる種類のワクチンに対する恐怖と偽情報が、ウイルスそのものと同じくらい広く流布しました。この(白書が示す)データは、憂慮すべき警告信号です。私たちは、子どもへの定期予防接種に対する信頼までもがコロナ禍の犠牲者となることを見過ごすわけにはいきません。このままでは、多くの子どもたちがはしかやジフテリアなどの予防可能な感染症にかかり、次々と亡くなっていくのを目の当たりにすることになるかもしれません」と述べています。

子どもの定期予防接種が中断・後退

ユニセフなどが支援する栄養保健団体からHPVと破傷風の予防接種を受ける10歳のルルドさん。この団体は、遠隔地にあるコミュニティを訪問している。(グアテマラ、2023年1月撮影)

© UNICEF/UN0771169/Izquierdo
ユニセフなどが支援する栄養保健団体からHPVと破傷風の予防接種を受ける10歳のルルドさん。この団体は、遠隔地にあるコミュニティを訪問している。(グアテマラ、2023年1月撮影)

憂慮すべきは、このワクチン信頼度の低下が、パンデミックにより子どもへの予防接種が過去30年間で最も後退している中で、起こっているという点です。パンデミックは、世界の保健・医療システムを疲弊させ、リソースを新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に転用させました。また、医療従事者の不足や、自宅待機の措置もあり、世界中のいたるところで、子どもの定期予防接種が中断・後退しました。

白書は、2019年から2021年の間に合計6,700万人の子どもたちが予防接種を受けられず、112カ国で接種率が低下していると指摘しています。また、コロナ禍の直前または最中に生まれた子どもたちは、通常であれば既に予防接種を受ける年齢を過ぎており、そうした子どもたちに予防接種を行い、致命的な病気の感染拡大を防ぐための緊急対策を講じる必要性は増しています。例えば2022年には、はしかの発生件数が前年の2倍以上となりました。ポリオによって身体に麻痺を生じた子どもの数は、2022年には前年比で16%も増加しています。2019年から2021年までの3年間をその直前の3年間と比較すると、ポリオによって麻痺を生じた子どもの数は8倍に増加しており、予防接種の取り組みを持続させる必要性が浮き彫りになっています。

パンデミックはまた、既に存在していた社会の不公平を悪化させました。特に、最も疎外されたコミュニティに住む多くの子どもたちにとって、予防接種は、供給・アクセス・価格等の理由で未だに手の届かない存在です。予防接種普及の進展は、パンデミック以前から、10年近く停滞し、国際社会は、世界で最も疎外された子どもたちにワクチンを届けることに苦慮していたのです。

「ゼロ投与」の子どもたち

助産師が自宅に訪問し、2回目のはしか・風疹ワクチン接種とビタミンAの投与や、ポリオ、ジフテリア、百日咳、破傷風の予防接種を受ける1歳のジーシャンちゃん。(インド、2022年10月撮影)

© UNICEF/U.S. CDC/Unique Identifier/Anita Khemka
助産師が自宅に訪問し、2回目のはしか・風疹ワクチン接種とビタミンAの投与や、ポリオ、ジフテリア、百日咳、破傷風の予防接種を受ける1歳のジーシャンちゃん。(インド、2022年10月撮影)

2019年から2021年にかけて定期接種を受け損ねた6,700万人の子どものうち、4,800万人は、「ゼロ投与」とも呼ばれる定期予防接種を一度も受けていない子どもたちです。2021年末の時点でゼロ投与の子どもの数が最も多かったのは、いずれも出生コーホートが非常に大きいインドとナイジェリアでした。増加が顕著だったのは、ミャンマーとフィリピンでした。

このような子どもたちは、最も貧しく、最も遠隔な土地で、社会経済的に疎外されたコミュニティで暮らしており、紛争の影響を受けている子どもたちも含まれます。世界保健機関(WHO)の協力研究機関として、主に低・中所得国の医療・保健状況を公平性の観点から監視するInternational Center for Equity in Healthが白書のためにまとめた最新のデータによると、最貧困層の世帯では5人に1人の子どもが「ゼロ投与」であるのに対し、富裕層では20人に1人であることが判明しました。また、予防接種を受けていない子どもたちは、多くの場合農村部や都市のスラム街など、支援の手の届きにくい地域に住んでいることを明らかにしました。さらに、そうした子どもたちの家庭の多くでは母親が教育を受けておらず、家庭内でほとんど発言権を持たないこともわかりました。こうした課題は、低・中所得国で最も大きく、都市部で約10人に1人、農村部で6人に1人の子どもが「ゼロ投与」であると報告されています。他方、上位中所得国では、都市部と農村部の間のそうした格差はほとんど見られませんでした。

すべての子どもに予防接種を行うためには、プライマリ・ヘルスケア(基礎的保健サービス体制)を強化し、その多くを女性が占める最前線の医療従事者たちに必要なリソースと支援を提供することが重要です。白書はまた、予防接種活動の最前線に立つ女性たちは、低賃金や非正規雇用、正式な研修の機会やキャリア機会の欠如といった問題に直面し、自らの安心安全な生活さえも脅威にさらされていると訴えます。

すべての子どもにワクチンを

ニアッサ州で行われたコレラの予防接種キャンペーンでワクチン接種を受け、接種カードを受け取った子どもたち。(モザンビーク、2023年2月撮影)

© UNICEF/UN0799508/Franco
ニアッサ州で行われたコレラの予防接種キャンペーンでワクチン接種を受け、接種カードを受け取った子どもたち。(モザンビーク、2023年2月撮影)

この子どもの生存の危機に対処するため、ユニセフは各国政府に対し、予防接種の実施に必要な資金を増やすとするこれまでのコミットメントを新たな決意をもって履行するとともに、「ゼロ投与」の子どもへの予防接種を緊急に実施・加速させるため、関係者と協力して、新型コロナウイルス感染症対策で確保した資金の残りを含む、あらゆる利用可能なリソースを活用するよう求めています。

白書は、各国政府に次のことを求めています:

  • すべての子ども、特にコロナ禍の中で予防接種を受けられなかった子どもを早急に特定し、予防接種を受けさせる
  • ワクチン信頼度を高めるための施策などを通じ、ワクチンに対する需要を拡大する
  • 予防接種とプライマリ・ヘルスケアに優先的に資金を投入する
  • 女性の医療従事者への投資、技術革新、(医薬品や医療資材等の)現地生産を通じ、(コロナ禍のような)危機的状況でも弾力的に対応できる保健・医療体制を構築する

「予防接種は、何百万人もの命を守り、致命的な病気の発生から地域社会を守ってきました。コロナ禍を経て我々は皆、病気の広がりは国境で止まらないことをよく理解しています。定期的な予防接種の実施と強固な保健・医療体制の確立は、将来のパンデミック、そして不必要な死と苦しみを防ぐための最善の方法です。新型コロナウイルス感染症対策のために確保された資金がまだ残っている今こそ、その資金を予防接種の強化に振り分け、すべての子どもたちのための持続可能なシステムの構築に投資する時なのです」と、ラッセル事務局長は述べています。

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小児医学研究振興財団評議員会会長の別所文雄氏のコメント

ユニセフが支援する保健省の5歳以下の子どもを対象とした定期予防接種キャンペーンで、はしか・風疹、肺炎、ポリオなどの予防接種を受ける子ども。(東ティモール、2023年1月撮影)

© UNICEF/UN0767699/Monemnasi
ユニセフが支援する保健省の5歳以下の子どもを対象とした定期予防接種キャンペーンで、はしか・風疹、肺炎、ポリオなどの予防接種を受ける子ども。(東ティモール、2023年1月撮影)

白書が、「ワクチンは子どもにとって大切」であると考える人の割合が30ポイント以上低下した国の一つとして取り上げた日本の状況について、小児医学研究振興財団評議員会会長の別所文雄氏(元日本小児科学会会長)は、次のコメントを寄せています。

子どもに予防接種を受けさせたいと思う人の割合が、コロナ禍の後ではその前に比べて大きく低下しているという。接種率の減少ではなく、接種させたいと思う人の割合の減少は、コロナ流行中の行動制限では説明がつかない。コロナ禍真っ只中という特殊な状況下でのものではあるが、日本の減少率が欧米のそれに比して大きいということから考えると、コロナ禍とは無関係にある一般的な予防接種躊躇の動きがコロナ禍で強化された結果である可能性が考えられる。

予防接種躊躇の動きは日本だけのことではないが、欧米での躊躇の主な理由は偽情報によるものであるといわれるのに対して、日本での理由は些か異なるようである。今般の白書も情報源とした、英国ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の予防接種信頼度調査の2020年の報告によれば、日本は、国民のワクチン信頼度が調査対象149カ国中で最も低く、またワクチン行政も従前から危機回避を主眼とした消極的側面が強い。米国などでは児童が集団生活を始めるに当たって、ワクチン接種の実質義務化がなされているのに対して、日本では勧奨にとどめられている。

ワクチン開発も遅れがちである。多くのワクチンが単一ワクチンとしてしか利用できず、複数のワクチンの同時接種も認められず、WHOが接種を推奨しているワクチンが国内では公的な定期接種になっていない、または、そもそも国内に導入されてもいないという、いわゆる「ワクチンギャップ」の状態が長く続いていた。近年このギャップが埋められつつあるが、他国に比べいまだ十分ではない。

少数の確信犯的な予防接種拒否者は別として、大多数の躊躇者の説得には、予防接種を躊躇する大きな原因としてWHOが示す3Csモデル、すなわち「予防接種で防げる病気に罹患するはずがないと信じる根拠のない安心感(Complacency)」「物理的・金銭的などの理由で予防接種が受けられない・受けにくい状況(Convenience)」「予防接種に対する信頼度の低さ(Confidence)」に基づいたワクチン行政の見直しを加速させることが必要だ。

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※注
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(London School of Hygiene & Tropical Medicine)は、2015年から、予防接種信頼度調査(Vaccine Confidence Project〈VCP〉)で調査対象各国の代表性が確保された調査から得られるデータを分析することにより、ワクチン信頼度をモニタリングしています。本白書で紹介するデータは、2015年から2019年11月までの間と2021年以降のワクチン信頼度の変化に関する大規模なレトロスペクティブ調査(過去に遡った調査)によるものです。本白書は、VCPが収集した膨大なデータの一部を紹介したものです。VCPのデータの全容は、インタラクティブマップツールを使用してご覧いただけます。

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