2023年10月30日ニューヨーク発
ユニセフ(国連児童基金)事務局長のキャサリン・ラッセルは、国連安全保障理事会の緊急会合にて、イスラエルとパレスチナの人道状況について、以下の通り発言しました。
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暴力が奪った子どもの命
ユニセフは、今回の暴力の激化がもたらす真の代償は、暴力が奪った子どもの命と、暴力が変えてしまった子どもの人生によって測られると確信しています。
この3週間余りで、子どもたちに対する重大な権利侵害が横行し、壊滅的な被害が急激に増えています。パレスチナ保健省によると、ガザでは3,400人以上の子どもを含む8,300人以上のパレスチナ人が死亡し、6,300人以上の子どもが負傷しています。毎日420人以上の子どもがガザで死傷していることを意味するこの数字に、ここにいる全員が、震撼すべきなのです。
言うまでもなく、子どもたちへの暴力はガザ地区だけにとどまりません。東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区では、少なくとも37人の子どもが死亡したと報告されています。そしてイスラエルの30人以上の子どもが死亡し、少なくとも20人が人質としてガザ地区に留め置かれていることを忘れてはなりません。彼らの運命は不明です。
民間インフラも激しい攻撃を受けています。
ガザにある世界保健機関(WHO)によると、保健医療施設に対する34の攻撃が報告されており、それには21カ所の病院が含まれています。退避を余儀なくされた人々の避難所としても利用されている、ガザの35の病院のうち12カ所は、もはや機能していません。
少なくとも221校の学校と17万7,000戸以上の住宅が損傷または全壊しています。
下水処理施設まったく機能せず
一方で、ガザにわずかに残されているきれいな水も急速に底を突きつつあり、200万人以上が切羽詰まった状況に置かれています。水の供給インフラの55%が修理や修復を必要としていると推定されます。燃料や電力の不足のために、海水淡水化プラントは5%しか稼働できず、6つあるガザの下水処理施設すべてが全く機能していません。
きれいな水と安全な衛生設備の欠如は、大惨事の瀬戸際を意味します。きれいな水の供給が直ちに再開されない限り、子どもを含め、さらも多くの市民が脱水症状や水系感染症に陥り、命を失うことになるでしょう。
これだけでも十分悲惨な状況にもかかわらず、加えてイスラエルとパレスチナの子どもたちは、ひどいトラウマを抱えています。子どもたちが受けたトラウマの代償は、一生続くかもしれないのです。
暴力や混乱は、子どもたちに有害なストレスをもたらし、身体的・認知的発達を妨げ、短期的・長期的にメンタルヘルスに関する問題を引き起こす可能性があることが、研究によって明らかになっています。
人道支援の提供が極めて困難な状況に
私たちは、助けを必要としているすべての子どもに支援が届くよう最善を尽くしていますが、人道支援の提供は、特にガザでは今、極めて困難な状況にあります。これは、現在ガザが包囲された状態にあり、ユニセフのスタッフが活動するにはかなり危険な状況であることによります。
ユニセフのスタッフの中には、配偶者や子ども、また近親者を亡くした者がいます。
そしてユニセフは、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の複数の職員が犠牲となったことを、UNRWAと共に哀しんでいます。
2 日前には、通信が途絶え、ガザにいるユニセフスタッフとの連絡が取れなくなりました。彼らはそのことでさらに大きな危険にさらされることになり、子どもたちの支援という仕事を成し遂げることがさらに難しくなりました。
ユニセフとそのパートナーは、子どもたちのために現地にとどまることを約束します。しかし間違いなく、状況は刻一刻と悪化しており、敵対行為が直ちに停止しなければ、この地域の子どもたちの運命はどうなってしまうのか、私は心底から恐れています。
しかし、私たちには、そして出席している皆さんには、子どもたちをこの暴力の悪循環から救い出す力があります。
避難民危機への対応を優先
私は安保理に対し、当事者たちに国際法上の義務を思い起こさせ、停戦を求め、安全で妨げのない人道的アクセスを認めるよう要請し、拘束されたすべての子どもの即時かつ安全な解放を要求するとともに、子どもの権利であるところの特別な保護を与えるよう促す決議を、直ちに採択するよう、強く求めます。
現在ガザでは140万人以上が避難を強いられており、その大半は子どもです。安保理はまた、この悪化する避難民危機への対応を優先しなければなりません。
国連事務総長が述べたように、110万人のパレスチナ市民に対するガザ北部からの退避通告は撤回されるべきです。国際人道法の下で保護されていることを考えれば、病院からの立ち退きを求めることも中止すべきです。
すべての当事者は暴力を止め、子どもに対する重大な権利侵害を食い止めなければなりなせん。
ガザ地区へのすべての検問所、および安全で効率的な供給ルートを通じた、人道的アクセスを確保しなければなりません。また、食料、水、医薬品、燃料、電力を含む、しかしこれらに限定されない人道支援を提供するために、ガザ地区全域で支援物資と支援従事者の安全で妨げられない移動が保証されなければなりません。
子どもの権利擁護訴え
最後に、電力や食料、水、燃料がイスラエルからガザに送られるのを阻止する措置を直ちに中止し、市民が生存するために欠くことのできないサービスを受けられるようにしなければなりません。
ユニセフは約77年前、第二次世界大戦の焼け跡より誕生しました。 すべての子どもの権利を擁護する、という私たちの使命に対する姿勢は、これまでも決して揺らぐことはありませんでした。
この悪夢に巻き込まれたすべての子どもに代わり、ユニセフは世界に対し、より良い行動をとるよう呼びかけます。 音楽祭に参加する若者であろうと、ガザで日常生活を送る子どもであろうと、彼らはみな平和に暮らしてしかるべきなのです。子どもが紛争を始めたわけではありません。子どもに紛争を止める力もありません。彼らの安全と安心を取り組みの最前線に据える必要があります。彼らが健康かつ安全に過ごせ、教育を受けることのできる未来を、私たち全員が思い描くことが求められているのです。 すべての子どもが、それに値するのです。
ユニセフ「ガザ人道危機 緊急募金」 ご協力のお願い
(公財)日本ユニセフ協会は、ユニセフ「ガザ人道危機 緊急募金」を受付しています。最も支援を必要としている子どもたちとその家族に支援を届けるため、ご協力をお願い申し上げます。