マリ共和国:厳しい水のアクセスの現実と井戸からもたらされた希望【2010年7月8日、東京発】
乾季も終わりつつある5月中旬、マリの首都バマコからサハラ砂漠の南縁に位置する北東部ガオへは1,200km以上の道のりを4WDを走らせてむかいました。車を走らせるごとに、風景は移り変わり、だんだんと緑の量が減り、木々の丈が低くなっていきます。2日間かけて到着したガオ地方、ドロ村は、牛や羊などを連れて生活する遊牧民が周辺に多く暮らす砂漠の中の村です。 厳しい水のアクセス
村の水源は伝統的な覆いのない手堀りの井戸と、雨季には5k㎡程の大きさになる沼の水です。しかし、手掘りの井戸は、村に定住している人が使う分でさえ水の量が足りず、定住している人以外は使うことができません。地域一体でこの村しか水源がないため、10km以上離れた地域からもこの村にある沼に水を汲みに人々がラクダや家畜を連れてやってきます。しかし、沼の水は乾季の最中の3月には枯れてしまい、その後は沼の底を掘って染み出てくる泥交じりの茶色い水を手に入れるのが精一杯です。
前年の雨季に降った水の量が少なかったため、今年の乾季は水不足が深刻です。ドロ村の村長モハメッドさんは「家畜に飲ませる水が確保できず、牛などの大きい家畜から死んだり病気になっている。また、家畜が成長しないので売ることもできない。洗濯に使う水も無い。」と言います。さらに、「水がないため、周囲から人が集まってこないため、家畜の売買の市場などもなくなってしまい、村の経済的発展も妨げられている」という問題も抱えています。 茶色い泥まじりの水でも貴重な水
水の質も問題を抱えています。井戸の周りには家畜がたくさん集まり、井戸には覆いもないため、家畜の糞尿や砂やほこりが舞い込む可能性があります。水を汲むためのバケツや動物の皮でできた袋も細菌が混じっている可能性のある地面に置いてあり、衛生的とはいえません。沼の水は泥混じりの茶色い色。「いい水ではないが、それしかないので飲むしかない」と村の人は言います。吐き気や嘔吐、腹痛や皮膚病、目の病気にかかる人もいるそうです。 激しい痛みを伴うメジナ虫病
村ではかつて、メジナ虫病も発生していました。メジナ虫病にかかったことがありますか、と質問をすると、次々に大人が手を上げます。メジナ虫病とは、よどんだ水が原因で発生する寄生虫病です。メジナ虫は、水に混じるミジンコの一種を媒介して人の体に入り、1mほどに成長し、最後は皮膚を破ってでてきます。体中をメジナ虫が這い回り、皮膚をつきやぶる痛みは想像を絶するもの。死に至ることは少ないですが、仕事や家事をすることもままならず、肉体的・経済的に大きなダメージをもたらします。ドロ村では、水を飲む前にフィルターを使うことでメジナ虫を取り除き、3年程前からメジナ虫病が発生していないといいますが、ドロ村よりもさらに東に位置するガオ地方の村では、まだメジナ虫病が発生している地域があり、病気に感染した遊牧民などの移動により、ドロ村の沼の水も再びメジナ虫に汚染される危険性があります。メジナ虫病を完全に根絶するには、清潔で安全な水の提供が最も重要です。 井戸ができた村では・・・
Volvic 「1L for 10L」プログラムの支援で2009年に手押しポンプ付の深井戸が作られたマリ中部・モプティ地方のチャアラ村。かつて使っていた井戸は、囲いもなく、砂やほこり、ごみなどが混ざり、白く濁っていました。さらに、子どもたちが井戸に落ちる事故も発生していたと言います。 手押しポンプ付きの井戸ができ、80m以上の深さから清潔で安全な水がくみ上げられるようになりました。新しい井戸の水は飲用や料理に使われており、古い井戸の水は家畜や洗濯などに利用しています。井戸が設置された村には、修理用の工具セットが提供され、修理工がメンテナンスや修理のトレーニングを受け、井戸が継続的に使い続けられるような体制が整えられています。村では水の管理委員会が設置され、手押しポンプのメンテナンスや、水の利用規則の作成を行う予定です。
井戸に集まっていた子どもたちに話を聞くと、「新しい井戸ができて、腹痛や下痢が減りました。水はおいしく、冷たいです。」と笑顔で答えてくれました。清潔で安全な水は、村の人々の生活を支え、命と健康を守ります。 今年は、「1L for 10L」プログラムの支援で、メジナ虫病がまだ根絶されておらず、安全な水へのアクセスが厳しい状況にあるガオ地方に手押しポンプ付の井戸やソーラーパネルを使って水をくみ上げる簡易水道設備が作られています。 |