『存在のない子供たち』(配給元:キノフィルムズ/木下グループ)は、両親が出生届を出さなかったために、自分の誕生日も知らなければ、法的には社会に存在すらしていない12歳の少年の目線を通し、児童労働、移民、児童婚など中東の現実を映し出したヒューマンドラマです。
出生登録は、子どもの国籍とその存在を公式に認めるものであり、子どもの権利条約第7条の下に定められている基本的な人権です。
すべての子どもたちは、出生登録され、国籍を取得する権利、正式な身元登録をする権利をもっています。正式な出生登録をされなかったり、身元証明書類がないと子どもは教育や保健ケア、社会保障といった重要なサービスを受けられなくなってしまう可能性があります。出生登録は子どもの保護に向けての重要な一歩なのです。
子どもの出生証明書を持ち笑顔を見せる母親(エチオピア) © UNICEF/UN0302993/Tesfaye
データを取得できた開発途上国104カ国では、子どもの出生登録率はわずか50%です。出生登録されていない5歳未満の子どもたちは、貧しい農村地域に住んでいる傾向があり、地域によって、国内格差が存在しています。
ほとんどの国では、全人口の中で最も豊かな20%の人々が最も出生登録率が高く、これは貧困と低出生登録率に相関性があることを裏付けています。
また、誕生時に登録されなかった子どもたちや公的な証明を持たない子どもたちは、学校に入学できない、予防接種を受けられないなど、教育や保健ケア、社会保障から除外されてしまうことが頻繁に起こります。公にその存在が登録され、確認できるものがなければ、子どもたちが自然災害や紛争、搾取の結果などで家族とはぐれてしまった場合、身元を確実に確認できず、家族のもとへ帰るのはより困難になってしまいます。
©UNICEF/NYHQ2009-0586/Ramoneda
出生登録は、国の市民登録にとっても不可欠であり、統計の質や支援活動、計画立案、政策を効率的に実行する上で欠かせないものです。
ユニセフは、出生登録がされていないことは、社会の不平等と格差の兆候だとしています。こうした不平等の影響を最も受けるのは、特定の民族や宗教のグループの子どもたちや農村部や遠隔地に住む子どもたち、貧しい家庭や教育を受けていない母親を持つ子どもたちです。
出生登録が行われない要因は様々です。登録証の発行に費用が掛かること、関連する法律やプロセスがないこと、文化的な要因、さらなる差別や阻害の恐れなどが挙げられ、こうした原因への取り組みも必要です。
自分の出生証明書をもつ、コートジボワールの男の子 (9歳) © UNICEF/UNI122598/Asselin
ユニセフは、政府と地域社会を支援しながら、市民登録と出生登録システムの強化を支援しています。携帯電話などが取り入れられ、革新的な取り組みが行われています。いくつかの例をご紹介します。
コソボでは、ユニセフのイノベーションラボが、RapidSMSと呼ばれる携帯電話を活用した技術を導入。これにより、出生登録されていない子どもを見つけ、報告する作業が、効率的かつ効果的に、低コストで行えるようになりました。
ウガンダでは、ユニセフと民間からの支援を受け、政府がMobile VRSと呼ばれる取り組みを行っています。Mobile VRSでは、携帯電話を活用し、これまで数カ月もかかっていた出生登録の手続きをわずか数分で行えるようになりました。
ウガンダでは、ユニセフが支援するMobile VRSによって、病院で出生登録を行うことができます ©UNICEF/UGDA201300592/MICHELE SIBILONI