【2019年6月4日 東京発】
日本ユニセフ協会は5月25日(土)、サンダンス映画祭2016 ワールドシネマ部門グランプリ&観客賞を受賞した作品『ソニータ』の上映会を、東京都港区のユニセフハウスで開催しました。
©日本ユニセフ協会/2019 |
子どもの権利条約が国連で採択されてから30年を迎える今年、日本ユニセフ協会は「子ども」を主題にした映画12作品を5月~12月にかけて連続上映する、ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」と題したイベントを開催しています。
第1回目となる今回は、アフガニスタンの少女、ソニータが16歳で結婚を強いられ夢を奪われそうになりながら、自らの運命をラップで切り開いていく姿を追ったドキュメンタリー『ソニータ』を上映しました。
上映後には、女優のサヘル・ローズさんが舞台に登場。日本ユニセフ協会の林が聞き手となり、イランやアフガニスタンの女の子たちが置かれている状況、社会を変える言葉の力、悪しき慣習を絶つ教育の役割について熱い思いを語ってくださいました。
©Behrouz Badrouj |
ソニータが暮らしていたイランについて、イランご出身のサヘルさんは「たとえばサッカースタジアムに女性は入れないなど、女性の公の場でのスポーツ観戦は法律で禁じられています。今回の映画でも、女性がメインボーカルとして公の場で歌うことが法律で禁じられていることに触れた場面がありました。革命後、一転して社会は女性に厳しくなりました。伝統音楽なら良くても、流行歌を歌うと女性のイメージが悪くなる、と言われます。それでも、法律で禁じられているから歌わない、ということではなくて、若者たちは、例えばライブハウスのようなところで自己表現をしています」と説明。
さらに、中東の女性たちは特に、感情を瞳に出して表現すること、「目線、息遣いひとつひとつが言葉です」と話しました。まさに本作のソニータに通じます。
「苦しい環境に置かれているからこそ、人々は言葉を綴ります。自由がない分、歌や詩にその思いを託すのです。誰しもが生まれた時から詩人。イランではどの家庭にもハーフェズという詩人の詩集があって、朝起きると皆その日の運勢を占うようにページを開きます。ほかにも、手紙を書くとき、最初の2行に最近の出来事を詩で記すことが習慣づいていて、幼い頃から詩作に触れています」とサヘルさんは言います。
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言葉を綴り発信することで自分自身の人生を変えることのできたソニータ。サヘルさんは「言葉は人を抱きしめることもあれば傷つけることもある。人間は、言葉があるからこそ生きていける」と語りました。
ソニータの『売られる花嫁』という曲のなかに「沈黙のかわりに私は叫ぶ」というフレーズがあります。声を上げて伝えたいことはたくさんあるのに、語ることを恐れている友人たちに向けて書いた言葉だということです。この曲についてサヘルさんは「親が娘を売るなんて、という部分の歌詞が印象に残りました。でもソニータは、親を憎んでしまいそうだけど親のことを憎んでいないんです」と教えてくれました。ソニータはかつてインタビューで、母親への愛情は変わっていないと答えていて、それは、母親も同じように若くして結婚させられたこと、そして、娘を売らざるを得ない理由があることを理解しているからだと語っています。
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同作の監督について「監督は、ひとりの女の子の人生を救っています。ドキュメンタリーの掟を破ってまで、ひとりの女の子を救うことを選びました。目の前で助けて、って手を差し出されたら、どうするか。それが私たちだったらどうするか。同じ女性としてどうするか」とサヘルさんは問いかけます。
ソニータの存在によって、児童婚など厳しい状況に置かれている女の子たちがいるのを知ることができます。しかしそれだけでなく、ソニータは同じ境遇にある女の子たちを勇気づける存在であり、私もこうなりたい、というロールモデルになっているのではないか、と問うと、サヘルさんは、「これは今も現実に起きていること。喉の先まで来ている悲鳴を飲み込んでいる女の子たちがいます。日本にも、声の発信の仕方がわからない子どもたちがたくさんいます。イランでは、今も居場所のないアフガニスタンの難民の子どもたちもたくさんいて。ソニータは現在も、次の世代の子たちを守るために自ら発信し続けています。ソニータは実在する女性、リアルな存在なのです。今の発信力を、私も応援したいと思っています」と答えてくれました。
私たちは、この映画を通じて、ソニータというひとりの実在する女の子に出会うことができました。そして、現在進行形のソニータの活躍を、いつでも彼女のSNSで知ることができます。
児童婚という子どもにとって悪しき慣習が繰り返されている地域があることについて、サヘルさんは「正義と悪というのははっきり境目がないものだと思います。すべてが同じことの繰り返しで、見てきたものが繰り返されているということです。
まず、おとなたちの意識を変えていかなければなりません。学校に行けなかったおとなたちは多いのです。知識があれば、何が正しくて何がそうでないかが分かります。すべての子どもが学校に行くことが大切です」と語りました。知識を得て、それを基に判断する力を育てていく場が教育。教育は、これまで繰り返されてきたことが正しいのかそうでないのか、立ち止まって考える土台になるのです。
上映会に参加された方々からも、多くのお声を頂戴しました。
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子どもの権利条約が採択されてから30年を迎えるにあたり、「子ども」を主題とした作品を5月~12月にかけて毎月連続で上映する日本ユニセフ協会主催の映画上映会です。「子どもたちの世界」を基調テーマに、「そもそも子どもとは?」「それでも生きていく子どもたち」「子どもを取り巻く世界」「女の子・女性の権利」という4つの視点から選んだドキュメンタリーとフィクション計12作品を上映します。
©Behrouz Badrouj |
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