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公益財団法人日本ユニセフ協会

アグネス・チャン
日本ユニセフ協会大使
南スーダン帰国報告会

【2015年4月13日 東京発】

1998年の大使就任以来、17カ国18回目となるユニセフの現場への訪問。アグネス・チャン日本ユニセフ協会大使は、内戦の混乱が続く南スーダンの地を訪れました。南スーダンは、ユニセフが人道支援活動を展開する70以上の国や地域の中でも特に「最重点国/地域」に位置付けられています。しかし、紛争が長引き、多くの新たな危機が世界各地で発生する中、南スーダンに対する国際社会の関心は少しずつ遠のき、子どもたちが置かれている状況は言うまでもなく、活動資金の確保などの面でも厳しい状況が続いています。

大使就任の翌年の1999年8月、アグネス大使は独立前の南スーダンを訪れています。当時、子ども兵士の存在が大きく取り上げられていました。あれから16年。子どもたちの解放が少しずつ進む一方で、1万2,000人以上の子どもや若者が今でも武装勢力に徴用されているとみられています。いま再び訪れた南スーダンの現状や子どもたちの様子をご報告いたします。

子どもたちのひたむきさ

まず、アグネス大使が向かったのは、長引く紛争の中で親を失ったりはぐれたりした子どもたちを保護している子どもセンター。ここでアグネス大使は、両親や兄弟/姉妹を失ったり、一緒の生活がままならなくなったりした子どもたちと話をしました。「お母さんと会いたい」と子どもたちの中には泣き崩れてしまう子どももいましたが、「看護婦になりたい」と夢を語ったり、年下の子どもの面倒をみたりと、ひたむきに生きる子どもたちの姿がありました。

女の子と話すアグネス大使。
© 日本ユニセフ協会/M.Miura/2015
女の子と話すアグネス大使。

解放と課題:子ども兵士の問題

リハビリセンターで子どもたちの話を聞くアグネス大使。
© 日本ユニセフ協会/M.Miura/2015
リハビリセンターで子どもたちの話を聞くアグネス大使。

16年前にアグネス大使が最初に訪問したとき、子ども兵士の数は約7万人と言われていました。その後、ユニセフをはじめとしたさまざまな支援活動が一助となり、その数は現在1万人ほどまでに少なくなったと言われています。3,000人もの子ども兵士を保有していた民兵組織「コブラ派」が1,300人の子どもを解放したことも大きな改善の一つです(子ども兵士解放についてはこちらを、アグネス大使とコブラ派司令官の対話の様子はこちらをご覧ください)。アグネス大使は、こうした解放された子どもたちのリハビリセンターを訪れ、子どもたちの話を聞くことができました。まだ10代の子どもたち。彼らは15歳くらいから軍隊に入ったと言います。その背景には、両親を戦闘や病気で失い、生活のために軍隊に入るしかなかったという、「他に選択肢がなかった」現状がありました。

解放された子どもたちは、拳銃を持つ生活から子どもらしい生活を取り戻すため、拳銃・軍服と、平服・靴・鞄を交換します。こうして子ども兵士から、平常時の「子ども」に戻るのです。しかし、こうして軍隊から解放されたあと、彼らに安泰な毎日が待っている訳では必ずしもありません。戦闘を止めたとしても、経済や農業といった生活基盤が安定していない南スーダンにおいて、子どもたちが安心して毎日を過ごすことは困難を極めます。「独立から自立の道を早く準備することが大事」とアグネス大使は述べます。

いまだに1万人以上の子どもが兵士として、女の子の場合は兵士の「妻」として時には性暴力の被害にあいながら戦闘に関わっている現状が今の南スーダンにはあるのです。子ども兵士の解放は喜ばしいステップですが、子どもたちが子どもらしい笑顔に満ち溢れた毎日を取り戻すにはまだまだ長い時間がかかることを忘れることはできません。

子どもたちの栄養不良

栄養不良の子ども。
© 日本ユニセフ協会/M.Miura/2015
栄養不良の子ども。

子ども兵士の問題と並行して、アグネス大使が取り上げた問題の一つが子どもの「栄養不良」です。時には悪路を5時間半走行したり、ナイル川をボートで渡ったりし、アグネス大使は、ミンカメンの最大の避難民キャンプ、ボル、そして現在は戦闘が行われていないヤンビオといった地域も訪問しました。

こうした地域で見られたのは、栄養不良による子どもたちの低体重といった健康問題です。例えば、キャンプでの配給は1日1回。主食、塩、砂糖、油程度しかありません。こうした中で、アグネス大使が指摘したのは、母乳を終えた子どもたちが、十分に栄養のとれる食事をできていないことでした。ただでさえ少ない食糧は、なかなか小さな子どもに十分に行き渡りません。脳性まひを起こしている子どもも中にはおり、こうした障がいを抱えた子どもにはさらに過酷な環境となっています。加えて、これから雨季になれば、キャンプ内のテントに水があふれ、衛生状態の悪化も懸念されます。子どもたちにとって更に厳しい環境となるのです。

栄養治療用ミルクを飲む子ども。
© 日本ユニセフ協会/M.Miura/2015
ヤンビオの栄養不良の子どもをケアする病院で栄養治療用ミルクを飲む子ども。
「プランピー・ナッツR」を食べる子ども(ヤンビオ)。
© 日本ユニセフ協会/M.Miura/2015
栄養治療食「プランピー・ナッツ®」を食べる子ども(ヤンビオ)。

ユニセフの取り組み

南スーダンは新しい国として2011年に独立しました。しかし、独立を達成した後に、自らの力でどう自立し、どう紛争のない新しい日常を取り戻すかという点には課題がたくさん残ります。緊急支援として、ユニセフは即応メカニズム(Rapid Response Mechanism (RRM))と呼ばれる対応を精力的に進めています。これは、緊急事態下で、保健衛生・子どもの保護・子どもの生存といった複数のセクターが共同で、できる限り迅速に現地で対応にあたろうとする試みです。こうした緊急支援に加え、アグネス大使が強調するのが「戦闘以外の選択肢を与えること、一緒に作ること」という長期的な視点です。あまりにも長く闘いの中にあったこの国が平和と自立を確立するためには、闘い以外の「受け皿」が必要で、その「受け皿」作りは私たちの支援で後押しできると力強く語りました。

「関心が薄れてしまっているけれど、忘れてほしくない。私たちにできることはあるんです」16年ぶり、2回目の南スーダンを訪問したアグネス大使の結びの言葉です。

校庭で遊ぶ子どもたち。
© 日本ユニセフ協会/M.Miura/2015
校庭で遊ぶ子どもたち。子どもらしい日常が戻るまで、まだまだ時間がかかります。

■参考情報:
緊急対応メカニズム(Rapid Response Mechanism (RRM)):
戦闘・暴力が起こってから15日以内に対応できる体制。具体的には、特別に編成された査定チームが現地に赴き、状況とニーズの把握をします。世帯の健康状況、食料や水へのアクセス状況、衛生環境、生活必需品があるかどうか等を実際に調査します。その調査結果を踏まえて、あらかじめ準備していた物資や資金を使って迅速に救援物資を配布します。2015年には、9つのRRMが立ち上がり、5歳未満児2万7,000を含んだ12万6,000人に対応しました。

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※4/18(土)にアグネス大使が出演したNHK『地球ラジオ』での南スーダン報告は、こちらのWebサイトからお聞きいただけます。(4/18午後6時台に出演。4/25(土)まで聞くことができます)

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