2023年1月17日コックスバザール(バングラデシュ)発
2017年の夏、ミャンマーで激化した暴力から逃れるために、少数民族のロヒンギャの人々が隣国のバングラデシュに逃れました。それから5年以上が経過した今も、ロヒンギャの人々はバングラデシュでの生活を続けており、コックスバザールにある難民キャンプには、世界最大規模の100万人近くが暮らしています。
夢中でボールを追いかける女の子たち
バングラデシュ・コックスバザール地区にあるサッカー場で、ロヒンギャ難民のルマさん(15歳)が他の女の子とともに、灼熱のピッチの上を裸足で走り回っています。
グラウンドとゴールポストは実際のサッカーコートの大きさの半分です。けれども、女の子たちは暑さも裸足もピッチの狭さも気にしません。とても楽しい時間を過ごしているからです。
ルマさんが難なくゴールを決めたとき、味方チームからは大歓声が、相手チームからは抗議の声が上がりました。
「オフサイド!」と相手チームを率いるシャムスナさんが叫びます。結局、ゴールは認められず、試合は続行。でも、ルマさんは気にしません。「次こそゴールを決めるわ!」と笑顔で自陣へ戻ります。
その言葉通り、試合終了のホイッスルが鳴るまでにルマさんは3ゴールを決め、3-2でチームに勝利がもたらされました。そして、親善サッカー大会で優勝したのです。
交流と学びの場所「ソーシャルハブ」
ルマさんにとって、難民キャンプ内や地域の子どもたちとサッカーをしたり、話したり、学んだりできる拠点「ソーシャルハブ」に通う日が、1週間の中でも特に楽しみな日です。これは他のロヒンギャ難民の女の子たちも同様で、週に3日以上通っている子もいます。
「別のコミュニティの友達をつくることができるので、ここが好きです。早すぎる結婚がもたらすリスクや他者との上手な付き合い方など、大切なことをたくさん学べます。そして最も重要なことは、ここなら私もサッカーができるということです」とルマさんは言います。
15歳のルマさんは、バングラデシュのコックスバザールの難民キャンプで5年以上暮らしています。ルマさんと家族は他の何十万人ものロヒンギャ難民と共に、迫害を逃れ、国境を越える苦難の旅をして安全な場所にやってきました。
一家がバングラデシュにたどり着いた当時、同様に逃れてきた人々がすでに約30万人もいました。現在、約100万人もの難民(その半数は子ども)がこの広大なクトゥパロン難民キャンプで暮らしています。
「私は女の子だから、家で兄弟と一緒にサッカーをすることはできませんが、いつも彼らのプレーを見てテクニックを学び、ソーシャルハブで友達とサッカーをするときに生かしています」(ルマさん)
そうした努力が実り、ルマさんは、難民キャンプ内にあるユニセフが支援するソーシャルハブで、サッカーが一番上手になったのです。
互いを理解し、協力し合うために
ユニセフが支援するソーシャルハブは、クトゥパロン難民キャンプ内の端に設置されており、難民キャンプで暮らすロヒンギャの若者と、ホストコミュニティ(バングラデシュの地元住民)の若者との双方に開かれている場所です。
長期化する難民危機の中で、避難民を受け入れているバングラデシュのホストコミュニティと、ロヒンギャ難民コミュニティとの間に、緊張が高まりやすくなっています。
そのため、ユニセフは、2つのコミュニティの若者たちの友情と理解を促進するために、このソーシャルハブを設置しました。
若者たちはここで、緊張の根本原因の特定、話し合い、紛争解決、他者との協力、といった、立場の違いを超えて互いを理解する平和構築能力を学び、行動に移すことで変化の担い手となることが期待されています。
2つのコミュニティの間では、緊張が高まることも少なくありませんが、このソーシャルハブではロヒンギャ難民とバングラデシュの子どもたち双方が、敵対感情を持つのではなく、一緒にサッカーを楽しみ、交流するための唯一の場所になっています。
ルマさんはホストコミュニティのサッカーが得意なシャムスナさんと一緒にプレーをしたり、話をしたりすることを、いつも楽しみにしています。そのような時間は、ルマさんにとってと宝物のようなひと時なのです。
シャムスナさんもまた、ソーシャルハブで、互いの人生経験を学ぶ「ストーリーテリング」のアクティビティなどに積極的に参加しています。
「私が学んだ最も重要なことは、立場に関係なく、他者と平和に暮らす方法です。ここは素晴らしい場所です。どうすれば共に暮らせるのか、どうすれば友達になれるのかを教えてくれます」と、シャムスナさんは語ります。
コックスバザールにユニセフが設置した6つのソーシャルハブでは、2022年の1年間で、ロヒンギャ難民キャンプとホストコミュニティとの双方から4万2,000人以上の子どもと若者が参加し、互いを理解し、認め合える機会を見出しています。