2024年3月12日シリア発
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ユニセフが支援するクリニックで栄養状態の検査を受け、ユニセフのスタッフと嬉しそうに握手する2歳のジャマルちゃん(シリア、2024年10月9日撮影)
シリアで2011年3月から続く紛争は、子どもたちやその家族に深刻な影響を及ぼしてきました。
2024年には、長引く紛争に加え、避難の増加や経済崩壊などにより状況がさらに悪化しました。12月8日の政権崩壊後も、依然として不安定な状況が続いており、現在も750万人の子どもたちが支援を必要としています。
2024年、ユニセフはパートナーとともに、保健、栄養、教育、子どもの保護など多岐にわたる支援を、シリアの1,250万人以上に届けました。そのうち730万人が子どもで、また約23万人が障がいのある人々でした。
ユニセフの支援によって希望を見出し、力強く生きている子どもたちや家族をご紹介します。
両足を失ったヤヒアさん(13歳)
~心のケアと教育支援~
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車いすで、学校から家に帰るヤヒアさん。(シリア、2025年2月3日撮影)
「6歳のとき、家の近くで砲弾が爆発し、両足を失くしました」と、ダマスカス郊外のザバディン村に住むヤヒアさん(13歳)は語ります。
母親のドゥアさんも、その恐ろしい瞬間を回想します。「ヤヒアの片方の足は爆発で即座に失われました。もう片方の足は、もし病院に基本的な医薬品があれば、失われずにすんだかもしれません。でも、包囲されていたこの地域の病院には、傷を縫う糸さえありませんでした」
ヤヒアさんは、幼い頃のこの出来事により、身体だけではなく、深い心の傷を負いました。そうした経験が心の底で怒りとなって攻撃的な態度に表れ、同級生に暴力を振るったことが学校でも問題になりました。
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校舎の一室で、ヤヒアさんと一対一で話す、ケースマネージャーのホロウドさん。(シリア、2025年2月3日撮影)
そこで、校長先生は、ユニセフの支援でザバディン村で活動する子どもの保護のケースマネージャー、ホロウドさんに、ヤヒアさんへの支援について相談しました。
相談を受けたホロウドさんは、ヤヒアさんと個別カウンセリングを重ねました。ヤヒアさんは、次第にホロウドさんに心を開き、自分の経験や感情を共有するようになりました。
障がいを理由にいじめを受けて怒りが抑えられず、攻撃的な行動をしてしまった、とヤヒアさんは話しました。「いつも孤独で悲しかった。我慢できずやり返したら、大きな問題になってしまいました」。
結果的に、ヤヒアさんはその学校を辞めてしまいましたが、ホロウドさんはヤヒアさんに寄り添い、ユニセフが実施している夏季のワークショップへの参加を勧めました。感情表現に焦点を当てたワークを受講したヤヒアさんは、自分の感情を表現し、怒りを管理する方法を学びました。「怒りを感じたときは、深呼吸をしたり、10まで数えたり、スポーツをしたりします」とヤヒアさんは語ります。これらの学びを通じて、ヤヒアさんは、感情の表現や対人関係のスキルを向上させ、自信を取り戻しました。
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車いすでも自由に移動できるように配慮された学校で、スロープを使って移動するヤヒアさん。(2025年2月3日撮影)
2024年9月、ヤヒアさんはホロウドさんのサポートを受けて、別の学校に転校しました。
ここは、ユニセフの支援で障害のある子どもたちへの配慮が充実している学校です。ヤヒアさんは目を輝かせてこう話しました。
「今は自分で動き回れます。誰の助けも借りずに使えるトイレもあります!」
現在、ヤヒアさんは学校で友人と遊び、チェスを楽しむなど、以前の攻撃的な態度は影を潜めています。母親のドゥアさんは、「ヤヒアが再び笑顔を見せ、学校に通う姿を見ることができて、本当に嬉しいです」と喜びを語ります。
ホロウドさんは、「ヤヒアはとてもエネルギーに溢れていて、それを前向きに導くための指導だけが必要でした。すべての子どもは、学び、成長し、夢を見る機会を得る権利があります。学業で成功するだけでなく、希望と尊厳を取り戻すことが大切なのです」と語ります。
ユニセフは、シリア全土で紛争の影響を受けた子どもたちに心理社会的支援を提供し、彼らが困難を乗り越え、明るい未来を築く手助けをしています。ヤヒアさんのような子どもたちが再び夢を持ち、生き生きとした生活を送ることができるよう、ユニセフの取り組みは続いています。
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学校の校庭で行われたユニセフのワークショップに、同級生と一緒に笑顔で参加するヤヒアさん。(2025年2月3日撮影)
困窮するファルハさん一家
~ 生活と尊厳を守る現金給付支援 ~
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ファルハさん(45歳・左から2番目)と子どもたち。(シリア、2025年1月7日撮影)
「ユニセフのパートナー団体から、現金給付を受けられると聞いたとき、言葉にならず、涙があふれました。お金が全くなかったからです」
シリアのダマスカス地方にある小さな村、シャバアで暮らすファルハさん(47歳)は、6歳から17歳までの5人の子どもを育てながら、日々の生活を必死に営んでいます。
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家族を養うため、裁縫の仕事をするファルハさん。(2025年1月7日撮影)
3年前、子どもたちの父親である夫を突然亡くし、ファルハさんたちの生活は一変しました。両親の近くで新たな生活を始めましたが、裁縫の仕事だけでは、日々の食べ物を手に入れることにも困りました。長女のアスマーさん(17歳)も、家計を支えようと工場で働き始めましたが、高額な交通費をまかなうことができず、辞めざるを得ませんでした。
「空腹感がひどくなる夜が嫌いでした。特に、弟が食べ物を求めて泣くのが辛かったです。母が弟をなぐさめながら『明日は、今日よりも良い日になるからね』と約束するのを聞くと、胸が張り裂けそうでした。」(アスマーさん)
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アパートで食事を共にするファルハさん一家。(2025年1月7日撮影)
2024年11月、ユニセフの現金給付プログラムがシャバア村で実施され、ファルハさんの家族も支援を受けることになりました。これにより、米、砂糖、レンズ豆、油などの食料や洗剤、木製ストーブを購入することができ、ファルハさん家族の日々の生活が大きく改善されました。
ファルハさんは「以前は、子どもたちが空腹で泣きながら眠りにつく日もありました。でも今は、十分な食べ物があり、安心して眠れるようになりました」と感謝の気持ちを語っています。
14年続く紛争の影響で、シリアでは人口の85%が生活に困窮し、多くの家族が厳しい選択を迫られています。ユニセフの現金給付プログラムは、子どもたちの健康を守り、家族が尊厳を持って生活できるようにする重要な支援です。
モハメドさん(15歳)
~ 爆発物の危険を伝え、安全を守る支援~
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ダマスカス郊外のブセイメ村で、友人2人とカメラに向かって微笑むモハメドさん。(シリア、2025年2月2日撮影)
「父と一緒に祖父母の家を掃除していたとき、父が屋根の上に奇妙な物体を見つけました」とダマスカス郊外のブセイメ村のモハメドさん(15歳)は回想します。「父はそれを捨てようとしましたが、私は大声で叫んで触らせないように止めました。」
モハメドさんは、ユニセフが支援する「子どもにやさしい空間」で得た知識によって、父親の命を救えたことを誇りに思っています。そこでは、紛争によって残された爆発物の危険性について学ぶ機会がありました。
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ユニセフの支援で設置された「子どもにやさしい空間」で、爆発物に関する啓発のワークショップに参加するモハメドさんと子どもたち。(シリア、2025年2月2日撮影)
「爆発物に関する授業はとても印象的でした。どんなものが危険なのか、見つけたときにどうすればいいのかを教わりました」(モハメドさん)
2015年、シリア紛争の影響でモハメドさんの家族は故郷を離れ、避難を余儀なくされました。「爆撃の音を聞き、村に煙が上がるのを見ていました。悲しみでいっぱいでした」とモハメドさんは振り返ります。2021年にようやく村に戻ることができましたが、かつての家は完全に破壊されていました。それでも家族は少しずつ修復を進め、生活を立て直していきました。
そんな中、2022年にユニセフの支援で「子どもにやさしい空間」が設置され、心のケアや教育を受ける機会が提供されるようになりました。モハメドさんは、ここでの学びを活かして、友人たちにも爆発物の危険を伝えるようになりました。
友人とハイキングをしていたある日、モハメドさんは地面に不審な物体を発見しました。「見つけてすぐに、近づかないようにと注意して、石と赤いシャツを使って危険なエリアをマークしました。その後、地元当局に通報しました」と誇らしげに語ります。
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ユニセフが支援する「子どもにやさしい空間」で学んだ知識を、自宅で母親と共有するモハメドさん。(シリア、2025年2月2日撮影)
母親のモヤサルさんも、「モハメドが残留爆発物に関するパンフレットを持ち帰って、説明してくれました。まるで専門家のようでした」と話します。
今、モハメドさんには新たな夢があります。
「将来は爆発物処理の専門家になりたいです。爆発物は何年も地中に残り、子どもや動物に危険を及ぼします。彼らをそういった危険から守りたいのです」(モハメドさん)
2024年、ユニセフはシリア全土で38万人以上の子どもと6万8千人以上の大人に爆発物の危険性について学ぶ機会を提供しました。
戦争の爪痕が残るこの地で、モハメドさんのように未来を守るための知識を得た子どもたちが、地域の安全を支えていくのです。