ベトナム北部の山岳地帯の村に暮らすリ・チ・ヒェンさん、23歳。
彼女は、今日も中学校で生徒たちにHIV/エイズについて話しています。
話しているのは、自分のこと。
ヒェンさんが実際に経験したことです。
ヒェンさんは、ベトナムで行われているHIVの母子感染予防プロジェクトの恩恵を受けた母親の一人です。
いま、ヒェンさんは、自身の経験を話すことで、HIV感染予防教育に取り組んでいます。 |
■ 平和な村が変わって・・・
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ヒェンさんの村
© UNICEF Viet Nam/2007/S.Tanaka |
ヒェンさんの村は、中国との国境の近くにあります。貧しい村でしたが、人々は農業を営みながら、平和に穏やかに暮らしていました。
村が変わったのは、数年前。中国との国境が開かれ、若者たちが商売に国境を行き来するようになってからでした。以前のような貧しさはなくなりましたが、平和だった村は一変しました。麻薬中毒や、HIVの感染が広まったのです。
ヒェンさんがHIVの感染を知ったのは、初めての子どもを授かって4ヶ月目の定期健診のときでした。夫からの感染でした。彼女は、夫が麻薬を使っていたことは知っていましたが、麻薬を使っている人がHIVに感染している危険があるとは全く知らなかったといいます。
「もう終わりだわ。でも、赤ちゃんはどうなるの?と思いました。絶望していました」と、ヒェンさんは言います。
「感染していると知らされてすぐ、地域の保健員さんが来てくれて、話をしました。私が落ち着けるように助けてくれて、そして、息子にウイルスをうつさなくてすむ方法があると教えてくれたのです」
■ 運命の18ヶ月目
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ヒェンさんと息子のバォ君
© UNICEF Viet Nam/2007/S.Tanaka |
ユニセフが支援する母子感染予防プログラムに参加できたことは、ヒェンさんにとって幸運でした。保健員の言葉を信じて、ヒェンさんは、指示に従い、カウンセリングや母子感染予防のための治療やケアを受けました。
そして、元気な男の子バォ君が生まれました。
新生児の場合、生後18ヶ月にならないと、HIVに感染しているかどうかが分かりません。不安に押しつぶされそうな日々が続きました。
そして18ヶ月目、バォ君はHIV感染していないという診断が出ました。
その日を彼女はこう振り返ります。
「私は生き返った。そう思いました。息子が大きくなるのを見なければ、もっと生きていなければと。支えてくれた保健員さんや家族がいなければ、どうなっていたのか分かりません」
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■「生きる」という選択肢を残したい—ユニセフベトナム事務所 田中愉子さんからの報告
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